7:女子大生の押しが強い
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咲に告白後の経緯を話す英太。
知らぬ間に咲のスイッチを押してしまう英太くん。
凛子に告白してからの一部始終を話すと、咲は眉根を寄せて少し呆れたように言った。
「……って何だよソレ。完全にたかられてるじゃないか」
「いやいや。何でそうなるんすか」
「アナタとは付き合えません。けど昼飯は毎日作ってこいって側から見たらそう言われても仕方ないだろ」
「彼女はそんな子じゃないんすよ!」
「それダメ女に捕まる男の常套句だからな!?」
「あの子には俺がいないとダメなんです!」
「さらに悪化してる!? だからやめとけって……」
咲は英太のその言い分を聞くと、額に手を当てて頭を振った。まるでやれやれといったジェスチャーだ。
確かに今の英太は盲目的に見えなくもない。
事実だけ耳にすれば当の本人たち意外はみんな咲の様な反応になるかも知れない。
もちろん凛子はそんなつもりは更々無い。
しかしながら、その真意を知る術を咲が持ち合わせていないのも事実。
英太と凛子の真意が分からない以上、5つも年下の高校一年生の弟分、英太にするアドバイスとすれば咲の言い分の方が正しいのかも知れない。
「こいつはアレか、恋は盲目ってやつか? ……英太、お前の周りにいい女はたくさん居るだろ。周りを見てみろ、な?」
「……? どこにいるんです?」
咲としては半分冗談でそう言ったが、英太はピンと来ていないようだ。
英太は心底分からないといった様子でコテンと首を傾げる。純真無垢な瞳でお姉さんを見つめて、無言で答えを促す。
「……はぁ、いるだろう六花とか」
もちろん咲の言う『お前の周りのいい女』には咲自身も含まれているわけだが、ここは敢えて六花を引き合いに出す。
「六花は幼なじみですよ」
「幼なじみは真っ先にヒロイン候補に上がるだろ! ラブコメとか!」
「まぁそうですけど……ここ、現実っすよ?」
英太は、ロマンチックな事言うんですねぇと肩をすくめる。
ここで咲が勝負に出た。
六花を引き合いに出しておいて、満を持した質問を遠慮がちに投げかける。
「じゃ、じゃあバイト先の先輩……とか、ど、どうなんだよ?」
「ラノベとかアニメとかならありですよ。むしろ好きです「ほ、ホントか!?」……でも現実だとどうですかね」
「そこで倒置法使うなよッ!?」
最悪の緩急に半目になる咲。
一瞬気落ちした様に肩を落としたが、スクッと立ち上がるとゆっくりと英太に近付いて行く。
「現実だとどうなのかわからないって事か?」
「え、ああ、まぁそうですね。実際その立場になってみないと……って、咲さん?」
そう言っている内に咲は英太にゆっくりと、しかし確実に近づいて行き、もう一歩踏み出せば身体が触れるほどの距離にいる事に気が付いた。
「……試して、みるか?」
完全にパーソナルスペースに入り込まれた英太は一歩、また一歩と下がる。
すると咲もその分距離を詰めてくる。
咲の瞳に英太が映る。今にも吸い込まれてしまいそうになる程、深い光を放つ瞳。
その目鼻立ちの整った顔が近ずいてくる。上気したその表情はやや恍惚に見えなくもない。
気がつくと英太の背中は壁についてしまっていた。もう後退り出来ないというのに咲は歩みを止めない。
「ちょ、さ、咲さん!?」
英太が声を上げる。
それもそうだろう。密着する程近づいてきた咲の細く、それでいて弾力のある右脚が英太の股の下まで踏み込まれてしまっていたのだから。
「年上のオンナは無し?」
長身の英太を長身の咲が艶かしく覗き込む。
咲の急なアプローチに気恥ずかしくなった英太は視線を泳がせると……。
一瞬の隙を突いて、咲が英太の後ろの壁に手を突いた。いわゆる〝壁ドン〟の体勢になると英太は逃げ場がなくなった。
