第七話 お部屋デート?
「――――というわけで撫子も行くことになったから」
「ご迷惑でなければ」
ぺこりと深くお辞儀をする撫子。
「ま、マジか……天野お前――――マジで大和さん連れて来たのかっ!?」
「あはははは……き、吉備野桃乃だよ~、よろしくね大和っち」
どうやら二人とも本当に連れて来るとは思っていなかったみたいだ。
「今日は親いないから上がって~」
桃の家は学校から徒歩十五分の好立地だ。両親ともに共働きなので、大抵留守にしているらしい。
「ねえ大和っち、こんなこと聞くのアレなんだけど、なんで来てくれたの?」
「……貴女のチア姿とやらに興味があったから」
「ひぃっ!? そんな大層なものじゃ――――」
「冗談よ。ただ大河の勢いに乗せられただけ」
「あ、あははは、なんかわかるかも~」
「まさか大和さんと一つ屋根の下――――同じ空気が吸えるなんて――――よし、深呼吸――――」
「太郎死ねえええ!!」
「ぎゃあああ!!」
「……見ているだけで面白い二人ね」
「だろ? よし、俺も深呼吸――――」
「やめなさい」
「ふふふ~、どうよ天野っち? 私のチア姿は!!」
「控えめに言っても天使だな。目の保養だ」
「きゃああん、天野っち、本当のことだからって言いすぎだよ~。太郎もなんか言いなさいよ」
「もう見慣れたからなあ……かわいいかわいい」
「なんかムカつく」
「……ずいぶんスカート短いんだね、吉備野さん恥ずかしくないの?」
「あはは、大丈夫だよ~大和っち、見られても良い奴履いてるから」
「そうなのか、見ても良いか?」
「大河っ!? 何言ってんの!?」
「ふふふ、天野っちなら良いよ、見せてあ・げ・る、はい!!」
「なるほど……こうなっているんだな。しかし普通の下着と変わらないように見えるが――――」
「き、吉備野さん……アンスコ履き忘れてるけど……」
「は……? えええ!! 嫌あああ!!」
「くっ……殺せ」
激しく落ち込んでいる桃。なんか悪いことしちゃったな。結構ガッツリ見ちゃったし。
「まあそう落ち込むなよ桃、別に見られて減るもんじゃないんだから」
「お前が言うなっ!!」
「桃、お前のおかげで俺は生きてて良かったって思ったんだ。だから――――ありがとう」
「天野っち……」
「天野……お前馬鹿だろ?」
「太郎は黙ってろ」
「吉備野さん……とても綺麗だったよドンマイ」
「大和っち……」
「ははははあ!! 桃、復~活っ!!」
元気になって良かったな桃、色々見えてるけど――――見なかったことにしよう。
「ねえ大和っちもチア着てみない?」
「私はいいよ、似合わないだろうし」
「そんなわけないじゃん、大和っちが似合わなかったら世界中の人が似合わないって」
「でも見せるのはちょっと――――」
「じゃあ男どもには見せないということで!! それなら良いよね?」
「……まあ、それなら」
マズい……女子たちの会話が聞こえてしまう。
正直見たいが太郎には見せたくない。
『すまない大河、透視能力は私の力では――――』
気にしないでラキル、そんな卑怯な真似するつもりないから。
しばらくして部屋から出て来た二人だったが――――
「ご、ごめんね――――私その――――着痩せするタイプだから――――」
「う、うん……そう……だね、なんか生きててごめんね……」
桃が滅茶苦茶落ち込んでいる。
「太郎クン、桃を慰めないと」
「任せとけ」
「桃、俺は貧乳大好きだぞ!!!」
「死ねえええええ!!」
桃の右ストレートが太郎クンの顔面を的確に撃ち抜く。
「さすが彼氏だな、一発で元気になった」
「あ、あははは……そうだね」
「じゃあまた一緒に遊ぼうね、今日はとっても楽しかったよ大和っち」
「うん、また明日学校で。私も楽しかった」
撫子も桃となんだかんだ仲良くなったようで嬉しい。
「じゃあな、また明日学校で」
「ああ、また明日」
太郎クンはこのまま桃の家にもう少し残るらしい。
俺たちは電車に乗るため駅へと向かう。
「大河……誘ってくれてありがとね、楽しかった」
「だから言ったろ? 大丈夫ってさ。まあ、俺も今日知り合ったばかりだけど」
「あはは、たしかに」
昨日までお互いの存在すら知らなかった二人が――――こうして一緒に並んで夕日を眺めている。
この世界は――――こんなに奇跡に満ち溢れているんだなって――――今は思う。
数えきれないほどのありえない確率が絡み合って――――日常が紡がれているんだ。