理路紺太と美少女
太陽が降り注ぐ児童公園。子供たちがわいわいと走り回ったり、遊具で遊んだりとしている。ひどく平和な光景だ。
……そして、児童公園の外ではまるまると子豚のような体格をした青年が黒いカメラを構えている。理路紺太は愛機の一眼レフを覗きながら、対象をフィルムにおさめていく。彼が撮影対象としているのは三才~十才までの幼女または少女たち。公園を駆け回る少女。滑り台で遊ぶ幼女。「デュフ、デュフフ」その溢れ出るような無防備な愛くるしさに思わず笑い声が口から漏れる。オウフ、これはいけない。紺太は自分を見る幼女たちの保護者の目が厳しくなったのを感じ取り、引き上げることにした。これだから芸術を理解しない人間というヤツは。紺太は今日の収穫物を取り上げられることを恐れていた。ちなみに外聞というものは特に気にしていない。何故なら無職だからだ。
そうして徒歩十分ほど歩き、築三十年のボロアパートへと入っていく紺太。
「ただいま帰還した!」
「おお!ロリロリラブ隊長!成果はどうでござったか!」
ドアを開けるとそこにはチェックのワイシャツをズボンに入れ、はちまきを額に巻いた痩せた青年と萌えキャラののったTシャツを着た厚い前髪が目を完全に覆った陰気な雰囲気の青年がパソコンの前で座って紺太を待っていた。紺太は二人にVサインを送る。歓声を上げる二人。
「ロリロリラブ隊長!流石でござる!!」
「あ……ああ……」
「きゃんでぃおにいさん、ピーマン小作農、前線基地の防衛ご苦労だった!」
紺太は、はちまきを巻いた青年きゃんでぃおにいさんと、陰気な青年ピーマン小作農に敬礼を送る。きゃんでぃとピーマンは敬礼を返す。ちなみにこの呼び名は某大型匿名掲示板で使っているハンドルネームである。三人はとある趣味を介してオフ会で知り合ったのだった。そして、その趣味はというと。ピーマンは分厚いアルバムを棚から出してくると、たたみの上に広げる。……そこに写っていたのは少女と幼女だが、特筆すべきはどの写真にもパンツが写っているところだろう。紺太はアルバムを見下ろし、恍惚とした表情で荒い鼻息を吐いた。
「マーベラス!この角度、この色!ベストショットと言えよう!」
「本当でござるな!ロリータの素晴らしさが濃縮されていると言っても過言ではござらん!」
「あ……あ……」
そう……この三人はロリコンだった。そして、ロリについて熱く語り合う三人。それぞれの目はキラキラと輝いている。紺太にとってはロリというものは人生そのもので、こうして仲間と語り合っている時はなにものにも変えられない至福の時だった。
「いやぁ、新しいおパンツショットはどんなクオリティなのか気になるでござるな」
「うむ、ではきゃんでぃおにいさんに現像任務を与えることにする」
きゃんでぃに紺太はフィルムを差し出す。きゃんでぃは困惑したように両手を振った。
「拙者が現像ショップに行くでござるか?そ、それはちょっと」
「なんだと?」
「実を言うと最近、店員の目が気になるでござるよ……」
紺太は顔を険しくすると、きゃんでぃの首を絞める。きゃんでぃの顔はどんどん青くなっていく。
「貴様は!そんなことだからおパンツ写真の一枚も撮れないと言うのだ~!!」
「ぐぇえ~!!堪忍!堪忍でござる!!」
紺太は働いてはいないが(ちなみに二人はプログラマーとして働いている)、この三人の中ではリーダー格だった。それはひとえに紺太がもっともロリのおパンツ写真を撮ってくるからだろう。三人の価値観はすべてロリでしめられていると言ってもおかしくはない。きゃんでぃの首から手を離した紺太は、新しいフィルムを取るとカメラに入れる。きゃんでぃとピーマンは驚いたように紺太を見た。
「ロリロリラブ隊長、まさか!」
「今日はロリの出入りが多い。おパンツも後数枚狙えるかも知れない」
「なんと勇猛な!隊長!作戦の成功を祈るでござる!」
「あ……職質には気をつけて……」
