どん底から抜ける道
テレビの前で、年端のいかない少年と少女が並んでテレビを見ていた。二人は何やら小難しい事を言っているニュースキャスターの写されている映像を、首を傾げて見ている。
「これって、面白いの?」
そう言う少女に対し、少年は暫く口をつぐんだ後でこのように答える。
「わかんない」
そう言う少年の様子を、少女は不思議そうに見る。
「異界からやってきた、魔法を操る種族との和解が合意されました。全面的な解決には、過激派からの反発が予想されるものの……」
首を傾げながらもニュースを見ていた少女が、ふと疑問を抱いて口を開く。
「過激派って?」
やはりすぐには答えず、暫くしてから少年は答える。
「凄いことをしてでも、自分の考えてる事を実現しようとする人達のことだよ」
少年があまりにも真剣に答えるため、少女も真剣に考える。
「人を叩いたりするってこと?」
少女のそんな予想を、少年は肯定する。
「そうだね。それよりも嫌なこともする」
そんな言葉を聞いて、少女は怯えるような顔をする。その様子に気がついたのか、少年は笑いながらこう答えた。
「大丈夫。目の前にそんな奴が現れたら、僕がなんとかする」
その言葉を聞いて、少女は安心したように頬を緩めた。
そして十年後、その時の少年「大山 鑑」は今……女装して魔法を教える学校に行こうとしていた。
「で、君は何故女装を?」
そう学校の警備員から問われ、鑑は困惑した表情を浮かべる。
「許可は取っている筈ですが」
それを聞いて、今度は警備員が困惑する。
「今確認を取っている」
呼び出し音。警備員のレシーバーから男性の声が聞こえる。
「ええ。ええ。はい? ええ。分かりました」
短いやりとりの後、警備員は納得していない表情を鑑に向ける。
「今確認が取れました。良い学校生活を」
その言葉を聞いて、鑑は安心した表情を浮かべて後ろにいた少女に顔を向ける。
「時間を取らせた」
その言葉を聞いて、それまでずっと鑑の背中に隠れていた少女が顔を覗かせる。
この少女、長い髪を無造作に伸ばしているせいで目元が隠れている。艶のあるロングの黒髪にやや高い身長、華やかさこそ控えめだが目が離せないような魅力のある女性と言っても差し支えない。だが陰のある表情が、どこか近づきにくい雰囲気を出していた。
「早く教室に向かおう」
無感情ではあるが棘のない喋り方をしながら、彼の腕を引っ張る。
そんな二人の様子を、遠くから眺めている二人がいた。
「随分と特別な措置を下したんですね。理事長」
そう言うのは、鑑達の担任になった教諭だ。彼は校舎の四階にある理事長室の窓から、校門でのやりとりを見ていた。
「まあ、あの二人を学校に通わせるためよ。仕方無い」
少しだけ含みのある言い方をする理事長を横目で見た後、担任は手元の資料に目を通す。そこには目元が髪で隠れた少女の名前が書いてある。野山 優美、それが彼女の名前だった。
「教師としても個人的にも、同情する経歴を持っていますが……倍率の高いこの学校にわざわざ入れなくても良かったのでは?」
担任がそう言うのも無理はない。優美は追記事項に、過去に事件に巻き込まれた事と男性不信である事が簡潔に書かれている。
「魔法の適正も非常に高いものがあったのよ。だから入れた」
担任は資料を捲って鑑の資料に視線を落とす。
「野山さんは男性不信ではあるが、女装をした大山くんは特別話しかける事が出来る。ここに間違いはありませんか?」
理事長が頷く。
「ええ。間違いはありません」
そう言われてから、担任は溜め息を吐く。
「分かりました。彼女にも彼にも事情があるのですね。しかしですね……」
担任は理事長の前に生徒の資料を置く。
「このような事は、大山さんと野山さん、両方の資料に記載した方がよいのでは?」
そう言われて理事長は露骨に視線を逸らす。
「あらやだ。失念していました」
教室では人以外にも様々な種族がいた。体全体が毛で覆われて耳を生やしていて二足法をした種族、体を鱗で覆われた一族。様々だ。そんな中でも優美は鑑の横にぴったりと寄り添っていた。
「えっと、それって人間の間で流行ってるのかい?」
そう言って来たのはクラスメイトの兎耳を生やした亜人族だ。その姿を見て、鑑は首を横に振る。
「いいや、流石に幼馴染みを横にくっつけながら教室にいるのは心臓に悪い」
