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ハーレムに囲まれる俺



 桜舞う季節。坂の上には真新しい、格調の高い設計のなされた校舎が立っている。ここは私立紫蘇高校。名前は馬鹿げているがこう見えて、そこそこの偏差値を誇る高校である。昼休みのためか、ブレザーを着た生徒たちが活気あふれる様子で校舎内を行き交っている。

 屋上。広々としたそこには昼食を取る生徒たちや昼休みを楽しむ生徒たちがいる。そんな中、屋上にいる男子生徒たちは、先ほどからちらちらと見ないように、それでいながらも羨望の眼差しを隠しきれない様子である一角を注目していた。その視線の先にいるのは五人の華やかな美少女たち。そして、彼女らに囲まれた少年だった。


「はい、シソジロウくん。あーん」


 箸につくねを持ち、少年シソジロウの口元まで運んでいくオレンジ色の髪に柔和な鳶色の瞳をしたおっとりとした雰囲気の美少女。リボンの色は三年生の青色である。シソジロウはぱくりとつくねを頬張ると、満足げに目を細める。


「ゆらぎ、美味ぇな。また腕を上げたな」


 聖谷ひじりやゆらぎは嬉しそうに微笑む。すると、隣にいた小学生のように幼い容姿の金髪を小さくツーサイドアップにした美少女が声をあげる。


「えーっ、いいなっいいなっ。ゆらぎちゃんのおかず、わたしも食べたいなっ」

「おう、食え食え。炉々子。お前はたくさん食って成長しなきゃな。ゆらぎを見習って」

「わーい!うん?ゆらぎちゃんを見習って……?」


 不思議そうな小針こばり炉々ろろこの視線はゆらぎの箸を持つ手を通り越し、その張り詰めんばかりに膨らんだブレザーに包まれた胸へと向かう。頬を膨らませるとシソジロウに抗議の声をあげる炉々子。


「むー!わたしは小さくないよ!」

「いや、小さい。というか薄いな。電話帳がゆらぎだとすれば、お前はスーパーのチラシくらいだ」

「そ、そんなに薄くないよ!?」

「いいや。薄い。とはいえ、ぺらぺらも悪くないよな。走るときとか空気抵抗がなくってさ、むしろ風に乗ってどこまでも行けそうだよな。ははっ」

「うわーん、雪花ちゃーん!」


 黒髪のなだらかなロングヘアをした親しみやすそうな美少女に泣きつく炉々子。黒鈴雪花くろすずせっかは軽く笑いながら、炉々子の頭を撫でる。


「ろろっちゃんは小さい方が可愛いと思うよ?」

「ほんと?」

「うん、ほんとほんと。ねぇ、みなっちゃんもそう思うでしょ?」

「えっ!?あっ、はい!炉々子先輩はそのままでもとても愛らしいと思います!」


 もじもじとミニスカートを引っ張っていた野湖音港のこおとみなとは桃色のボブカットにした髪を揺らし、驚いたように目を丸くして答えた。港は、外見は美少女だがこうみえて男である。今年入学したばかりの一年生である港だったがシソジロウの魔の手にかかり……もとい、シソジロウに誘われて、このハーレムの一員となったのだった。


「はぁ、足がすーすーして落ち着かないな……」

「慣れだよ慣れ。せっかくの美少女なんだから、ミニスカート履かないとな」

「は、はい……」


 すると、本を読んでいた銀髪のロングヘアの美少女が本を眺めながら呟く。


「男にスカートを履かせて喜ぶだなんて、度し難い倒錯っぷりね。理解に苦しむわ」

「はは、俺は国際派なんだよ。スコットランド人も昔はスカートを履いてただろ?」

「ここは日本よ。公でそんなことをする人間はすべからず変態と呼ばれると思うけど?」

「まぁまぁ、てっちゃん。そのくらいにしようよ」

「そもそも、ハーレムなんて作ってしまうくらいですもの。強すぎる性欲を持てあましてるんじゃない?あげくは犯罪行為に走りそうね。刑務所の中でも元気で過ごせるといいわね」


 未だ、本から顔を上げない毒倉天どくくらてんは雪花の制止の声も聞かずに喋り続ける。雪花は「おりゃ」っとかけ声をあげると天の口にプチトマトを突っ込む。天は小さく目を細めるとシソジロウへの攻撃を止めたのだった。


「そうそう。この前、買い物に行った時にね、すっごく可愛い赤ちゃん抱っこさせてもらったんだぁ」


 雪花はそういうと最近あった良いことを話し出す。子供が好きなゆらぎと意気投合する雪花。


「ゆらっちゃんは最近、何か良いことあった?」

「私は……シソジロウくんにおかずをあげたことでしょうか」


 きょとんとなる雪花。ゆらぎは恍惚とした表情で自分の箸を眺める。


「最近気付いたんです。これって間接キス、ですよね」


 一瞬の間の後、美少女たちの瞳は鋭くなる。そして、美少女たちは次々にシソジロウに向かって、おかずを持った箸や食べ物を近づけていく。


「しそっちゃん、ひじきいる?いるよね?」

「シソジロウ、わたしのクリームパンちょっとだけ食べて!」

「先輩、えっと……ボクのはさくらんぼゼリーしか残ってないんですけど」

「一口恵んであげる」


 シソジロウは美少女たちに囲まれ、ため息をつくと呟いた。


「ふー、やれやれだぜ」

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