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第1話 ナポリタンと乳酸菌飲料水ミルク割り

初めましての方は初めまして。こんにちはの方はこんにちは。チョッキリです。私が先日夢の中で見た話を物語にしてまとめてみました。よろしければ最後まで読んでみてください^^

― グラデーボレ・シティ Bar「Delizioso」 夜 ―


「マスター、いつものを」


「はいはい、ナポリタンのピーマン抜きと乳酸菌飲料水のミルク割りね」


小柄な背丈の小太りの男がバーのカウンターでボソリとマスターに注文する。


馴染みの店のバー「デリチオゾ」のマスターは笑いながら丁寧に磨き上げられたグラスに乳酸菌飲料の原液を注ぎ込み、3:7の割合でミルクを継ぎ足す。


「お前さんもそんなナリなんだからウィスキーの一杯でもやれば様になるんだが…」


カウンター席に座った男は長くカールした立派な口髭を生やし、黒い帽子、黒い服を着て、夜にも関わらずサングラスをかけていた。隣の席には彼のアタッシュケースが置かれている。


声は身長の割に低く、ハードボイルドな雰囲気を(かも)し出している。


「…俺は酒は飲まないんだ」


「それは職業柄、かい?立派なもんだ」


「…そんなんじゃないさ」


トン、と置かれた乳酸菌飲料水のミルク割りをちびりちびりと舐めながら男は応える。


「ほお、じゃあたまには試してみるかい?上等なバーボンがあるんだ」


「やめとけよ」


男は白く染まった口髭をハンカチで拭いながら短く断る。


「………酔っ払って店をぶっ壊されたくなかったら、な」


「酒癖がめちゃくちゃ悪いのかい…」




ここはマフィアが力を持つ街―――グラデーボレ・シティ。


盗み、詐欺、強盗、恐喝、暴行、殺人なんでもありの世界一デンジャラスでスリリングな街だ。


このグラデーボレ・シティには表の顔と裏の顔があり、高層ビルが立ち並び、カジノやビーチなど高級リゾートもある一方で、メインストリートを一歩外れるとドラッグの売人や薬物中毒者、物取り、物乞いなどで溢れかえっている。


市長のテスタ・ジャルディーノ=フィオリートはとある新聞記者のインタビューで貧困格差についてこうコメントしている。


『貧困ンンン?この愉快な街でもし、スラムの住民が目に入るなら、君たちは全くこの街の本質を理解していない。この街にあるのはドリーム()ジョイ(喜び)それだけだ。成功するチャンスは砂漠の砂粒の数ほどある。それを手にできるか、できないか。―――嘘だと思うならチェーロホテルのカジノで全財産を突っ込んでスロットを回してみると良い。きっと人生が変わるはずだ。私はそうやって今、この場に立っている』


―――おわかりいただけるだろうか?グラデーボレを代表するクレイジーな市長だ。


こんなクレイジーな市長が選出される街だ。基本的にはなにをしても許される。


そう、街で力を持つマフィアのキャッティーボ・ファミリーやヴィオレンザ・ファミリーなんかに睨まれなければ、基本的には殺しだって金次第。金を渡せば警察は知らんぷり…無罪放免だ。


そんなこの街で恐れられるのはマフィアだけではない。


マフィアのボスも恐れるのがそう、「殺し屋」だ。


そして、この乳酸菌飲料水のミルク割りをちびりちびりと舐めるこの男こそ、なにを隠そう、このグラデーボレ・シティでも有名な凄腕の殺し屋―――「サンチョ・パッソ」だった。