淡々と答える鑑にクラスメイトが苦笑する。
「いやいや。それも気になるが、格好だよ。その制服、女子のだろ?」
そう言われて、鑑がようやく気づいたように自分の服を見る。
「これに深い意味は無いんだが……」
鑑が横にいる優美に視線を落とす。
「この格好の方が、彼女が安心するらしい」
そう言われた優美の方は、クラスメイトが近寄るとビクリと体を震わせて後ずさる。
「俺、何かした?」
困惑する彼に対し、鑑は首を横に振る。
「いいや。野山は男性が苦手みたいでな。どうやら亜人族でも無理のようだ」
そう言われてクラスメイトが頭に手を押さえる。
「そうか……なんか悪い事をしたな」
申し訳無さそうにするクラスメイトに、優美は首を勢いよく横に振って見せる。
「貴方は悪いことしてないから、謝らないで」
そう言われて、そのクラスメイトには謎の感動があった。
「喋れたのか! 君」
大きな声を出した事で、優美はまた驚いて鑑の腕を握る。
「彼女をあまり驚かさないでくれ。腕を握る手の力が凄く強くなってる」
鑑の額に一筋の汗が垂れる。
「あ、ああ。悪い、配慮が足りなかった」
そう言われた後に、そのクラスメイトは途端に真剣な表情を浮かべる。ただごとでは無いと感じた鑑が眉間に皺を寄せた。
「すまん。実は俺は穏健派でな、過激派から目を付けられてるんだ」
周りに出来る限り聞こえないような小声、その単語には鑑にも心あたりがあった。
「噂で聞いている。魔法を使える方の世界では、人間と共生する事を推進する『穏健派』と、人間を排斥する『過激派』に分かれているとか」
それを聞いてクラスメイトは小さく頷く。
「奴らは人間は勿論、穏健派も躊躇無く危害を加える」
「そんな危険な奴らが、この学校に?」
「何を考えているのか、この学校の創立には過激派も一枚噛んでいる」
鑑が思わず顔をしかめる。
「裏がありそうだな」
「全くだ」
そう話している間に、担任がクラスへと入ってきた。
「ほら、初日から騒がしくするな。授業を始めるぞ」
その言葉を聞いて、クラスメイトは鑑に一度目配せをしてから距離を取る。
この学校での席は自由席であるらしく、鑑と優美は担任の前にやってきていた。
「そこで受けるのか?」
担任が面食らっていると、鑑と優美は揃って首を縦に振る。
「まあいいが」
担任がそう言って周りを見渡す。教室は一辺が一四メートル、もう一辺が一八メートル。定員が三十名となっていた。人の学校机を横に十個並べても余裕があるサイズである。
定員に対して非常に広いスペースが確保されているのは、ここが人間以外の種族も通うためである。その中には、体の大きさが非常に大きな種族も存在する。その大きさに揃えたと言う所である。
「あまり知識の無い人もいると思うから、説明するぞ」
担任が黒板に文字を書きながら周りを見渡す。あれこれと説明するのを、ある者は適当に聞き流し、ある者は真面目に聞いていた。
「種族の中で身体的にも魔法でも最も優れているとされているのが竜の一族である。魔法と言うのは使う者によっては体が変化する事もあり……」
そこまで言ってから、担任はある事に気がついた。
「うん? そう言えば野山がいないな。どこにいった?」
彼の記憶が正しければ、授業を始める時にはいた。なのに姿が見えない。
「野山ならここにいますが」
鑑が向けた視線の先では、優美が縮こまっていた。彼女は机の下でノートを広げている。
「そうか。まあ欠席してないならいいか」
そう言い終えると、唐突に手を挙げる人物がいた。
「どうした? そこの何かいいたげな竜」
担任の言った通り、一人の竜族のような少年が白々しい程に真っ直ぐ手を挙げていた。竜族、全ての生物の中で最も知力と体力があると言われている一族。担任は表向きは穏やかにしておきながらも、内心では緊張していた。
「先生、いいんですか? そんな不真面目な人をこの学園に置いておいて」
どこか嘲笑するような響きが込められている。担任がどのように言えばいいのか考えていると、竜の少年がもう一言付け加えた。
「どうせ人間なんかに魔法を教えても使いこなせるわけ無いんですし、早めに退学にしてあげた方がいいのではないですか?」
