8:コンビニでバレー部エースを見かける
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咲の暴走から英太を守った(?)六花。
バイトを終えた六花を家まで送り届けます。
両親、そして咲とシフトを交代した英太と六花は月明かりと街灯が照らす比較的明るい夜道を並んで歩いていた。
六花がバイトのシフトに入っている時は、家まで英太が送って行くのがお決まりになっている。
六花は英太と同じ区画に住んでいるので、花月からものの数分歩けば家に着いてしまう。
しかしながらこの道は中心から外れているとは言え繁華街だ。
昼間ならともかく、とっぷりと日が暮れたこの時間。
ほろ酔いの男性が多く行き来するこの道を制服姿の女子高生を1人で歩かせるわけにはいかない。
しかも六花のように容姿端麗ならば尚更だ。
家の前に着くと、先を歩いていた六花がくるりと振り返り英太に向き直った。
「いつもありがとうな、六花」
「ううん。私もいつも送ってくれてありがとね。明日も朝一緒に学校行こうね?」
「おお。じゃあいつものコンビニの前で集合な」
「うん、わかった。おやすみ英太クン」
「ああ、また明日な」
英太は右手を軽く上げてそう応えると、その手をジーンズのポケットにしまった。
英太は踵を返す様子は無い。【沢北】と表札が掲げられたアルミ製の柵の前でたたずんでいる。
六花が家に入るまで見送るつもりなのだ。
これはいつも無意識にやっている事であり、六花は英太のこの些細な心遣いがとても好きだった。
六花は最後に小さく微笑み手を振ると、明かりの灯る玄関に入っていった。
それを見届けてからようやく英太は踵を返し、帰路に着く。
繁華街の路地を一本入った住宅街を歩きながら、ふと今日の出来事を思い返す。
六花と授業中にLAINのやり取りをした事、咲が迫ってきた事。
……いろいろあったが、やはり一番の出来事は凛子への告白。
結果は惨敗だった。しかしチャンスは確実に掴んだ筈だ。
確かにフラれたけど凛子の方から英太が作った弁当を食べたいと言ってきたのだ。しかも毎日。
まぁ毎日というのは比喩で土日などの休日はその限りでは無いだろうが、それでも週5で凛子と会う確約を得たわけだ。
1日30分。昼休みという短い時間ではあるが、一緒に昼食を食べるというのはやはり特別感がある。
月明かりと街灯に照らされた道をてくてくと歩く英太の足取りは過去例を見ないほどに軽かった。
明日の弁当の献立は決まった。
さりげなくバイト中に仕込みすら終わらせている。
凛子はバレー部のエース。身体作りのためには栄養バランスを考慮したメニューが良いだろう。
しかし、明日はある意味初日。
身体のことを考えたメニューもいいけど、まずは凛子の好きな物で固めた〝あざとい弁当〟でスタートダッシュを決めたい。
凛子の好きな物はリサーチ済みで、全ての料理のレシピは頭に入っている。
弁当の事を、凛子の事を考えると心が弾む。
確かに英太はフラれてしまった。
だけど凛子は英太の作る弁当を食べたいと言ってくれた。凛子の事を好きになるキッカケになった弁当。
それが再び英太と凛子を繋いでくれた。
確かに失恋はしたけど、確かに心は傷ついたけれど、それでも確かに英太の心は弾んでいた。
〜♫
スマホが通知を告げた。ポケットから取り出して見ると、六花からのLAINだった。
『送ってくれてありがとぉ おやすみ』
キャラクターの絵文字で装飾された文字。なんとも六花らしい絵文字に自然に頬が緩む。
ただ一つ、このメッセージがあの〝禁書目録〟の画像の下に表示されているのが気に入らなかったが。
「ん、もう一件……」
六花に返事を返していると再びスマホが通知を告げる。スマホを操作していたので音は鳴らず、画面上部にバナーが表示される。
『消しゴム買ってきて』
送信者は妹の典子だった。
英太と典子は年子であり、中学三年生の典子は受験生だ。受験勉強中に消しゴムが切れたのか。それならば急いで買って行ってやらなければならない。
しかし当の本人にその自覚は無いらしく、勉強らしい勉強はしている様には見えなかった。
六花のメッセージとは正反対の無表情な文面。
文面から察するにソファーに寝転がって作成したメッセージに違いない。ダラける妹の姿が目に浮かぶようだ。
少し面倒だなと思ったが通り道にコンビニはあるし、高い物でも無い。まぁいいかと思い直しメッセージを打ち込む。
『何でもいいか?』
『ノモのやつしか喉を通らない』
『わかったけど、喉は通すな』
『てんきゅー』
最後にキメ顔の坊主頭のキャラクターが親指を立てているスタンプが送られて来た。
スマホをポケットにしまい角を曲がるとこの辺りに唯一のコンビニが見えた。
消しゴムのついでにシュークリームでも買って行ってやろうか。そういえばシャーペンの芯が切れかかってたな。でも明日本屋に行った時でいいか。
軽い足取りでコンビニのガラス戸に手をかけようとして、ピタリと動きを止める。
いや、止まったと言った方がいいかも知れない。
LED照明に照らされた明るい店内に凛子が居たからだ。
「小清水……?」
未だ制服姿の凛子。浮世離れした美人な彼女に一瞬、いや少し見惚れてから英太ははっとした。
一度手をかけようとした引き手から手を離し、入口の端に捌けるとスマホを取り出し、イン側のカメラを起動させて自分の顔をチェックする。
バイト上がりに洗顔と歯磨きだけでも済ませていた自分を褒めたい。英太の顔に汚れはない。髪の毛……は少し乱れているけど仕方がない。
スマホをポケットに捩じ込み、再び店内に目をやる。
長身の凛子は立ち並ぶ陳列棚の背丈より顔一個分ほど背が高いので、店の外から丸見えだった。
背が高いだけで十分に目立つのに、芸能人顔負けの抜群のルックスをもつ凛子は何処にいても人の目を集めてしまう。
現に今もただコンビニで買い物をしているのに画になってしまう。
部活帰りかな? けどうちのバレー部ってこんな夜遅くまでするほど強かったか?
そんな事が英太の頭に浮かんだが、校外で凛子と言葉を交わせる機会はそうある事では無い。
英太は咳払いをし、声をかける準備をしてからガラス戸に手をかけた。
最後までお読みいただきありがとうございました♪
今回で凛子との会話回にするつもりが、前振りが長くなってしまいました(汗)
次回は明日更新予定です。お楽しみに(//∇//)!
連日たくさんの方に読んで頂けて嬉しいです♪
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