最終話 これからもずっと一緒に
「ラキル、俺――――撫子を助けたい」
『ああ、わかっているよ大河。まずは先立つものが必要だろうね――――彼女は五億と言っていたが――――お金はいくらあっても困ることは無いし』
「何とかなるのか?」
『ふふ、私はこの世界のあらゆる情報に瞬時にアクセス出来るんだ。その情報を使って儲けることなど朝飯前――――ちなみに大河が寝ている間に私が稼いだ金が口座に入っているはずだ。確認してくれ』
俺が寝ている間にそんなことをしていたのか――――
恐る恐る預金口座を確認してみる。
えっと…一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億――――え……ちょっと待った。
「ラキルさん……なんだかゼロの数がおかしいんですけど?」
『ん? おかしいな……五兆円は入っているはずなんだが――――足りなかったか?』
足りてます。
『というわけでお金の面はクリアだ。問題は――――彼女の道場の土地を所有している不動産会社だな。少し調べてみたが――――裏の世界と繋がりがあって、汚い方法でのし上がった真っ黒なヤツが経営している――――おそらく撫子の件も騙されたか嵌められたんだと思う』
「金を払って終わりにしようと思ったけど――――そんな奴らに一円だって払いたくない」
『そうだな――――仮に金を払ったとしても――――言いがかりをつけてきて永遠に金づるとして利用されることになるだろうな』
「――――ラキル」
『わかってる――――病巣は根っこから駆除しないと――――いけない」
「はあっ!? あの土地を一円で売れだと? お前頭おかしいんじゃないか?」
「悪いことは言わない、一円でも値が付くうちに売っておいた方が賢明だぞ?」
「ガキが……舐めやがって。おい、お客さまがお帰りだ!!」
ゾロゾロとガラの悪い連中に囲まれる。
「何のつもりだ?」
「怪我しねえうちに帰れって言ってんだよボケ」
「そうか――――言っておくが――――俺は強いぞ?」
「ふざけんなガキがっ!!! やっちまえ」
「あ、あああ……そ、そんな――――馬鹿な……あいつ等はプロレスラー崩れなんだぞ!? それが――――あっけなく――――」
「あのさ、ここだけの話なんだけど――――アンタ裏の世界に不義理働いてるよな? どこの誰が告げ口したかは知らないけど、お前のしでかした失態、全部バレてるんだよな……今頃、お前さんを消すために動き出してるとかいないとか。早く逃げた方が良いんじゃないの? まあ、土地の権利書売ってくれるんなら――――逃げる手伝いしてあげなくもないけど」
『上手く行ったな大河』
「本当は一円も払いたくはなかったんだけど仕方ない」
『あの男、逃がしてしまって良かったのか?』
「良いんじゃないの、あんな男のために手を汚すとか気分悪いし、すぐに死なれたら俺が疑われるだろ?」
『たしかにな――――まあ逃げきれるものでもないだろう――――自業自得だ』
「ところで――――」
「ひゃ、ひゃいっ!? ど、どうか命だけは――――」
あの男の用心棒たち――――
元プロレスラーや格闘技有段者たち――――まあまあ強かった。
「仕事無くなったんだろ? 雇ってやるよ。いくら貰ってたんだ?」
「えっと…月に三十万です」
……微妙な金額だな。
「わかった、月に五十万出そう」
「ま、マジですか!!」
歓喜に沸く元用心棒たち。
「良いか、俺の彼女を危険から未然に守ることがお前たちの仕事だ。接点を持つことは許さない。万一彼女の身に何かあったら――――わかっているだろうな?」
「は、はい、命に代えても!!」
彼女を守る役割は、段階的にきちんとした組織にしようと思っている。
俺がいくら強くても――――彼女のすべてを守ることなど出来ないから。
『大河、私が考案した監視&護衛に特化したシステムも開発するつもりだから安心してくれ』
地球よりもはるかに進んだ文明から来たラキルが協力してくれれば安心だ。
「おはよう撫子!!」
「おはよう大河、昨日は――――ありがとう。でもね、無理しちゃ駄目だからね?」
「ああ、その件なんだけど――――解決した」
「そうなんだ、さすがだね大河――――って、えええええっ!?」
あの冷静沈着な撫子がこれだけ驚くのはレアだな。動画に摂っておきたかった……
『大河、安心しろ――――ちゃんと記録してある』
ラキルさん――――グッジョブ
「ちょっと、冗談なら怒るよ」
「これが本当なんだな~、はいコレ、土地の権利書」
「嘘……本当に……本当に運命変えてくれたの?」
「ああ変えてやった」
「馬鹿……無茶したんでしょ?」
「してないよ」
「昨日は不動産屋定休日だったはずだけど?」
「自宅に押し掛けた」
「やっぱり無茶してるんじゃない!! 怪我とかしてない?」
「大丈夫だ」
心配そうに俺の身体を見ていた撫子。大丈夫そうだとわかると――――ほうっと息を吐いた。
「私……その権利書に見合う価値なんてないよ?」
「逆だ。撫子に見合う価値なんて存在しない。だから――――この権利書を使って付き合ってもらうつもりもない。このことは忘れてくれ」
「……大河……ありがとう」
「撫子、忘れたか?」
「え? う、ううーん……ま、まだかな?」
「くそ、待つのが辛すぎる!!!」
「まだ三分も経ってないよ!!」
「仕方ない――――忘れたという体で進めよう」
「わりと雑っ!?」
「だって今日は付き合ってる撫子と一緒に登校したかったから!!」
「あはは……なんかごめんね」
「おはよう天野、大和さん」
「おはよう天野っちと大和っち」
「おはよう二人とも」
「おはよう、昨日は楽しかったね」
「はうっ!? お、おい天野、今日の大和さんどうなってんだよ……笑顔の破壊力がヤバいだろ……しかも腕組んでるし……!?」
「たしかに……同性の私ですらヤバいかも……天野っちと何かあった?」
「ああ、色々あって俺たち付き合うことになったんだ」
「うん、色々あって付き合うことになったんだよ」
「……色々ってなんだよ?」
「めっちゃ気になるんだけど?」
「ごめん、忘れた」
「ごめんね、忘れちゃった」
ごめんな、親友のお前たちにも――――いや、だからこそ言えない。
「はああ!? なんだそれ、まあ……二人が良いならそれで良いけどさ」
「ふーん……なんか怪しいなあ。まあ良いけど」
どうやら誤魔化せたみたい……かな?
「ところでさ――――天野っちは大和っちのチア姿とか興味ないかな~?」
「あります桃さま!! めっちゃありますです」
「そうだろう、そうだろう。実は秘蔵写真があるんだが――――一枚五万円で譲っても――――」
「安い、買った!!」
「売るなっ!! そして買うなっ!!」
「だって見たいじゃないか」
「ば、馬鹿……そんなの……これからいくらでも見せてあげるわよ」
真っ赤な顔でそんなことを言う撫子がマジで可愛い。
出来るなら彼女のすべてを独り占めにしたいけど――――俺にはラキルがいるからな。
『心配するな――――私は女だ――――』
えええええっ!! ラキルって――――女だったのかよ?
いや――――それはそれで別の問題が――――
『それなら二人で一緒に乗り越えて行けばいい。私たちは――――これからもずっと一緒に生きていくのだからな』
ああ――――そうか、そうだよな。
これからもよろしくな、ラキル!!
『ああ、よろしく大河』