そう言った直後、鑑は拳を握りしめる。その些細な変化に気づき、担任は鑑に目配せをする。おとなしくしていろと暗に告げている気がした鑑は、何も言わずに見守る。
「後でそこら編の話はしておこう。一応、これから入学式も控えている。その事についても説明をしないとな」
そう言われて鑑は思い出した。
「そう言えば、今日は入学式だったな」
そんな様子の彼に、優美は首を傾げる。
「忘れてたの?」
「その通り」
鑑と優美が歩いていると、何やら騒がしい集団がやってくる。ゲラゲラと大きな声を出して歩く集団。鱗で覆われた皮膚を見るに、どうやら竜の一族らしい。
「大山。あれ、さっき退学にしてあげた方がいいとか言ってた人だよ」
優美の言葉を、鑑は表情を変えずに聞く。見てみると、その竜の少年はイライラしているのか大股で眉間に皺を寄せて歩いている。
(避けた方が無難だな)
そう考えて鑑が廊下の隅に寄ると、竜の少年が突然動きを変えて肩を鑑にぶつけてくる。
「いったあ! こいつは痛い! 人間の、しかも成績優秀な奴に痛めつけられた!」
などと白々しく言うのは竜の少年だ。言動の割にはあまり痛そうには見え無い。一方で勢いよく体をぶつけられた鑑は、肩を押さえて顔を強張らせている。
「おや!? そこにいるのは、人間の中でも最も成績が優秀だと言う少年じゃありませんか! 魔法の腕はイマイチのくせに、座学は優秀とか言う噂の!」
腕をさすりながら、鑑は考える。
(これ、多分嫌味なんだろうな。或いは煽っているか……)
このようなマウントの取り合いや意地の張り合いに興味の無い彼にとって、これはあまりにも面倒な状況だった。
「人違いでは?」
鑑が話を逸らそうとしてそう言うと、竜の少年は鼻を鳴らす。
「おおそうか。さっき担任から聞いたのだがな」
鑑は内心で舌打ちする。
(多分、担任なりに注意はしてくれたんだろうな)
嫌な話ではあるが、鑑は以前にもこのような相手と出会った事がある。その時は彼の親が対処をしてくれたが、彼の内心は複雑だった。
(あの時はいい親を持って幸せと思うべきか、それとも親に迷惑をかけてしまったと嘆くべきか悩んだが……やっぱり誰かが対処してくれたら楽だな)
などと考えていると、鑑と竜の少年の間に優美が割って入る。
「あまり争いごとをおこさないで下さい」
そう言って暫く嘲るように優美を見る竜の少年だったが、彼の顔が何かに気がついたのかみるみる青ざめていく。
「お前は……」
彼は首を横に振る。
「いいや、だが噂には尾ひれがつくもんだ」
竜の少年がそう言って彼女の腕を掴もうとすると、突然竜の少年が前のめりに姿勢を崩す。放っておくと床に倒れそうなそれを、鑑は受け止めてゆっくりと寝かせる。
「何をしている?」
そんな事をしていると、担任が急いで彼等の元へと駆けてきた。
効果な調度品が多く置かれた部屋で、この学校の理事長が鑑と机を挟んで対面するように座っていた。
「随分と派手な事をしたわね」
そう理事長が切り出すと、鑑は表情を引き締める。
「返す言葉もございません」
そうおとなしく言う彼に対し、理事長はふっと笑って見せる。
「ごめんなさい、からかいすぎましたね」
その言葉に、鑑は不思議そうな顔をする。
「調べはついてます。あの竜族の少年が、貴方を突き飛ばして因縁をつけた。それから守るために野山さんが彼を眠らせた。期待通りって所ね」
「期待?」
鑑は緊張した面持ちで理事長を見る。人間の、年配の女性。それが鑑の理事長に対して抱いた印象だった。
「人間の中でも、二番目に優れた魔法適正を持つ存在。確か、主に魔法を扱う魔法だったかしら?」
鑑はどう誤魔化すか少し考えたが、理事長相手には全部情報がいっていると思い素直に話す事にした。
「ええ、その通りです」
鑑がじっと理事長を見る。その視線に気がつき、理事長は首を傾げる。
「何か聞きたい事が?」
鑑が頷く。
「貴方は人間ですか?」
「どっちだと思う?」
答える事を拒否するように理事長が微笑む。
「人か、それに似た種族かと。或いは、魔法の副作用で姿を変えたか」
鑑の考えに対し、理事長は意味ありげに頬杖を突く。
「そんな考えが出るのは、自分自信が魔法を使うと姿を変えるからかしら?」
「そうでしょう。魔法を使っても姿を変えない野山なら、こんな考えは出ないかもしれません」
あっさりとした様子に、理事長は苦笑いを浮かべる。
