第二話 ラキルの力
「たくさん食べてね、大河」
「ありがとう母さん」
ラキルが僕の身体に同化したことによる変化は劇的で――――一月もしないうちに日常生活に支障がないレベルまで体力が回復した。
あれから何度も検査をしたけれど、病気はすっかり治っていて――――最後は医者も考えるのをやめて諦めてしまった。
『本当はすぐに回復出来るんだが――――不自然だからな』
「そうなんだ」
ラキルはすごい。この星に辿り着いてすぐに言語、文化を理解している。だから無茶なことはしない。
でも――――
ちょっと過保護だ。
『二人分を受け入れる肉体としてはいささか貧弱すぎるからな――――あらゆる能力を向上させてもらった。なに、気にするな、私にもメリットがあることだからな』
「あはは……」
まあ……同化してしまった以上、この身体はラキルのものでもある。余程のことでなければ受け入れるつもりだ。たとえば腕が四本とか口から酸を吐いたりとか――――
『……大河、この星の人間は異星人を何だと思っているんだ?』
ラキルによれば、異星人といっても地球人と大差ない容姿をしているらしい。映画に出てくるようなグロテスクなタイプは見たことがないと言われてしまった。少し残念だけど正直ホッとしている。
「ところでさ、さっき能力を向上させたって言ってたけど――――もしかして、やたら目とか耳が良いのはそのせいだったり?」
その気になれば数キロ先を歩いている蟻を見たり――――街中で話している声を聞き取ることが出来てしまう。
『うむ、せっかく生き残ったのだ、不測の事態に備えておくことは重要だ。安心しろ――――この星の常識に照らし合わせて理解できる上限は超えていないはずだ』
いやいやいや、あの――――もしかしてアニメとか映画は参考にしていないですよね?
『もちろんしたとも。だが――――私の力不足で採り入れられなかった力の方が多い――――すまない』
「……いいえ、十分過ぎるので大丈夫です」
というか取り入れることが出来た能力もあるのか……怖くて聞けない。
『ところで大河は先ほどから何をしているんだ?』
「来週から高校に通うからその準備だよ。病気のせいで通えるなんて思っていなかったから嬉しいんだけど――――友達とかいないから馴染めるか正直心配なんだよね……」
入学式にも参加していないし、もうグループとか出来ちゃってるだろうし。
『ほう、高校か。信じられないほど非効率的な教育制度だが興味深い。友人に関しては心配無用だ、私が大河に好意を持つように洗脳して――――』
「洗脳駄目えええええ!! それって犯罪行為だから!!」
『そうなのか? 漫画ではよく使われているようだが?』
「漫画と現実は違うんだよ、ラキル」
ラキルは――――とても優秀だけど――――ちょっと危ういところもある。悪気はないから僕が気を付けてあげないと。
『しかし――――それでは大河の友人が――――』
洗脳しないと友人が出来ないと思われているなら複雑だ。さすがにそこまでではないと思う――――たぶん。
「心配してくれてありがとうラキル、でも――――大丈夫、僕は僕のペースで頑張ってみるから」
ちょっと怖いけど、僕はもう一人じゃない。それに――――ラキルに心配をかけないようにしないとね。
『わかった――――まあ――――大河の容姿は元々上位一パーセントに入るが――――さらにブラッシュアップしているから――――見た目でいじめられる可能性は低いだろうしな』
え!? ブラッシュアップってなんだろう……なんか怖いんですけど。
でも上位一パーセントねえ……たしかに昔は可愛いとは言われてた気がするけど、そんなの好みの問題じゃないのかな? ――――病気が悪化してからは痩せて酷い状態だったから全然実感ない……。でも身体もすっかり回復したし、顔色も良い。ぼさぼさだった髪だってちゃんと切った。清潔感が大事だって母さんも言ってたし。
考え出したらきりが無いけど――――一度死を覚悟したんだ。どうせなら楽しんだ方が良いに決まってる!
「ああ、楽しみだなあ」
『ふふ、そうだな』
『大河、走った方が速いのになぜ電車を使ったんだ?』
「えっと……僕が普通の高校生だからです」
たしかに今の僕なら電車を使う必要はないかもしれない。でもせっかくの高校生活なんだ。騒ぎになったら全てが終わってしまう。平穏な日常を死守しなければ!
「あれ? あの子……同じ学校の制服だ……」
『あれはもしかして――――ナンパという奴ではないのか?』
「うん……そうみたいだね」
軽そうな三人の男が、女の子を囲むように立っている。
朝っぱらから何をしているんだあいつ等