シソジロウと炉々子
衣替えが始まって数日。梅雨のじめじめとした空気が身体に張り付く。生徒たちがぞくぞくと入っていく校門の前。そこに一台の黒塗りの車がとまる。一目で高級車と分かるそれは毎朝それに乗ってくる生徒のことを校内中に知らしめていた。後部座席の扉が開く。
車から出てきたのはシソジロウと炉々子だった。運転席にいるヤニ臭そうな中年男性は扉が閉まったことを見届けると車を発進させたのだった。何故、炉々子がシソジロウの家の車に乗っていたのかと言うと、通学路でシソジロウの家の車と偶然会ったからだった。ハーレム部員たちは日頃こうして、運転手に車で送り迎えさせ通学するシソジロウに誘われ、車に同乗することがよくあった。
「うー暑ーい」
炉々子は校門前でぱたぱたとワイシャツをスカートから出して前を持ってあおいでいる。その行動に登校中の男子生徒たちの目線は自然と炉々子へと向かう。
「2-Aのロリ美少女こと小針炉々子ちゃんだ!」
「天使だ……」
「くそ、後もうちょっとで見えるのに!」
「むしろスカートをあおいでくれないものか」
男子生徒たちが徐々に低い姿勢になりながら炉々子のワイシャツの中を見つめる。
「見え……見え……っ」
そんな中、あおぐ手は止まった。固まる男子生徒たち。
シソジロウが炉々子の手を取ったのだった。
シソジロウは涼しい顔で炉々子に促す。
「制服はちゃんと着ろよ?」
炉々子は素直にうなずくと、ワイシャツをスカートの内側にしまった。
男子生徒たちは悲しげに落胆したのだった。
そうして校舎に向かって歩き出す二人。炉々子はきらきらとした若葉色の大きな瞳をシソジロウに向けると上目遣いに言う。
「もうすぐ夏休みだね!シソジロウ!」
「はは、忘れてるかも知れないがテストもあるんだぞ?」
「ぶーぶー!それは禁句だよー!」
シソジロウはむくれる炉々子に目を細めるとたずねる。
「夏休みの予定はあるのか?」
「うん!ゆらぎちゃんの妹のるっこと虫取りに行くでしょ?あ、後かき氷も食べたい!それにそれにぷるピアのヒーローショーも見に行きたいな!」
「ふっ、そうか」
炉々子は指折り数えると楽しげに言う。ちなみに炉々子はシソジロウと同じ二年生である。それにしては幼い言動をしているが、周囲の人間は炉々子の人柄と暖かく見守っているのだった。炉々子は長い髪を揺らしながらシソジロウを見上げる。
「でも……一番したいのはね」
そういうとシソジロウの手を引っ張り段差の前まで連れて行くと、段差に乗り、シソジロウと目線を合わせる炉々子。
「夏休みもシソジロウと一緒にいたいな」
ひまわりの様な笑顔を見せる炉々子にシソジロウは顔をほころばす。
「じゃあ、かき氷を何杯でもおごってやるよ」
「わーい、シソジロウ。大好きー!」
喜びを体中で表すとシソジロウに抱きつく炉々子。シソジロウは少しよろけながらもそれを受け止め、やれやれと微笑んだのだった。




