第一話 確率ゼロの出会い
宇宙人に出会う確率ってどれくらいか知ってる?
うん――――知ってるよ。
ゼロ――――なんでしょ?
僕の病気が治る確率は宇宙人に出会うのと同じくらい低いらしい。
看護師さんたちが話しているのを聞いてしまった。
大丈夫――――知ってるから。
「大河くん、それじゃあ元気でね」
元気でね――――か。あまりにも現実感が無くて逆に清々しい。
僕は退院して家に帰ることになった。
症状が改善したからじゃない。治療が出来ないからせめて最後の時間は家族で過ごせるようにという配慮だ。
でもさ――――毎日泣いてばかりいる母。
泣きたいのは僕の方なんだけど。
どうすれば良いのかわからないよ――――
「お母さん――――ごめんね」
親よりも早く逝くことは最悪の親不孝だから頑張って来たけれど――――でも――――もう限界が来たみたいだ。
こんな時に限って母がいない。僕がプリンを食べたいなんて言ったから――――
どこまでも親不孝な自分が嫌になる――――このまま一人で死ぬことよりも――――母を悲しませてしまうことが辛い。
なんだろう……部屋が光って見える。
もしかしてこのまま天国へ行くのかな……
『――――タスケテ――――助けてくれ』
声? 幻聴? 頭の中に直接響いてくる。
『私は別の星からやってきた――――しかし――――事故が起きて――――最後の手段として――――肉体を捨てて脱出した――――奇跡的な確率でこの星に辿り着き――――今ここにいる』
……別の星? 宇宙人ってことなのかな?
『キミにお願いがある――――私はあと一分で消滅する――――勝手なことを言っているのはわかっている――――肉体に同化することを許可してもらえないだろうか――――悪いようにはしないと約束する――――同化しても主導権はキミのものだ』
……ごめんなさい、せっかく確率ゼロを超えて――――来てくれたのに――――僕はもうすぐ死んでしまいます――――本当にごめんなさい――――僕なんかのところにさえ来なければ――――アナタは助かったかもしれないのに――――
もう言葉にする力もない。
『……そうか――――キミは――――優しい子だね――――奇跡を超えて――――出会たのが――――キミで良かった――――』
良かった――――言葉にしなくても――――気持ちが伝わったんだ。
だったら――――僕に出来ることは――――
どうかこの身体を使ってください――――アナタが消滅するまでの時間が一秒でも増えるのなら――――どうか――――
『良いのか?』
はい――――本当はね――――一人で逝くのはちょっとだけ――――怖かったんです。最後にアナタに会えて――――こうしてお話しできて嬉しかった――――ありがとうございます
『感謝する――――大河――――』
なんで僕の名前――――ああ――――そうか――――同化したから――――
短い間だけど――――よろしくね――――ラキル
「プリン買って来たわよ大河!! 食べられそう?」
「……え? 母――――さん?」
「やあね、他に誰がいるのよ、それよりプリン買って来たわよ――――食欲無いなら一口だけでも――――」
「うん――――食べたい」
「え?」
「なんだかお腹が空いて――――プリン、食べて良いかな?」
食欲がある。こんな感覚いつぶりだろう……
「あ……ああ――――う、ううう……ご、ごめんなさい……今食べさせてあげるから――――」
久しぶりに食べるプリンは母さんの――――涙の味がしたけれど――――とても美味しかった。
「ねえ母さん――――僕……母さんのコロッケが食べたい――――ジャガイモがゴロゴロ入ってるやつ」
「わ、わかった、他に食べたいものはない? 何でも作ってあげるから!!」
「ワカメの味噌汁かな」
「……ねえラキル、僕の身体どうなってるの?」
『大河の身体の不具合は私と同化したことですべて解消済みだ』
解消済みって……もしかして病気が治ったってこと?
『その通りだ』
「ええええっ!? だって――――僕の病気が治る確率は宇宙人と出会うのと同じくらいも低いって――――」
『だから――――治ったんだろう』
そうか――――そうだよね――――僕はまだ――――生きられるんだ!!
『お前だけじゃない――――この私もな――――よろしく大河――――これから世話になる』
「うん、よろしくね、ラキル!!」
こうして――――僕と宇宙人ラキルの奇妙な共同生活が始まったんだ。