「ところでサンチョ、キャッペライオ・ファミリーのボスがお前さんを探しているらしいが…お前さん、なにかやらかしたか?」


ナポリタンを口いっぱいに頬張りながら男は首を傾げる。


「さあ?心当たりが多すぎてわからないな。―――それよりもマスター、ソーセージがいつもより少ない気がするが」


「キャッペライオ・ファミリーに睨まれてもナポリタンのソーセージの方が気になるお前さんは大したタマだよ。…ソーセージは足りなかったんだ、勘弁してくれ」


「次回は大盛りにすると約束しろ」


「はいはい…」


マスターは肩をすくめて苦笑いする。その時、カラン、と来店を知らせる鐘の音がなり、高そうなスーツを着込んだ男たちが駆け込んでくる。


「サンチョ・パッソだな?」


スーツの男たちの中で一番高そうなスーツを着た男がナポリタンに入っているソーセージを大事そうに食べている男の背中に声をかける。


「…食事中だ。もう少し待ってくれないか?」


ソーセージをもぐもぐと食べながらサンチョは振り返りもせず、返事をする。


「俺たちがキャッペライオ・ファミリーだと知っていてその態度か?噂通りの男だな。…だが、お食事はこれで終わりだ。鉛玉(こいつ)を脳天にぶち込まれたくなかったらな」


サンチョの返事が気に入らなかったのか、高そうなスーツを着た男は懐から拳銃を取り出し、後頭部に銃口を押し付ける。


「おいおい、厄介事はごめんだ。やるなら外でやってくれ。ここは一応、コンパーニョ・ファミリーのテリトリーだぜ?」


「悪いな、マスター。パパ(ボス)からはコイツを連れてこいって言われてるんだ。さあ、サンチョ・パッソ、大人しくこちらに従ってもらおうか」


高そうなスーツを着た男は銃口をぐい、と再度強めに押し付ける。


「…連れてこいって言われてるんだろ?俺がナポリタンを食べ終わるくらい待ったらどうだ?」


「…お前、本当に撃つぞ?」


「俺を撃ったら困るのはお前じゃないのか?」


「…ッ!!コイツッ!!」


銃口の引き金を絞ろうとした時、サンチョは「やれやれ」とため息をつき、乳酸菌飲料のミルク割りをぐい、と飲み干すと、口元をハンカチで拭った。


そして、赤いソースのついたハンカチを丁寧に畳んでポケットにしまうと、カウンターから降りる。


「マスター、ご馳走様」


「はいよ。お代は…………あー…………次回でいいよ」


「助かる」


「その代わりソーセージ大盛りの件はチャラだ」


「…むう」


サンチョは小さくうなると、「お前のせいだぞ」とばかりに自分に銃口を向ける高そうなスーツを着た男をじろり、と睨む。


その目を見て、男の全身の毛穴がぞわっと逆立った。


―――コイツ、やべぇ…


もちろん、彼もサンチョ・パッソの噂は知っている。


だが、あくまでそれは噂であり、実物は初めて見る。


高そうなスーツの男もマフィアのファミリーの一員としてそれなりの修羅場はくぐってきたつもりだ。腕っぷしにもそこそこの自信はある。


しかし、この目は違う。


例え、彼が至近距離で銃を発砲しようとも、ナポリタンのソースのついたフォークで受け流され、次の瞬間、目玉をブスリ、とやられるだろう。


ひと目見られただけで、そうしたイメージを鮮明に脳内で浮かべてしまうほどサンチョと彼には実力の差があることが本能的にわかった。


この口髭の端が乳酸菌飲料水で濡れた男は生物としての格が違う。


―――流石、サンチョ・パッソ。パパ(ボス)が呼び立てるわけだぜ…。


しかし、高そうなスーツの男もマフィアの人間。プライドがある。


部下たちの前でビビっているところを見せるわけにはいかない。


「…こっちだ。ついてこい。車を回してある」


「ああ」


サンチョは頷くと自分の隣の席に置いてあったアタッシュケースを掴む。


ビビっていないフリをしながら、高そうなスーツの男はサンチョの怒りを買わないように、さり気なく銃を引っ込め、バーの扉を開いてサンチョを前に通してやる。


―――決してこれはビビったわけじゃないぜ。お客さんだから前を譲ってやるだけなんだぜ。


高そうなスーツの男は当たり前という顔で黒塗りの高級車まで連れていき、彼を運転席の後ろの特等席に座らせる。


本来はこの中で一番序列が高い高そうなスーツの彼が座る席の筈だった。


運転手がチラリとバックミラーで高そうなスーツの男を見るが、男は顔を一瞬しかめると「さっさと出せ」と命令した。




※名前の由来(基本的になんちゃってイタリア語)

 ・サンチョ・パッソ:サンチョはスペイン語で「気軽な」、パッソはイタリア語で「ステップ」

 ・バー「デリチオゾ」:美味い・バー

 ・グラデーボレ・シティ:愉快な・街

 ・テスタ・ジャルディーノ=フィオリート(市長):頭=お花畑

 ・チェーロホテル:天空・ホテル

 ・キャッティーボ・ファミリー:いじわる・ファミリー

 ・ヴィオレンザ・ファミリー:暴力・ファミリー

 ・キャッペライオ・ファミリー:帽子屋・ファミリー

 ・コンパーニョ・ファミリー:仲良し・ファミリー


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