第五話 再会
午後の体育は隣のクラスと合同のバスケだ。
「撫子、今朝はありがとな」
「こちらこそ。クラスはどう? 少しは慣れた?」
普通に会話しているだけなんだが、周りの視線がすごいことになっている。
『お、おい……大和さんが男と話してる……だとっ!?』
『ちょっと、あのイケメン誰よ!?』
『アイツが噂になっている男か――――少しだけ負けた』
『馬鹿言ってんじゃねえ、完敗だよ完敗』
まあ最初だけだと思うが全部聞こえるっていうのも疲れる。
「あ、ところで撫子に聞きたかったことがあるんだけど」
「何?」
「彼氏っているのか?」
「……あの、このタイミングで聞かなければならないことかな?」
これ以上ないほどのジト目で睨まれた。そんな顔も可愛い。
「ああ、大事なことだからな」
「はあ……いないけど?」
「マジで? よし、バスケ頑張って撫子の好感度上げるぞ!!」
「――――聞こえてるんだけど?」
「そりゃあ聞こえるように言ってるからな」
「――――好きにすれば?」
「ああ、好きにする」
「おい……またスリーポイント決めたぞ……」
「っていうか……バスケ部の連中天野に触れることすら出来ていないんだが――――」
「ねえ……あれってダンクシュートっていうんだよね? 生で初めて見た……」
ラキルと同化したおかげで――――身体が羽のように軽い。周りが止まっているようにすら感じる。
「撫子!! どうだった? 好感度上がった?」
「……大きな声で馬鹿じゃないの? まあ……すごかったけど。大河ってバスケやってたんだ――――」
「いや、バスケやったの今日初めてだけど?」
「はあっ!? 初めて? 冗談でしょ?」
「ほら、俺病気でずっと寝てたから――――でもバスケの試合とか映像で見てたし、漫画も読んでたから――――」
「そんなんでバスケ出来るようになるかっ!!」
「出来たけど? まあそれは良いんだけど――――好感度上がったかな?」
「……なんでそんなに好感度上げたいのよ」
「撫子が好きだから――――もっと俺のこと好きになってもらいたいだろ?」
「今――――授業中なんだけど?」
「知ってる。でも――――大事なことだから」
もし――――今を逃したら――――撫子が他の誰かと付き合ってしまうかもしれない。
それは――――嫌なんだ。
「そうだね――――授業中ということを考慮するとプラマイゼロかな。学生の本分は学業だよ大河」
「うむ、下がってないなら良しっ!!」
「……無駄にポジティブ」
「天野お前……授業中に告るとか頭どうかしてるんじゃねえのっ!?」
どうやら会話の内容はバッチリ周囲に聞かれていたらしい。太郎がなぜダメージを受けているのかよくわからないけど。
「情熱的だねえ天野っち、私が大和さんだったら惚れてるね!!」
「マジか!! 好感度上がらなかったから少し落ち込んでいたんだが――――モチベーションアップしたよ」
「あはは、頑張れ応援してるから!!」
「っていうかそれ以上モチベーション上がるのか? お前実は地球外生命体だろ?」
太郎が思っていたよりも鋭い件。うん、半分合ってる。
「おい……天野」
「おお、今日初めてバスケをやった天野に完膚なきまでに叩きのめされた次期バスケ部エース候補の剣崎君じゃないか」
「その説明口調ヤメロや鬼岩っ!?」
ああ、剣崎君か。撫子に良いところを見せようとして悪いことをしてしまった。
「ごめん――――大人げなかったね」
「てめえ天野、喧嘩売ってんのか!? ってそうじゃない、お前さ、バスケ部入るつもりないか?」
バスケ部? ああ――――そうか――――部活あるんだ
「ごめん、今はまだ決めてないんだ、どんな部活があるのか知らないし」
「そっか、まあ考えておいてくれよな、お前が入ってくれれば――――まじで全国狙える」
全国か、なんか青春って感じで良いな。せっかく元気な身体になったんだから、色んなことをやってみたい。
「太郎と桃は何の部活に入っているんだ?」
「俺はサッカー部、桃はチアだな」
「えへへ、天野っち私の応援している姿見たい?」
「見たい、ぜひ見てみたい、絶対に可愛いだろ?」
「もうっ……特別に見せてあげるから――――今日私の部屋に――――来て。太郎は来ても来なくてもいいけど」
「絶対に行くからっ!! っていうか今日会ったばかりの男を部屋に呼ぶなっ!?」
「天野っちは友だちでしょ?」
「ああ、友だちだな、なら仕方ないな」
二人とも――――ありがとな。
「それなら撫子も誘ってみるか」
「来るわけないだろっ!? 馬鹿なのかお前は」
「あはは、さすがにそれは無いと思う――――よ、天野っち?」