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第23話 宝石ニンジン


周囲に目を走らせると先程の『うぃーあーバァニィィィィBOYズ』の掛け声に合わせ、その場にいた者たちも各々のポージングを決めていた。


「…どこから突っ込めばいいんだ?」


サンチョは玉座に座った筋肉隆々の変態に視線を戻し、呟く。


「ツッコむ?どコに?どこからドウやっTE?そういう趣味が?イヤン。そんなオレSAMA。痛クしないで」


「ティアーモ」とサンチョは静かに彼の言葉を遮る。


「…ファジャーノはどこだ?ここで一体なにをやっている?」


「ノンノン、ちゃうちゃう、WANWAN、ニャンニャン。バァニィィィィボーイ!」


「…ドラッグか?」


ティアーモの姿も言動も普段の彼とはかけ離れている。


サンチョをぐるりと囲むように立つオゥルソやカーネたちも(くわ)を持って不気味な笑みを浮かべていた。


不意にケタケタケタと男の笑い声が聞こえ、振り返ると、無精髭を伸ばした黒人の男性が土の上に座り込んでいる。髭が長いせいで正確な年齢はわからないが、30~40代くらいだろうか。


「クフフフフ…ドーナッツがフラメンコしてて、最ッッッ高に興奮すルんだヨォォぉぉぉぉぉ」


その手の中にはまるで宝石のようにキラキラと輝くニンジンがあった。男は僅かな照明の光を取り込んで反射し、何倍にも光り輝くニンジンを生のまま美味そうにかじる。


ニンジンにはまだ土もついたままだが、まるで気にする様子はない。


ギラギラと目を輝かせ、男は一心不乱にニンジンをむさぼっていた。その頭にはやはりうさ耳のカチューシャがついている。


「シミシミが味で私は幸せママも幸せ」


男はニンジンをかじりながら幸せそうに天井を見上げる。この男はファミリーで見たことがないが、彼もまた失踪者なのだろうか?


何故か地下で「ニンジン農園」を営む失踪した筈のファミリーの者たち…


突然目の前でおかしくなったアッラ=モーダ…


玉座に座って別人のように振る舞うティアーモ…


やはり、この「ニンジン農園」のニンジンはなにかがおかしいようだ。




「新しイ仲間が来タね」


「ばニーぼおイズに入リたそうダね」


「ニンジンお好き?」


「ピーマンとニンジンどッチがお好き?」


「ママのキャロットケーキが食べたイよお」


彼らは口々にサンチョを見て喋る。


その時、パンパン、と大きく手を叩く音が聞こえ、全員が静になる。


「ホォーラ、アナタたチ!楽しみましょウ、お仕事。今日も明日も明後日も、昨日も一昨日も来年も!元気にミンナでルンルンルン!」


おかっぱが皆に合図する。すると、彼らも「そうでしょウそうでショう」と頷き、




「「「「「ルンルンルン!楽しい労働ルンルンルン!ニンジン大好きルンルンルン!ルンルンルン!ルンルンルン!ルンルンルン!」」」」」




突然声を揃えて歌い出す。それはまるでなにかの宗教の儀式のようにも見えた。


「ティアーモ、アッラ=モーダ、教えてくれ、一体なにが起きている?」


「キャロット星に宝石ニンジンを届けなくては☆」


サンチョの問いかけへの返答のつもりなのだろうか、おかっぱは目を輝かせて不気味に微笑む。


「…そこにいるのはひょっとしてサンチョ・パッソか?」


その時、ふいにどこかから聞き慣れた声が聞こえた。


「その声はファジャーノか?」


「ああ!そうだとも。助けてくれ、なんかコイツ等変なんだ。パパも兄貴も皆…」


どうやら部屋の奥にいるらしいファジャーノはまだ正気のようだ。サンチョは銃を構えて周囲を、特にティアーモを警戒しながら声の方向を探る。


「わかってる。一体なにが起きている?お前はどこにいる?」


「こっちだ。…皆、あのニンジンがおかしくするんだ。宝石ニンジンとかっていうアレだ。良いか、アレは絶対口にするな。アレは人の大切ななにかを狂わせる」


「宝石ニンジン…」


サンチョは足元にあったエメラルドグリーンに輝く葉っぱをつかみ、無造作に引っ張った。それは多少の抵抗の後、ぶちぶち…と音を立てながら地中に張っている根を残して姿を現す。