咲の吐息が掛かるほどの距離。
上品な香水の香りと咲の女性らしい甘い匂いが混じり合い、英太の理性を無遠慮に揺さぶった。
「あ、いや、その……」
英太は、無意識に背伸びしてしまう。
踵を床につけると……その、咲の柔らかい太腿に当たってしまうからだ。何がとは言えないが。
背伸びと同時に顔を背ける。
咲はモデルにスカウトされる程の美人だ。
本人の意思でモデルはやらないらしいが、彼女程の容姿ならすぐさま人気が出るに違いない。
それ程の美人の顔がほんの鼻先にあるのだ。
それこそ、気を許したら唇と唇が触れてしまいそうな程の距離に。
咄嗟に顔を逸らした英太の理性はむしろ誉めるべきものだろう。
しかし咲はそんな英太のアゴに優しく触れると、自分の方を向かせる。
鼻の先数センチのところに咲の唇がある。
赤いルージュで飾られたそれは艶を帯び、艶麗に輝く。
先程まで英太の瞳を見つめていた咲の瞳は、もう目は見ていない。
咲の瞳には、英太の唇しか映っていないのだ。
「……年上の、オンナは嫌い?」
英太の唇だけを見つめた咲がそう囁くと、熱を帯びた吐息が頬を撫でる。
ハイブランド品なのか、上品な香水の香りが更に濃くなり、一瞬飛びそうになる理性をなんとか引き戻す。
ダメだ、俺には小清水が……。
でもフラれたんだよな、俺。小清水にとって俺は何でもなかったんだよな。
そんな考えが英太の頭を過ぎる。
ほんの数センチ顔を動かせば、目の前にいる美人のお姉さんとキスしてしまえる距離にいる。
凛子のことが頭を過ぎり続けるが、同時に失恋したんだという虚無感が英太を襲う。
……いっそこのまま――。
そう思った。その空気を感じ取ったのか、咲の紅の唇がほんの少しだけ開いて……ゆっくりと英太に近づいて行く。
咲は鼻同士がぶつからないように少しだけ首を傾けて。
英太が最後の理性で何とか咲を正気に戻さなければと、そう思った時。
「英太クン、お皿ここに置いておく……………………え」
バッシングから戻ってきた六花が厨房を覗き込んで、固まった。
壁ドンして、アゴクイまでしてあと数センチでキスしてしまいそうな二人を……いや、状況と今までの言動から察するに咲が一方的に英太に迫っているのは明らかだった。
そう、咲のこの行動は今日が初めてでは無い。
六花は弾かれたように駆け寄り、咲に詰め寄ってその拘束を解いた。
「――って、何してるんですか咲さん!?!?」
「……ちっ」
六花の登場で〝企み〟が叶わなかった咲は小さく舌打ちをした。
「舌打ちですか!? 英太クンから離れて下さい……いや敬語なんて使うかぁ!! 今すぐ離れろぉぉぉぉぉ!!」
この後イナズマの様なスピードで2人の間に入ってきた六花によってなんとか英太の貞操は守られたのであった。
ほんの数分前には考えられなかったこの状況を未だ理解するに至っていない英太は、言い争うアルバイトの女子従業員をただ呆然と眺めるだけであった。
最後までお読みいただきありがとうございました♪
まだまだ序盤ですが、これだけの方に読んで頂けてすごく嬉しいです。ありがとうございます(*⁰▿⁰*)
ブックマーク、下部★での評価はお済みでしょうか??
物書きに取ってそれらは生命線です。なんだかんだ言ってやっぱり読者の方にブクマや評価をしていただけると嬉しいです(´∀`)
ブックマークと★の評価で、お一人12ptまでは入れることが出来ます……
く、下さい……_(:3 」∠)_ ブクマと評価を(切実)
感想やレビューもすごく嬉しいです。
読者さまとの距離が縮んだ気がするので。
次回は凛子回になる予定です(^^)
お楽しみに
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