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第19話 生きの良いエビフライ


「さっきの銃声、一体なにがあった?」


サンチョの部屋の銃声を聞きつけたパジャマ姿の護衛たちがサンチョに詰め寄る。


「ファジャーノは大柄の生き物に連れ去られた」


1人服を着替えたサンチョは見たままの情報を伝える。


「「「「「!?」」」」」


「犯人を見たのか?一体誰だ?」


「わからない。…が、俺が知る限りあんな大柄な人間はファミリーにはいなかった。それに、頭にはうさぎの耳のようなものが生えていて、人間かどうかすら怪しい」


サンチョの証言に護衛たちは顔を見合わせる。


「うさぎ?なにを言ってる?」


「寝ぼけてるのか?」


「そうかもな。深夜だぞ?寝ぼけたくもなる。だが、事実だ」


サンチョは疑いの目を向ける護衛たちに真顔で応える。


「そもそも、どうして犯人を目撃したのに取り逃す?」


「お前がついていながらなぜこんなことになっている?!」


「伝説の殺し屋はうさぎちゃんすら捕まえられないのか?」


自室から失踪者を出したにも関わらず、申し訳無さそうな素振りすら見せないサンチョに腹を立てた護衛たちは、口々に彼を責める。


「俺の本業は殺し屋だ。猟師でも護衛でもない。護衛は引き受けたが…捕まえるのも守るのも得意じゃない」


「襲撃者の気配を察知したりできなかったのか?お前、伝説の殺し屋なんだろ?」


「殺し屋は襲う側であって襲われることは想定しない。勘違いしているようだが、俺には赤外線センサーも防犯ベルもついてないぞ。だが…」


殺し屋をまるで超人やエスパーかのように思っているのだろうか。


サンチョは護衛たちに殺し屋にもできないことがあることを丁寧に説明した後、言葉を区切る。


「『だが』、なんだ?」


「追跡は殺し屋もする。獲物を仕留め損なうことは想定しているからな」


サンチョがそういうと廊下から自分の部屋に戻り、部屋の電気をつけて改めて室内を確認する。後ろから護衛たちもついてこようとするが、サンチョはそれを見て首を振る。


「ティアーモとアッラ=モーダの安否を確認したほうが良いだろう。それにまだ近くにいる可能性もある。手分けしたほうが良い」


「そう言ってお前が犯人な可能性だってあるだろう?」


護衛の1人がサンチョを疑わしそうに見る。


「ファジャーノと最後に一緒だったのはお前だし、目撃したのもお前だけだ。俺の勘はお前が犯人だと言ってるぜ?」


「…もっともな意見だ。ならどうする?俺を捕らえてお前達だけでファジャーノを探すか?」


サンチョの言葉に護衛たちは顔を見合わせた。






結局、護衛たちはティアーモとアッラ=モーダ、それぞれの安否確認を行う2つのチーム、ホーム内を探索する3つのチーム、そして、サンチョ・パッソを監視する1つのチームの計6チームに分かれて行動することになった。


サンチョは両腕を後ろで縛られ、さらに抜け縄できないように、まるでエビフライの衣のように足首から肩までロープでぐるぐる巻きにされていた。


その上、怪しい動きがあればすぐに射殺できるように4人の護衛に銃を向けられた状態だ。


ロープの先端は護衛の1人の腕に巻きつけられており、さながらリードをつけられた犬―――いや、エビフライのような状態で、サンチョは自分の部屋の痕跡を確認する。


明るくなった部屋を見回すと、サンチョが銃を置いていたテーブルの近くの床に銃痕が3つと5つのひしゃげた弾丸が落ちているのがわかった。しかし、部屋には一切の血痕は見当たらない。


床の3つの銃痕は恐らくファジャーノが襲撃者に対して、持っていた銃を発砲し、外したものだ。


残りの5つの弾丸はよく見ると「弾頭がぺしゃんこになっている弾」と、「ひしゃげているが、そこまで潰れていない弾」の2種類があった。


護衛の1人に5つの弾丸を拾わせたサンチョはやはり、と呟く。


「これがどうした?」


サンチョは「床をよく見ろ」と顎で床を示す。


「いくら暗闇とはいえ、巨大な標的が目の前にいるのに床に弾が食い込むのはおかしい。恐らく、ファジャーノは襲撃者に担がれ、その位置から銃を発砲したんだろう。多分、足に向けて撃った銃弾が外れて床にめり込んだんだ」


「? それが?」


「つまり、ファジャーノは敵を超至近距離で撃っている。逃げるために腕や足、頭なんかを狙ったんだろう…だが、2発の弾丸は身体のどこかにぶつかり、弾かれて…」


サンチョが顔を天井に向ける。天井には2つの凹みがあった。


サンチョが弾を拾わせた護衛は自分の手の平にあるそこまで潰れていない2つの弾丸を見て、「これか」と呟く。


「ああ。そして、多分、残りの3つ。これは身体に押し付けるようにして撃ったものだろう」


サンチョは頷きながら弾頭がぺしゃんこになった3つの弾丸を顎で指し示す。まるでねんどを壁に思い切り投げつけたかのような潰れ方だ。


「だが、部屋には血が一滴も見当たらない。この弾を見ればわかるが、身体を貫通した様子もない。身体にぶつかって潰れたんだ」


「つまり襲撃者には銃弾が効かないってことか?」


別の護衛がサンチョに銃を向けながら尋ねる。


「…少なくともゼロ距離で発砲しても俺の銃(・・・)では傷一つ与えられないらしいな」


「お前の?」


サンチョは苦い顔で頷く。


「どうやら、ファジャーノは俺が机に置いておいた銃を取って、襲撃者に応戦したようだ…壊れてないといいが…」


長く使っている道具には愛着が湧く。ちゃんと自分の手元に戻ってくるかが心配でならない。


道具が自分にしっくり来るようになるまで長い年月を要する。また、あの銃の代わりになるものを探すのは一苦労だ。


サンチョは部屋の扉にぴょんぴょんと跳ねていき、護衛たちを振り返って「行くぞ」と声をかける。


「部屋はもういいのか?」


「ああ。襲撃者はすぐにはターゲットを殺さない。今ならまだファジャーノは助けられるかもしれない」


襲撃者がファジャーノを担ぎ上げた後に、彼が発砲したということは、襲撃者の目的は彼の殺害ではない。サンチョが襲撃する側ならば、間違いなく真っ先に対象を殺す。抵抗されるのが面倒だからだ。


仮に、死体をなんらかの意図があって隠したいとしても、あの巨大な身体ならば、ファジャーノを殺してしまってから運んでしまった方が生け捕りよりもずっと楽な筈だ。


しかし、そうしなかったのは、なんらかの理由でファジャーノを傷つけたくなかったからに違いない。


しかも、どうやら襲撃者には、ファミリーのメンバーを相手取ったとしても逃げ切れる自信があったようだ。だから、どうせ弾丸は効かないし、撃たれて周りが集まってきたとしても問題がないので、ファジャーノの発砲を許した。やはり犯人は内部の者である可能性が高い。


その後、サンチョの部屋を出てから発砲音がなかったことから、ファジャーノは銃を取り上げられたか、意識を奪われている可能性が高いだろう。


追いかける前に、「銃をファジャーノが持っている」、「銃弾は効かない可能性がある」、「襲撃者は内部の人間である可能性が高い」という3つの情報を得たのは大きい。


「急ぐぞ」


エビフライのように全身を縛り上げられたサンチョは両足でぴょんぴょん跳ねながら廊下に飛び出る。


その様子を見て「なんて活きの良いエビフライなんだ…」と護衛たちは呟き、彼の後を追った。


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