宝石ニンジンとは言い得て妙だ。


輝く葉は透き通るようなエメラルド、ニンジンの茎はペリドット、そして根の部分はサンストーンのような輝きを放っている。


一部の野菜や果実の高級品は「食べられる宝石」となどと形容されるが、この宝石ニンジンはそれらのものがただの野菜や果物にしか見えなくなるほど「宝石そのもの」だ。


そしてサンチョはこれに似た植物を知っている。


「『宝石が咲く花フィオレ・ジョイエッロ』か」


サンチョは呟く。


その植物は、サンチョがこのヴィオレンザ・ファミリーの護衛を引き受ける報酬でもある。


ベッロ・キャッペライオに依頼された宝物だ。


ベッロに見せられた映像でしか見たことのないものだが、これはそれによく似ていた。


「そう。『宝石が咲く花フィオレ・ジョイエッロ』。考えてみりゃ、アレがうちに来てから全てがおかしくなった。先代も…アッコルドさんも」


「アッコルドさん?」


サンチョは聞き返しながら声の方向を探る。どうやら声は左の方から聞こえるようだ。宝石の輝きから離れた場所は光が届かず、暗くてよく見えない。


「先代の後を継ぐ予定だったパパの腹違いの兄貴さ。どっちも死んだと思ってたけどまさか……!!むぐぐぐぐ………!!!!」


その時、玉座に座っていたティアーモがぴょーん、と跳躍し、サンチョの左側へ着地する。


それはサンチョが想定していたよりも遥かに身軽な動きだった。


奥の方は暗くてよく見えないが、ティアーモの身体の下でもがいているのは恐らくファジャーノだろう。


「だんまりなお喋り、お下品なお口をおチャック☆」


サンチョの角度からはよく見えないが、ティアーモはいつの間にか持っていた宝石ニンジンを組み敷いたファジャーノの口にねじ込んでいるようだった。


「ニンジン様への感謝様がもっと足りないザマス。ほらホらタンとおあがりりンごリらっぱっパ」


ファジャーノはバタバタと身体をばたつかせて抵抗するが、ティアーモは大きな腕で彼をしっかりと地面に押さえつけ、宝石ニンジンをねじ込み続ける。


ファジャーノの抵抗は徐々に弱くなり、やがて宝石ニンジンを口にしたのか、ビクン、ビクン、と身体を仰け反らせて痙攣(けいれん)し始めた。


数分間続く痙攣(けいれん)を終えたファジャーノはティアーモが脇に避けるとすっ、と立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。


「アンハッピーな法被(はっぴ)が発砲塞がりで草生える…ケタケタ」


薄明かりの光を吸収し、発光する宝石ニンジンの光に照らされて浮かび上がるファジャーノの目は虚ろで、うっすらと気味の悪い笑みを浮かべていた。そして、頭にはやはりうさ耳のカチューシャが被せられている。


ドラッグでキマった中毒者(ジャンキー)のように口からよだれを垂らして、他の者同様意味不明な言葉を口にする。


「サンチョプス、よぉ、おめーも一口どうだい?胴体?うひーぃ、二度目のニンジンは最高にキマるぜ、やんメランねぇっすよぉ、コイツぁよん。…おいおい、やめトケよ、どコかに逝っちまうぜ?これ本当。嘘。ホンTO。あREどっちガ真実?」


ファジャーノは「ウヒヒヒヒヒ」と笑いながら、かじりかけのニンジンをサンチョに差し出してくる。


「…遠慮しておく。健康志向ってわけじゃないが…一口でもかじると身体に悪影響がありそうだ」


サンチョが首を振ると、突然、横から巨大な腕が伸びてくる。


「!?」


サンチョはその腕をするりとくぐり抜け、暗闇に向かって銃を向けた。


巨大な腕の持ち主は「逃げルなYO~」と陽気な声でサンチョに声をかける。


「ミンナ、ニンジン食べテ、ティアーモのオトモダチなるですヨ、ニンじンニンジン」


宝石ニンジンの明かりに照らされてぬっと暗闇から姿を現すのは、両手に宝石ニンジンを掴んだバニーボーイ姿のティアーモだ。


状況はまだ十分に理解できていないが、どうやらティアーモも正気を失っているらしい。


この場にはまともにコミュニケーションを取れる者はおらず、事態が全く把握できない。


わかっているのは宝石ニンジンによって、ティアーモやアッラ=モーダたちが正気を失っていること。そして、その宝石ニンジンと「宝石が咲く花フィオレ・ジョイエッロ」は恐らく無関係ではないことだけだ。


彼らを正気に戻す方法がわからない限り、一旦は彼らを拘束するか、この場から逃げ出すしかない。






「…困ったな、これは」


サンチョは片手に銃を構え、ティアーモに向けたまま呟いた。


※名前の由来(なんちゃってイタリア語)

 ・アッコルド・ヴィオレンザ:賛成・暴力 ティアーモの兄

 ・プロプルシオーネ・ヴィオレンザ:推進・暴力 ティアーモの父


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