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呪いを解いたモーゼル様のお話

今から百年より前のこと、オーキー国初代王・モーゼル様が発展途上の民たちを治め始めた頃のお話です。

今の王都である地には、とても野蛮で恐ろしい、エニという民族が住み着いていました。豊かな水に潤う恵まれた土地を独り占めし、邪悪な神を崇め、近くの国に戦を仕掛けては、捕まえてきた人たちを生贄として邪悪な神に捧げていたのです。

しかし、最も恐ろしいことはこれではありませんでした。

ある時、エニ族はジョウゲスイードという国に攻め込みました。戦いは長きに渡り続きに続き、とうとう決着は付きませんでした。

争いを好まないジョウゲスイードは何とか和平(わへい)を結ぼうと、エニ族と交渉を試みました。

すると、エニの族長よりこう言われました。


「お互いの国で王族を一人づつ、使者として送り合いましょう。我々は和平を築く証として、そちらの使者を一番上等にもてなします」


ジョウゲスイード国は王に娘が二人おりました。二人に話をすると、姉の姫が使者となると言い、エニ族の元へ行きました。

エニ族からは族長の息子がやってきました。ジョウゲスイード国の王はやってきた使者を丁重にもてなしました。


「これからは良い関係を築けるでしょう。あなた方の娘は国で最も尊い存在となります。明日、我らの国で使者を(たた)える祭を(もよお)しますので、ぜひいらしてください」


これを聞き、王と王妃は族長の息子と共にエニ族の国へ向かいました。妹の姫は城で帰りを待っていましたが、何だかどきどきと胸騒ぎがしました。


エニ族の国では、たくさんの花が飾られ、人々は楽器を鳴らして踊り、華やかな祭りが行われていました。

案内された祭りの中心、豊かな水が湧き出る泉のある神殿に通された王と王妃は祭壇でとんでもないものを目にしました。

恐ろしいことでした。花や果物で飾られた祭壇に横たえられた体は、姉姫の変わり果てた姿でした。


「なんとひどいことを!あなた方は私の娘を殺したのか」

「あなたの娘は我らの神の化身として永遠に称えられる。これ以上ない栄誉を与えられて、何を怒っているのだ」

「娘を返してくれ」

「それはできない。もうあのお方は我らの神となった」


王妃は気を失い、王は激怒しました。娘を取り戻そうとした王はエニ族の兵士に取り押さえられ、落ち着かせるためとしておかしな茸を口に入れられました。

ジョウゲスイード国へ帰ってきた王妃はそのまま目を覚ますことなく、王は虚な目をして床に()せってしまいました。

ことの次第を聞いた妹姫は、エニ族が大切な家族にした仕打ちを許すことはできませんでした。しかし、姉姫の体を取り戻すにも、自分の力だけではどうしようもできないことも分かっていました。そこで妹姫は偉大なる王・モーゼル様に助けを求めました。慈悲深いモーゼル様は、ジョウゲスイード国の受けた悲劇を憂い、力を貸すことを約束しました。


周りの国に恐れられたエニ族もモーベロン様の御加護に守られたモーゼル様とジョウゲスイード国の軍に剣を折られることとなります。オーキー国とジョウゲスイード国の軍はどんどんエニ族を押していき、とうとう国の中心、神殿の中へと追い詰めました。

思慮深いモーゼル様は寛大な心で哀れなエニ族の族長に語りかけました。


「心を入れ替え、罪もない人々を殺して邪神に捧げるのを止めれば、モーベロン様のご慈悲で許されるぞ」


しかし、モーゼル様の言葉もエニ族の族長と息子には届きませんでした。


「何を愚かな。神へ人間を捧げなければ泉は枯れるのだ」


妹姫は辺りを見回しましたが、姉姫の姿を見つけることができませんでした。


「信頼を裏切った無礼者。姉を返してください」

「無礼を働いたのはそちらだ。貴方の姉には最高のもてなしをしたのに。我々の真心を踏みにじり、神を愚弄した」


追い詰められた族長は手にしていた剣を自分へと向けました。


「エニ族の全ての命を捧げます。この無礼な者どもの子々孫々(ししそんそん)に至るまで、乾きの苦しみをお与えください!」


族長は叫びながら剣を自らの胸へ突き刺し、祭壇にその身を投げ出すと、壇に留めるかのように、さらに深く剣を押し込みました。すると信じられないことが起こりました。祭壇が真っ赤な血に染まったかと思うと、エニ族はバタバタと倒れ、皆息絶えてしまいました。中央の泉は勢いよく水が引き、神殿は大きな音を立てながら崩れ始めたのです。

外へ出たモーゼル様達はその様子に驚きました。集落中に優しく流れていた水路は乾き、滔々(とうとう)と清らかな水を湛えた水溜りは干上がり、草木は力なく項垂れているではありませんか。


「これでは罪もないこの地の命が不憫(ふびん)であろう」


モーゼル様は戦で傷ついた集落を整え、神殿の瓦礫を一つ一つ取り去り、汚れた祭壇を清めました。するとどうでしょう。

神殿内の泉には水が溢れ、水路にも輝きが戻り、草木は前にもまして潤い、生き生きと葉を伸ばしました。

恐ろしい呪いはモーゼル様によって解かれたのです。


高い柱で支えられた神殿は跡形もなく無くなってしまいましたが、瓦礫を退けてどんなに探しても、姉姫は見つかりませんでした。

妹姫に同情したモーゼル様は、せめてもと神殿のあった場所に立派な建物をこしらえ、妹姫に自由にして良いと伝えました。

妹姫はモーゼル様の暖かな心に感激し、モーベロン様を称え、神殿後の建物に移り住んで、喜んでオーキー国へ帰依(きえ)すると言いました。

こうして偉大なるモーゼル様の力で呪いは解かれ、野蛮で恐ろしい民族は居なくなりました。水に恵まれた地は王都となり、妹姫が住まった神殿後の建物が今の水源管理塔なのですよ。

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