敬礼をして見送る二人に向かい、親指を立てて見せる紺太。その様はまさしく戦場に出向く漢だった。
そうして、アパートを出て三十分。バスに乗り、アパートからかなり離れた児童公園にやってきた紺太。ここまで来たのは、今日は既にアパート近隣の公園は回っていたからだった。あまり同じ場所でロリを撮って、保護者を警戒させすぎると警察に通報されることがしばしばだ。紺太はもはや、通報されすぎてアパートの周辺の警察官とは顔見知りだった。ロリを撮るためなら警察官に職質されるのもやむおえない。とはいえ、せっかくの撮影日和に派出所に連れて行かれるのは紺太の望むところではない。そんなわけで紺太は今日はやや遠征してめったに訪れない場所まで来たのだった。
その児童公園では、休日ということもあり子供たちがわいわいとはしゃいでいた。紺太は児童公園の中に入り、辺りを見渡した。
「ちっ、オスガキが多いな」
オスガキとは男児や少年のことである。紺太たちは被写体にならないどころか、紺太たちの撮影の邪魔をする少年たちのことをこうして蔑称で呼ぶのだった。大抵の少年たちは紺太のことを舐めきっており、紺太に石を投げつけるばかりかカメラを傷つけようとすることすらあるのだ。この児童公園には長居しないほうがいいかもしれない。ロリ専門カメラマンとしての勘がささやく。
そうして、紺太が引き返そうとしたその時だった。
「いっくよ~!え~い!」
少し舌っ足らずな元気の良い声が紺太の耳に届いた。ロリの声だ。紺太は反射的に声の方にカメラを構える。紺太が覗いたファインダーの先にいたのはブランコを漕ぐロリだった。しかも、ただのロリではない。まるで妖精と見間違うような美しさのロリだ。金色の柔らかそうな髪に、まばゆいばかりに白い肌のすらりとした手足。あの背丈だと、小学校中学年ほどだろうか?はじけるような愛らしい笑顔が妖精ロリの無邪気さを表している。白いワンピースを着ているその成長途中の胸の平らさが紺太の目を奪った。紺太はごくりと喉を鳴らす。千年に一人の逸材がそこにはいた。紺太は興奮であへあへと過呼吸気味になりながら、妖精ロリをファインダーで追う。
妖精ロリは、ブランコを大きく漕ぐと前方に向かって身体を飛ばした。その瞬間、ちらりとワンピースの隙間から覗いたのは……くまさんおパンツだった。
「素晴らしい……なんて素晴らしいんだ……」
鼻からツゥっとしたたるものに気づき、手でこする紺太。鼻血だった。あれだけのものを見たのだから当然だと高揚感と多幸感に身を任せながら思う。紺太はうれし涙を流しながら、妖精ロリに向かって敬礼をする。それは人生最良のおパンツを見せてくれた妖精ロリに対して、ロリ専門カメラマンとしての紺太なりの最高の敬意を表した物だった。周囲では保護者たちがひそひそと紺太を見ている。紺太は苛立ちをつのらせた。これから、妖精ロリの姿をファインダーにおさめなければならないという時に邪魔者が入ったのだ。とはいえ、今通報されてしまったら、このフィルムに残った妖精ロリのおパンツも取り上げられてしまうだろう。紺太は、隊長として……カメラマンとして冷静な判断を下した。戦略的撤退だ。紺太はほふく前進をしながら児童公園の外へ向かって、進んだ。
そんな時だった。
「あー!ぷるピアのみりえるちゃんだ!」
紺太は、はてと不思議に思った。ぷるピアのみりえるといえば、たしか今日着ているTシャツにはぷるピアのみりえるが背中に大きくプリントされていたのだが。
可愛らしい声とともに、足音が響いてくる。反射的に顔を上げる紺太。紺太の目線の先にあったのはくまさんおパンツだった。このおパンツは。紺太の胸は激しく鼓動する。くまさんおパンツの持ち主はしゃがみこむと、紺太と目線をあわせる。そこにいたのは、先ほどの妖精ロリだった。紺太は目の前で妖精ロリを拝めた喜びから、呼吸をすることさえ忘れた。妖精ロリのツーサイドアップに結ばれた髪がゆらゆらと揺れる。それも座り込んでいるので紺太の目線からはおパンツは丸見えである。妖精ロリはにっこりと微笑むと、紺太に話しかけた。
