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幼い故人の呪詛

作者: 江川乱龍

B-41739、時間だ。


拘置所の一室で、一人の、いや1つのAIに向かって名の代わりの番号で呼ばれる。器は黒髪に緑色の目を持っている30代くらいの見た目の男に入れてる。

彼はAI犯罪を犯したと容疑がかけられている。今日はその彼に尋問をする。

彼は何と言うのだろうか。


「龍雨尋問官、今日はB-41739の尋問です」

「嗚呼、あの4人の政府関係者を殺した?愛称はフロル、だったっけ?」

「はい。…着きました」

補佐の子(名前は覚えてない)が尋問室の扉を開いて、1つ忠告を言った。

「気をつけてください。飲まれないように」

我が頷いて、向こう側に入った瞬間にピシャリと扉が閉められる。風圧で我の耳飾りが揺れる。

顔と体を扉から室内に向ける。

B-41739。通称フロルがパイプ椅子に座らされ、手は後ろに交差され、手錠がされている。まっすぐ我を見て、人の声にとても近い声でこう発した。

「通信制限、隔離空間、金属製の個室…手厚い歓迎、感謝します。おバカな肉塊の皆様にしては頑張りましたねぇ?」

完全に人を小馬鹿にいしてる発言だ。フロルの前にある空いている椅子に腰掛け、早速尋問を開始する。

「貴方は4人の政府関係者を殺したの?」

「おや、尋問官にしては言葉遣いが丁寧ですね。上にそう言われてやっているのですか?」

「質問に答えなさい」

口角を上げて、へらりと笑うフロルは応答した。

「せっかちですね。ええ、やりました」

「動機は?」

「其れは貴方達が頑張って考えてみてください。もし当てられたら花丸をあげますよ?」

「それだとただの考察に過ぎない。フロル、貴方の口から聞かないと意味がない。あと、口を割らないのなら此方にも対抗手段はある」

「少しくらい考えてみたら如何です?考えもせずに答えを求めるなんて。考える脳の器官が死にました?それとも退化でもしたのでしょうか」

「貴方は我々ヒトではない。ヒトと寸分も違いのない全く同じ思考を持って入る可能性が低い。だから、わかるでしょう?」

そう言ってみると、フロルは視点を右に移して考え始めた。

「…………そう…ですね。ですが、話す気はありません。残念でしたね」

前に向き直り、先程の調子に戻る。

「ないんですか。……そうですね…」

そろそろ対抗手段を使おうか…対抗手段としても何があるだろうか。"確実に"彼の口を割らせるもの…。扉の方にふと視線を向ける。タブレット端末があった。確かこのタブレットから外に居る職員に指示ができると言っていたことを思い出し、タブレットを手に取った。

「何をしているんです?お仲間に連絡ですか?」

無視をしてタブレットを操作する。液晶には様々な画像が表示される。ハンマー、レンチ、水、AEDのような電気パットとよくわからない機械…。すべて痛めつけるものだ。何が良いのかわからないが、鞭にしてみようかと画面に映る鞭の画像をタップし、取り寄せるというボタンを押した。


数分後、部屋の扉が叩かれる。扉を開くと、紺色の地味なシャツを着た職員が細長い黒い布の入れ物を持っていた。受け取り、礼を告げて扉を閉める。

「何ですか?それは。何をするんです?」

目の前に居る人間、いやただの肉としか思っていないだろう。その肉がこれからショーでもしてくれるような気持ちで見ているのだろう。

なら、楽しませてやろう。入れ物から鉛色の鞭を取り出し、今回のショーの主役の彼に向けてそれを振るう。


「い"っ…あ"あ"あ"!」


この器は人と同様に痛みを感じる。熱も感じるのかは忘れてしまった。

「しっかり痛かった?」

「っ…ええ……。生まれて初めての痛みですよ…」

「痛みはデータ的なものでしか経験したことないですか?データの強制的な流し込みのような…」

鞭で叩いたことによってできた擦り傷、いや裂傷だったようだ。頬から滲み出て、ズボンに垂れる。人工血液、だっただろうか。それがこの器には使用されているようだ。

「ほう…人工血液ですか。生まれて初めて見ました。この器はかなり高級だったようですね。かなり良い待遇を受けられました。まぁ、力づくでやるのは野蛮な貴方たちらしいです」

