上下関係
ハーレム部室内。今日ものどかな一日であり、ただ梅雨の蒸し暑さがハーレム部員たちの気力を奪っていくのだった。
炉々子は扇風機の前でしゃがみ込み、顔から風をあびている。何故、学校の部室に扇風機があるかは考えてはいけない。ハーレム部とは無法地帯である。
「暑~い」
炉々子のぼやきが扇風機のプロペラにより部室内に拡散する。パイプ椅子に座るシソジロウはそんな炉々子に笑いながら提案する。
「そんなに暑いなら、プール貸し切りにして泳ぐか?」
「えっ!プール!?泳ぐ泳ぐ!」
瞳を輝かせる炉々子にゆらぎは苦笑すると首を振る。
「駄目ですよ。水泳部の皆さんが使ってらっしゃるんですから」
「ぶーぶー。みんなで一緒に泳げばいいんだよ~」
「そもそも、水着はあるんですか?炉々子さん」
炉々子は頬を膨らませるとむくれて扇風機を抱え込むように抱きつく。部室内のささやかな涼しさは完全に炉々子に独占されたのだった。
パイプ椅子に座っていた天は雪花に髪をいじられながら、本から視線を外さずに言った。
「大体、プールを貸し切りにするくらいならエアコンを設置すればいいのよ」
「あ、それさんせー」
天の髪をポニーテールに結び終えた雪花は楽しげに笑う。シソジロウは意味深な顔をすると、手を組んで前を向いた。
「それはないな。暑い方が色々と捗るからな」
「はかどる?なにが?」
シソジロウは高名な演説家さながら持論を語った。
「暑ければ、普段着は薄くなるし、なんだかんだ露出が多くなるだろ?俺に言わせれば、エアコンなんて風情のかけらもない唐変木だな」
「結局、そういうこと。あなたって、欲望に従ってしか生きてないのね。猿山の猿と一緒だわ」
「エアコン買おうよ~シソジロウ」
涼を独り占めしているというのにそんな弱音を吐く炉々子に苦笑するゆらぎと港。雪花はそんな炉々子を引きずると扇風機から身体を離させる。ぐでぐでと引きられていく炉々子。
「あ~、雪花ちゃんの人でなし~」
「はいはい。髪の毛くくったら涼しくなるからね」
「ふふ、私もお手伝いしますね」
そういうと、炉々子を取り囲んで髪の毛で遊ぶ雪花とゆらぎ。炉々子はお団子ヘアーにされたり、三つ編みにされたりなどかわるがわる髪型を変えられている。そんなことをしていると、ゆらぎは笑顔でしみじみと言った。
「ハーレム部は本当に平和ですね。私、この部活が大好きです。上下関係なく、みんな仲良しでいられますから」
「わたしも好きー!」
「ふっ、そりゃ俺の作った部活だからな。お前らが好きでいるのは当然だ」
シソジロウは目を細めると、一方を見つめる。
「もっと仲良くなるために、くだけた話し方をしてみないか?……なぁ、港?」
「えっ、ボクですか?」
「ああ。入部して数ヶ月経ったんだし、『先輩』以外の呼び方を模索しても良い頃だろ?」
港は目を丸くしてパイプ椅子に座っている。各ハーレム部員たちはそんな港を楽しげに見つめていた。皆、港がくだけた口調で話し出すのを待っている様子だ。
「ふふふ……」
「まだかな~」
港はそんな他ハーレム部員の声に困ったように天井を向く。
「その……それなら、ゆらぎ先輩も同じだと思うんですけど」
「ふふ、私は性分ですから」
港は困惑したように口をもごもごとさせる。そんな港の周りで、ハーレム部員たちは好き勝手に話をしている。
「やっぱり、ここは『ちゃん』かなぁ。うーん、でも意外と呼び捨てとか似合うかも?」
「わたし、『お姉ちゃん』がいいな」
「私は今のままで構わないわ」
そんなこんな話は平行線をたどり。港は結局、敬語から抜け出せなかったのだった。
「あらあら。残念ですね」
「すみません……ボクには先輩方を呼び捨てにすることは無理みたいです。やっぱり、一番後輩ですし」
港がそういうと、シソジロウはかすかに笑う。
「それじゃあ、俺がお前の『後輩』になってやろうか?」
きょとんとするハーレム部員たちに向かって、説明するシソジロウ。……いつもの戯れの説明だった。
「今から、お前たちの演説を聞いて、一番『先輩』らしかったヤツの後輩に俺はなる。そしたら、その日一日、お前らの誰かの後輩になってこき使われてやるさ」
「たとえばどんなの?」
「荷物を持ったり、肩を揉んだりだな。俺は先輩の命令には逆らわない」
その話を聞き、色めきたつハーレム部員たち。脳内では、めくるめく妄想をくりひろげているのだろう。
そして、演説者が次々と現れる。
「シソジロウくん。私は、先輩としてあなたにお料理やお菓子を作ってあげることができます。それに身の回りのお世話も色々……ふふふ」
「餌付けなんて卑怯な真似、良く出来るわね?この恥知らず」
「シソジロウ!わたしはたっくさん遊んであげられるよ!弟か妹ができたら、そうしようってずっと思ってたから!」
「ぼ、ボクは……えーっと、えーっと!シソジロウせんぱ……じゃなくて、シソジロウに釣りのやり方を教えてあげます!」
「みなっちゃん、急に呼び捨てなんてズルいよ」
シソジロウはわいわいと騒がしい美少女たちを眺めて、楽しげに呟いた。
「ふー、やれやれだぜ」