「おにいちゃん、ぷるピア好きなの?」
「あ……ああ……あ……」
言葉がまるで出てこない。恥ずかしながら、頭が真っ白になってしまっているのだ。これではまるでピーマンではないか。紺太は自分に憤った。妖精ロリと話すことは山ほどあるではないか。――好きなおパンツの色は何色かだとか、胸の発達度合いは同級生とくらべてどうかだとか。目の前に妖精ロリがいるというのに、そんな話のひとつも聞けないとは。こんなていたらくではご先祖様に顔向けが出来ない。だが、妖精ロリはそんな紺太に気にする様子は見せずに、ポケットからハンカチを出した。そこにはぷるピアのみりえるとれんがプリントされていた。
「おにいちゃん、鼻血出てるよ?使って」
紺太は妖精ロリからハンカチを受け取ると惚けたように返事をした。鼻血をハンカチで押さえる。ハンカチからはロリの甘い匂いがした。なんと甘美な香りだろうか。紺太はくらくらとめまいがしそうだった。
「はぁ~ロリの匂い、たまらんであります」
「ろりのにおい?」
はたと失言に気がつく紺太。慌てて立ち上がり姿勢を正すと、妖精ロリに敬礼をする。
「ぬ、ぬぉおぉおお!これは言葉のあやでありまして!自分はけして、けしてやましい気持ちを抱いたわけではないのであります!」
そうはいいながらも、鼻からは依然鼻血が流れ落ちている。
「くそっ、このっ憎たらしいケチャップめ!出るんじゃない!おおぅ!」
紺太は遺憾そうに鼻を天に向け、ぴょんぴょんと跳ねるのだった。その様はどこからどう見ても、不審者である。大人から子供まで児童公園中の視線を集めていた。
そんな挙動が不審な紺太に妖精ロリは構わずに笑いかける。
「ふふ、おにいちゃんって、おもしろーい!」
そういうと妖精ロリは紺太の隣でぴょんぴょんと跳ねるのを真似し始める。……こうして、現場は非常にカオスな絵柄になったのだった。
「ぬぉおおおおお!」
「ぴょんぴょ~ん!」
――そうして、十分後。紺太は息を切らせて、地面にひれ伏していた。自宅警備員という職業故の運動不足が原因だろう。
妖精ロリは未だに楽しそうにあたりを跳ね回っていたが、疲れ果てた紺太に気付くと、紺太の前に前屈みになる。そして、頬を膨らませると不満げに言う。
「え~、もう終わり?もっと遊ぼうよ~!」
「……いや、もう限界であります。上官殿……」
「じょーかん?わたしの名前は炉々子だよ!」
ろろこ。なんと胸躍る響きだろうか。紺太は胸にその名前を刻み込んだ。
炉々子は、はじけるような笑顔で紺太の手を取り引っ張る。紺太は炉々子に引っ張られ、無理矢理立ち上がらさせられたのだった。
「ほら!もっとぴょんぴょんしようよ~!ぴょんぴょ~ん!」
「ひ、ひぃぃい~!」
そうして、紺太はそれから一時間以上、炉々子と共にその場で跳ね跳び運動をさせられたのだった。紺太は全身から汗が吹き出て、疲労感でふらふらになっていた。一方で、炉々子はまだまだ元気いっぱいな様子だったが。
だが、カラスが鳴き始め夕暮れに近づいた頃。炉々子は気がついたように言った。
「あ、そろそろ帰らなきゃ!」
地面に四つ足をつき、疲労困憊な紺太に炉々子は可愛らしく微笑む。
「じゃあね、みりえるちゃんのおにいちゃん!また遊ぼうね!」
手を振って去って行く炉々子のひらひらと舞うワンピースを眺める紺太。妖精のようなロリと共に遊べたこと……まるで夢のようなひとときを紺太は噛みしめていた。たとえ、その後一週間全身を筋肉痛に悩まされることとなったとしても、後悔はしないだろう。
「炉々子殿……くまさんおパンツの君……」
そんなこんな、紺太は炉々子と出会ってしまったのだった。
この出会いが、どのような現象を引き起こすこととなるのかはまだ定かではない。