「ここまであっさりとした反応だと、からかうのがつまらなくなるわね」
「それは良いことを聞きました」
暫くして、鑑の担任が理事長室に入ってくる。
「彼女はどうかしら?」
理事長の言葉に、担任は事務的な口調で応える。
「落ち着いています。少し風にあたりたいと、今は中庭で待機しています」
「そう」
言い終わると、担任はそわそわと何かを聞きたそうにしている。
「質問でもあるの?」
理事長の言葉に、担任は少し迷う素振りを見せてから口を開く。
「彼女に何があったのか聞いても?」
理事長が少し考える。
「大山君がいいなら」
その言葉に担任が困惑する。
「構いませんよ」
鑑の言葉に担任が更に困惑する。
「いいのか?」
「ええ。野山から俺の判断で過去を明かして良いと聞いていますので」
理事長が感心したように頬を緩めた。
「信頼されてるのね」
「自分で考えるのが面倒だから、他人に判断を投げているんだと思います」
鑑がそう言ってから、一度深呼吸する。
「なんて事はありません。彼女は自分の親から虐待を受け、小学校の時に苛めにあった。その時の相手が主に男だったから、このようになったにすぎません」
簡潔にそのように答えると、鑑は窓から中庭を覗く。そこで、彼は驚く光景を見た。
「すいません。用事が出来たので……」
そう鑑が言うと、理事長が頷く。
「そう。ごめんなさいね、貴方と個人的に話がしたくて、このような場を設けてしまって」
中庭で優美は自動販売機の前で悩んでいた。
(鑑のお父さんからお金は受け取ってるし、実際ある程度は使っていいとも言われてるけど……自動販売機で何か買った事が無いから何を買っていいかわからない)
彼女はそう言って財布の中を覗く。中にあるいくつかの紙幣に目眩さえ覚える。
(鑑のお父さん、いい人なんだけど……やる事が破天荒すぎる。色々な人から慰謝料とかでふんだくったお金を私に全額渡すなんて……)
お陰で彼女には学生が持つには十分過ぎる程のお金があった。
(買ってもいい、んだよね)
迷いながらも小銭を取り出し、無糖の缶コーヒーを購入する。彼女にとっては、初めて自動販売機で買う飲み物だった。しかし……
「探したぜ」
そう言って現れた竜族の少年によって、それは遮られた。驚きのあまり缶コーヒーを手元から落とし、それは竜族の少年の足元に転がっていった。
「呑気だな。自分のした事が分かっていないと見える」
そう言って缶コーヒーを踏み潰す彼は、優美が眠らせた少年だ。正し、今回は一人ではなく竜族の取り巻きを三人連れている。
「人間一人になんでこんな人数を揃えるんですか?」
取り巻きの一人がそう言うと、優美が眠らせた事がある少年が偉そうに答える。
「こいつ、生意気にも魔法が上手に使えるんだよ。人間のくせにな」
どうやらリーダー格であるらしいその少年に対し、優美は動けない。
(怖い)
彼女の心に湧いて出たのは恐怖だった。いいや、恐怖しか出なかったと言うべきか。
「リーダー。こいつ、びびって無いですか?」
そう言う取り巻きの一人。
「何。泣こうが叫ぼうが、こいつが俺に恥をかかせた事実は変わらねえ。一発殴ってやるだけだ」
そう言ってリーダーが彼女を殴ろうとして、その拳が彼女に触れようとした瞬間……
その竜族の少年が優美とは正反対の方向に吹っ飛んでいった。
何が起きたか分からず目を回しながらも、吹っ飛ばされた竜族が起き上がる。
「大丈夫?」
そしてそんな相手の事を気にせずに、一人の女性が優美と竜族の間に立っていた。
綺麗な少女だった。長い黒髪を首の後ろで束ね、吸い込まれそうな黒く大きな瞳をしていた。身長も恐らく高く、一七〇センチはある。
そんな彼女を見つめていた優美が口を開く。
「えっと、素晴らしいですね。名前は?」
そんな彼女の視線は腹回りに向けられていた。
「骨が細いだけ。名前は……キョウとでも読んで」
少女がそんな事を言っていると、竜族の一人が怒鳴り声を出す。
「舐めてるんじゃねえぞ」
立ち上がる少年の姿を見て、キョウは無言で両手を前に出すと、そのまま振り下ろす。
「ぐ、ぐおぉぉぉ。体が重い!?」
竜族の少年達が苦悶の表情を浮かべると同時に、彼と周りの地面が緩やかに地面へとめり込んでいく。
(地面が重い物を乗せたかのように沈んでいく?)