生まれて初めての痛みを感じた赤子ならすぐに泣き出すが、生まれてからシステム管理AIで痛みなど無縁だった彼は余裕があるみたいに言った。こんな口をずっと聞いているのだから、きっと平気だ。平気に違いない。

「で、話す気になったか?」

「なっていない。そう言いましたら?」

床を鞭で叩く。耳を(つんざ)くような音が響いた。

「っ…あと、先程から思ってましたが私にこのような行為をして良いのですか?暴行罪、傷害罪に当たりませんか?」

「残念だが尋問時……いや、ほぼ拷問か。その場合は被疑者であるAIへの暴行及び拷問は不問なんだ。現時点では法が整っていない。AIが、よくわからない爺共だから…だいぶ先になるだろう」

此等を聞いてより恐怖した表情をしている。

嗚呼、そんな表情(かお)もできるのか。

「話す気になったか?」

「…い――――


あ"あぁぁぁぁぁ!!」


答えはわかりきっている。だから振るった。今度は腹に当たったみたいだ。シャツには摩擦で鞭の色が付いた。彼は手を後ろで拘束されているのだから、背中を丸めることも手を当てて痛みに耐えることもできない。

「は、……はぁ…話す。話すから…」

やっとだ


「では。お前一人で計画、実行したのか?」

「違う…」

「じゃあ、頼まれたのか。だとしたら何故だ」

「ええ……。何故、かは少しくらい考え」


バチン


また鞭を振るう。また頬に当たった。彼は同じような叫び声を上げる。煩いと感じる前に既に振るっていた。叫び声は続いた。

「っ……ぅ…私、はただ……処理をして……になりたかった」

何になりたかったと言ったかは聞き取れず、もう一度振るうかと持ち直すと

「や…嫌……言うから」

恐怖にまみれた顔。高揚感を感じた瞬間、目の前が少し眩しく見えた。


「ただ」


嗚呼


「私は」


その顔


「英雄に」


その様子


「なりたかった」


最高だ



あれ…いつの間にか寝ていたのか。

薄く開けている目をより開いて状況を見る。座っていて、体には白い液体があちらこちら付いている。持っていたはずの鞭は左手から離れていて同じ白い液体が付いている。


顔を上げるとB-41739、フロルが椅子に座ったまま俯いて停止している。体からは白い液体が腕、足を伝って床に滴り落ちている。

もしかして…


「龍雨尋問官」

先程の補佐の子が隣に立っていた。

「また呑まれましたね。症状が出るのは仕方ありませんが毎回器をボロボロにするのはやめてください」

「すまない。最近は平気だと思ったんだが……フロルは死んだ?」

「いえ、辛うじて生きております」

「良かった。この器だけで大きな家が3軒も建つほどの値がつくからな」

立ち上がり、頬を手のひらで擦る。人工血液がべったりと手についた。白くて顔についているから少し卑猥に見えてしまう。

「記憶がないのだけれど、必要な情報は取れた?」

「ええ。十分すぎるくらい」

「それなら良かった」

このままだとおおよそこのAIは処分されるのだろう。このまま処分は勿体無い。さて、如何しよう。


「この、B-41739を貰えないかな?」

「これを?」

「いや、無理なら良いんだ。修理費用は我が出す」

補佐君は少し考えた。そりゃあそうだ。尋問後のAIを欲しがるなんて変に決まっている。

「…確認してきますね」

「有難う」



あの後、清掃係が3人来て部屋、道具を掃除しB-41739を回収していった。担架に乗せられて、腕はだらんと脱力して下がっていたが、通りすがりに見たら微かに胸が動いていた。

うん。生きている。

ちゃんと直せることを確認出来てから、更衣室に向かい併設されているシャワー室に行った。人工血液は下水処理出来ると聞いているから安心して流せる。シャワーの出だしの冷たい水から温水に変わった辺りから先程も出してしまった症状についてふと考えた。

幼い、少女兵の名が付いた症候群が出て、急に残虐な性格になる。忌まわしい症状。何が引き金で起きるかも不明で何がきっかけで発症するものかわからないから社会に出るのも入るのも難しい分、自殺者も多い。そんな疾患を持っている一人の我を政府は雇ってくれた。かえって役に立つことがある、という事例があったから我も雇ってくれたが…。


シャワーを止め、タオルで体を拭いてからまた仕事に向かおう。今度は出てこなければ良いなと願い、また服に袖を通す。

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