第四話 友人
「大河は何組なの?」
「俺は――――A組だな」
「私はB組だから隣だね」
さすがに同じクラスというのは出来過ぎだろう。ちょっと残念だが仕方がない。
「何かあったらいつでも来て」
「ありがとう」
撫子と別れて教室に向かう。
転校生では無いので先生に紹介してもらえるわけじゃない。この状況、以前なら緊張して教室に入れなかっただろうが、今はラキルの影響なのかあまり緊張することもなく平常心でいられるのがありがたい。
「おはよう」
教室に入ると同時に――――先手必勝こちらから挨拶だ。こういうのは第一印象が大事だからな。
俺に気付いたクラスメイトたちが一気に騒ぎ始める。
「え……誰あのイケメン!?」
「あんな人このクラスにいたっけ?」
「はあ……素敵、絶対モデルやってるよね? 背、めっちゃ高い……」
「おい、マジであれ誰なんだよ!?」
「あれ大和さんと一緒に登校して来たイケメンだよ」
「え? まさか大和さんの彼氏?」
「うわあ……なんか戦う前から負けた……」
「遺伝子レベルから勝てる気がしない……」
予想通りというか予想以上にクラスメイトから男女問わず注目はされている――――んだが――――
遠巻きに見ているだけで誰も直接話しかけてこない。俺が何かするたびに悲鳴やため息が上がる。動物園のパンダの気持ちが少しだけわかったような気がする。
まあ……話しかけてこないのも当然か。自己紹介もまだだしな。
「よお、もしかして転校生? 俺は鬼岩――――名前は太郎、よろしくな」
おお……本当にいるんだな。漫画やアニメで必ず登場するコミュ力お化けの陽キャ。金髪にピアスか……苦手なタイプのはずなんだけど気にならない。むしろ話しかけてくれてありがたいよ。
「俺は――――天野大河だ。今日初めて登校したけど転校生じゃない」
「そっか、おっ、席俺の前じゃん、よろしくな天野」
「へえ、病気で――――そりゃあ大変だったな、わからないことがあったら何でも聞いてくれ天野」
「ありがとう太郎クン、見た目と違って優しいんだな」
「一言余計だ。それとなぜクンを付ける!?」
「え? なんかその方がしっくりくるからだけど。カワイイし」
「か、カワイイ言うなっ!?」
「あはは、太郎はカワイイよね~わかる~!!」
会話に入って来たのは、桃色の髪に太郎クンとお揃いのピアスをした――――肩ぐらいまでのボブカットの女子。
「よろ~、私は吉備野 桃乃――――太郎の彼女やってる。それにしても――――天野っちめっちゃイケメンだよね……うわあ……肌めっちゃ綺麗だし――――まつ毛なっがっ!? 髪サラサラ――――女の敵か!!」
「えっと……桃も綺麗だぞ?」
「うわっ!? ち、ちょっと待て、いきなり破壊力抜群の爆弾投げるなっ!! ただでさえ不安定な太郎への想いがぐらんぐらん揺れちゃうから!!」
「おいっ!? なんとかしろよ天野!! お前のせいで桃の乙女心が揺れてるだろうがっ!!」
「はあ……しょうがねえな――――」
「おい、桃――――」
「ひ、ひゃいっ!?」
「勘違いすんなよな、お前は可愛いし優しいし魅力的だけど何とも思ってないんだからな」
「ええええっ!? 天野お前わざとか? わざとなんだな?」
「あうう……ねえ太郎、私天野っちに乗り換えて良いかな?」
「駄目に決まってるでしょ!! 天野も何か言って――――いや、お前は黙ってろ、いや、黙っててください」
「あはははは」
楽しいな。こんな学校生活が送れるようになるなんて――――考えてもいなかった。
ありがとうラキル――――キミのおかげだよ
『それは――――お互い様だよ――――こちらこそありがとう大河』
「大変だったな天野、疲れたんじゃないか?」
「あれからクラスの連中に質問攻めになってたからねえ」
休憩時間、教室を脱出して中庭に避難する。
「そうだな、少し疲れたかも」
「ところでさ、今朝大和さんと一緒に登校してきたってマジ?」
興味津々な様子で桃が尋ねてくる。
「桃は撫子を知っているのか?」
「うわっ!? な、名前呼びっ!? そ、そりゃあ知ってるって。というか知らない奴なんてこの学校にいないから」
「へえ、そんなに有名人なんだ」
「超美人で成績も常に学年一位、スポーツ万能で噂だと武術も極めているとか――――まあ……いわゆる完璧超人を絵にかいたような存在だな」
太郎クンがすかさずフォローしてくれる。
「ふーん、他のことは知らないけど、見た目だけなら桃も負けてないと思うけど」
「きゃああん、天野っち好き♡」
「天野おおおお、貴様、狙っているのか? 桃を狙っているのか? やらんぞ絶対に」
「私はアンタのものじゃないから!! くっ……出会う順番が逆だったら――――」
「真剣に悩むのヤダあああ!!! 桃おおおお!!!」
「ああウザい、心配しなくても別れるつもりはないから――――今のところはね、せいぜい頑張るのだよ太郎」
「命懸けで頑張る所存であります」
「というわけだからごめんね天野っち、心はあげられないけど、身体ならいつでもあげるから――――」
「うわあああん」
「マジ泣きっ!? 引くわ」
この二人、本当に仲が良いんだな。
それにしても出会う順番か――――
「なあ、撫子って彼氏いるのかな?」
「さあ? 告白は全部断っているみたいだし、男と一緒にいる姿も今朝をのぞけば聞いたこと無いからいないんじゃないの?」
「俺は婚約者がいるとか聞いたことあるけどな? だから付き合うつもりがないんじゃないかって、あくまでも根拠のない噂だけどな」
「そっか――――じゃあ本人に聞いてみるか」
「おいっ!? お前のその謎の行動力はどこから来ているんだっ!? そもそも何で一緒に登校してきたんだよ?」
「え? ああ、朝ガラの悪い連中に撫子が絡まれていたから助けただけだけど?」
「は? それだけ? 元々知り合いだったとかじゃないの? 幼馴染とか?」
「いや、今朝が初対面だけど」
「マジかあ……なんかすごいね天野っち」
「なんか少しだけ想像出来たかも」
これは――――褒められたのだろうか?
『いや、呆れられているんだぞ、大河』
……ですよね。