優美がそう考えていると、キョウが優美に視線を向ける。
「面倒だし、貴方の魔法で眠らせて」
優美が戸惑う。
「私の魔法って……」
「貴方の魔法はあらゆる植物を生み出し操る。睡眠作用のある植物を取り出して、その力で彼等を眠らせる事も出来る筈」
そう言われて、優美はすぐに行動に移した。手を地面に置くと、植物が彼等の周りから現れてそのまま竜族の少年達は眠ってしまった。
「ちょっと疲れた」
そう言うキョウに対し、優美は疑惑の目を向ける。
「どうして知ってたの?」
「何が?」
「私の魔法」
「さあ」
ぶっきらぼうに答えるキョウを、優美は睨み付ける。
「じゃあ、貴方はどうしてその魔法を使えるようになったの?」
「あら、哲学?」
少しからかうようにキョウが言う。対し、優美はキョウの顔を見ながら言葉を続ける。
「使える魔法は、使う人の願望や理想が反映される。貴方は何を望んでその魔法を手に入れたの?」
キョウが考える素振りを見せたかと思うと、警備員が遠くから小走りでやってくる。
「あら、お疲れ様」
「お疲れ様です。こちらで一人の少女を男三人で取り囲んでいると聞いてやってきました」
「そこでのびてる男達がそう」
そこまで言うと警備員が困ったような表情を浮かべる。彼にとって、この状況は予想外であったらしい。
「野山 優美さん。私は夜を照らす月に憧れた。月は重力で海面を変えるとされ、太陽の光を反射して地上を照らす」
そう言うと、キョウは背を向けて校舎の中へと消えていった。
その姿を見て、優美はふとこんな事を思った。
(そう言えば、キョウの格好は鑑と同じだったな)
理事長室で、キョウは椅子に座っていた。理事長が窓の外を見て、警備員がタンカを使って竜族の少年達を運んでいるのを確認するとキョウに視線を向ける。
「お疲れ様。もう魔法を解いていいわよ」
その言葉に応えるように、彼女は魔法を解く。途端に姿が変わり、キョウは大山 鑑の姿に変わった。
「魔法を使うと姿が変わるのは珍しく無いけど、どちらも見た目が普通の人間ってのは珍しいわね」
そんな理事長の言葉に、鑑は欠伸混じりに答える。
「便利でいい。正体を隠しながら魔法を使える」
「別に隠さなくても」
「そうはいかない。彼女は力のある男と言うだけで恐怖を抱いてしまうから。力の無い非力な男である方が、恐怖心を抱かなくていいんだ」
「そう言うもの」
これ以上の詮索は無駄だろうと考え理事長は別の質問を彼に言う。
「もう一個だけ聞いても?」
「どうぞ」
「貴方はどうしてあの少女に拘るの?」
そう言うと、彼は全く喋らない。
(もう少しだけ外堀を埋めてから聞くべきだったかしら)
理事長がそう考えていると、鑑がようやく口を開く。
「楽しいと思えるのが、彼女の側だけだったから」
それ以上は何も言わない。
「案外、人間臭いのね。貴方も」
その言葉に応える人物は誰もいない。
少年の記憶にあるのは一人の少女の姿だ。特別頭が良いわけでも、特別身体能力が高い訳でもない。見た目は魅力的かもしれないが、彼にとっては興味の範囲外だ。
「ねえ、貴方は……」
そんな少女が、彼の側に寄る。
「人と一緒にいるのが嫌なの?」
そう言われても、彼は答えようがない。それを言葉にするには、彼はまだ幼すぎた。
「興味が無い」
そう曖昧に答えると、大概の人は側を離れていった。多くの人が少年に興味を失うのだ。少年もそれを理解していた。だがその少女は違った。
「えっと……」
少女は少年の手を取る。戸惑う少年に対し、少女は満面の笑みを浮かべる。
「うん。一緒に遊ぼ」
驚く少年に、少女は続ける。
「一人だけだったらつまんない事でも、二人だったら面白いかもしれないよ」
それが少年の覚えている、一番古い記憶だった。
気が向けば続編を書きます。




