第六話 放課後
「撫子いるか?」
放課後、隣のクラスに撫子を探しに行く。
「うおっ!? お前――――たしか隣のクラスの天野……」
「え? 天野君来てるのっ!! ヤバい……めっちゃカッコいい!!」
「天野君……今日予定ありますか?」
おお……なんだか大事になってきたぞ。
「大和さんならたぶん図書室にいると思うけど」
真面目そうな雰囲気の――――たぶんクラスメイトから委員長とか呼ばれていそうな女子が親切に教えてくれる。
えっと――――この子たしか……
「教えてくれてありがとう――――葵」
「どういたしましてって――――なんで私の名前――――っていうか名前呼びっ!?」
「あ、葵っ!? しっかりして!! なんで真っ赤なのよ!!」
「え……もしかして並行世界の私は天野くんの彼女で、いつの間にか入れ替わっていた……!?」
「戻って来て葵っ!? あ、天野君、葵に一体何したのよっ!?」
「ごめん咲、ただ名前を呼んだだけなんだが」
「さ、さ、咲……ふえええっ!?」
これ以上長居すると騒ぎが大きくなりそうだ。
それにしても――――今日一日で二クラス分の顔と名前、完璧に覚えてしまった。
これもラキルと同化したおかげで記憶力とか上がっているせいだろうな――――
校内の地図も完璧に頭に入っているから、図書室の場所もわかる。
まあその気になれば校内にいる撫子の声を探すくらい出来るんだけど、それをやると結構疲れるし、聞いてはいけない声まで拾ってしまう。
「ここが図書室か――――」
さすが高校の図書室は大きいんだな。俺は小学校の図書室しか知らないから。
「撫子」
「ああ、何か用大河?」
図書室の中で重そうに本を抱えて運んでいる撫子と目が合った。
ただでさえ知的な雰囲気の彼女が図書室という非日常な異世界に佇んでいる姿は――――控えめに言っても女神だ。世界中を探しても――――彼女ほど本が似合う人はいないと断言できる。
「手伝うよ」
「ありがと、そこに積んである奴向こうに運んでくれる?」
力仕事と整理能力なら得意とするところだ。あっという間に終わらせる。
「一人でこんな仕事をしているのか?」
他に人影は見えない。委員会――――というわけでもなさそうだけど
「まあね、その代わり入れ替えになる本を貰えるからメリットが大きいの」
「撫子は本が好きなんだな」
「うん……大好き」
そういって本を抱きしめる姿に見惚れてしまう。俺はやっぱり撫子が好きだ。
「撫子――――好きだ」
「いきなり何っ!? っていうか隙あらば告白するのやめなさい」
「悪い、不愉快だよな」
「べ、別に不愉快っていうわけじゃないけど……」
『大丈夫だ大河、口ではやめろと言っているが、悪くは思っていない』
ラキルがすごく頼りになる。
「それで? 別に手伝いに来てくれたわけじゃないんだよね、私に何か用があったんでしょ?」
「そうだった、今日一緒に桃の部屋に行かないか?」
「は? 桃って誰? というかなんで私が?」
「大した理由じゃない、放課後も撫子と一緒に過ごしたい、あわよくば俺の友だちとも仲良くなってもらってより深い関係になれれば良いなと思っただけだ。ちなみに桃は同じクラスの吉備野さんで俺の親友の太郎の彼女だ」
「……はあ……なるほどね、色々と言いたいことはあるけど――――大河のそういうところ嫌いじゃない」
「俺も撫子のそういうところ好きだ」
「だから――――まあいいか。でも――――私なんかで良いの? 私基本人見知りだから全然喋らないし面白いことも言わないし、流行りとかにも疎いし――――居ても邪魔だと思うんだけど?」
「大丈夫、そういうこと気にする奴らじゃない」
「私が言ったこと否定はしないんだ。ふふ、変な奴。良いよ、手伝ってもらったから早く上がれそうだし今日は特に用事もないし」
よし、一緒に行く約束は取り付けた。
「ところで――――その桃って子の部屋で何するの?」
「ん? 桃のチア姿を拝ませてもらうんだけど」
「……それって私必要?」
何回見ても撫子のジト目は最高に可愛いな。
「当たり前だろ、それに――――あわよくば撫子のチア姿を見れるかもしれないなんて少ししか思ってない」
「それは無理」
「だよな、撫子のそんな素敵すぎる姿を桃はともかく太郎に見せるわけにはいかない」
「……二人だったら見られるという前提なんなのっ!?」
頭を抱えている撫子も可愛いな。
「ところで太郎って誰だっけ?」
「桃の彼氏で俺の親友」
「ああ……そうだったね、でも今日会ったばかりでもう親友なんだ?」
「親友になるのに時間は関係ないだろ?」
「あはは、たしかに。キミはそういう人だったね」
これは――――褒められているんだろうか?
『呆れられているんだよ大河」
いつも教えてくれてありがとうラキル。
「そういえば撫子は部活何に入っているんだ?」
「私? 文芸部だけど」
「文芸部? 何か意外だな、スポーツ万能だって聞いたからてっきり運動部なのかと」
「私、実家が道場やってて師範代もしているから時間に融通が利く文芸部の方が助かるの」
「そっか、じゃあ俺も文芸部入ろう」
「はあっ!? 大河はバスケ部入れば? その気になればプロ入り出来ると思うし」
「興味ない。俺は一秒でも長く撫子と一緒に過ごしたいから」
あれ? なんか黙っちゃったな。
「――――好きにすれば」
今の――――何だったんだろう。