エピローグ: 金髪碧眼の女子バレー部のエースに告白したらフラれたけど、俺が作った弁当だけは毎日食べたいと懇願された話のコレカラ。
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英太と六花が心通わせた体育祭から約2年後を描いたエピローグです。
どうぞ最後までお付き合いください。
――昼休みの屋上。
日本晴れを絵に描いたような青々とした空が広がり、暖かさをはらんだ南風が屋上を通り過ぎていった。
あの体育祭から2年が経った。
晴れて恋人同士になった英太と六花だったが、二人の関係が劇的に変化したのかというとそうではなかった。
もともと一緒にいる時間が長かった二人。
放課後、休日の花月でのバイトはもちろん続いているのでなかなかに二人きりでデートなどに出かける時間もない。
かといって『仕方ない』と割り切れるわけもなく、時間を見つけては二人きりの時間を楽しむようにしている。
「……んっ……ちゅっ……ぷはぁ……ん、ちゅ……」
「ん、ちょ、六花……」
英太が六花の肩をトントンと叩くと六花は名残惜しそうに唇を離した。
潤んだ琥珀色の瞳はトロンとしており、英太と自分の唾液がついた唇を撫でた。まるでキスの感触を思い出すかのように。
「どうして……?」
腕に抱かれた六花が物欲し気に英太を覗き込む。
キス直後だからだろうか、透明感のある頬は紅潮しているし興奮しているのだろう、心なしか息遣いも荒い。
もう一度その柔らかい唇にキスをしたくなる衝動を欠片ほどしか残っていない理性で押し退ける。
「みんなが来るだろ」
「むー」
「むーじゃなくて。ほらシート敷いてくれ」
英太に両肩を優しく押されて引き剥がされた六花は拗ねた子供のように頬を膨らませて抗議の視線を向けた。
それに気づかないフリをして昼食の準備を進める。……英太とて本当はずっと六花を抱きしめていたいはずだ。昼休みの屋上ともなれば何人かの生徒がやってくる憩いの場所。
そんな場所でキスなどをしていればいつ誰に見られるか分からない。
それに。
「あー、お腹すいた! 英太、ご飯!」
バン! と鉄製の扉を勢いよく開け放ったのは凛子だった。
肩まで伸びた金色の髪を揺らし、快活な様子で現れた。2年経って少し身長も伸びて今では英太よりも背が高い。プリーツスカートからすらりと伸びる脚の美しいこと。
「いや、俺は凛子のメシじゃないぞ」
「何言ってんのよ、こんなに美味しそうな匂いさせて」
レジャーシートに弁当箱などを並べていた手を止めて振り返る英太につかつかと近寄ると、そのまま首筋に形の良い鼻を近づけてスンスンと匂いを嗅ぐ。
「お、おい!?」
「……ん、この匂いは、ん?」
そしてそんな二人の間に光の速さで割って入るのは、言わずもがな六花だった。
スポーツに精通した凛子でも追えない程のスピード。
走るのは苦手なのにね。
バスケとかだったらいいセン行けんじゃない?
と凛子は思った。
「ちょ、凛子ちゃん英太クンから離れてよ!」
「英太からドロボー猫の匂いがするわね」
凛子のサファイア色の瞳が細くなり六花を睨むが、六花も負けじと凛子の眉間に指を突き立てて睨み返す。
二人には30cm程の身長差があるのが悔しいのか、一生懸命に背伸びしているので脚はプルプルしている。それに英太は気付いたが黙っておく事にしたようだ。
「ドロボー猫って誰のこと!」
「別に六花の事とは言ってないわよ?」
「目が言ってるの、目が! 英太クンに色目使うんだったらもうイタリアに帰ってよ!」
「はっはー、残念。開幕は10月だから今はオフなんですー」
「……チームが優勝出来なくてプレーオフ出れなかったんだもんね」
「ンだとこの偽幼馴染!」
「まあまあ、落ちつけ二人とも――」
「「何っ!?」」
「いや、何でもねーっす……」
八つ当たりとも言える二人の視線が英太に突き刺さると、両手を上げてもう降参だと顔を振った。
天真爛漫な凛子はつゆ知らず、いつも温厚な六花も恋人にベタベタとされては黙ってはいられないのだろう。珍しく感情的になっているようである。
前に比べるとかなり打ち解けたとは言えるのだが、英太の事となるとこの調子である。気兼ねなく話すようになった六花と凛子であったが、こればかりはどうにかならないものかと英太は頭を抱える。
凛子はイタリアのバレーボールチームと契約をした。
高校生でありながらイタリアのスーパーリーグのチームと契約するのは異例中の異例な出来事であった。しかも、一試合単位でギャランティが発生するパートの様な扱いだ。なのでこうして学校に通いながらヨーロッパのチームへと遠征しているのだ。
帰国した際には決まって英太の弁当を食べる。
そう、あの習慣は2年経った今でも続いていた。
とはいえ、恋人の六花が二人きりにさせるはずもなく、こうして三人で食事を摂ることが多くなって来ている。
「おっす、あー腹減った……ってまたやってんのか」
訂正。今は4人だ。
凛子に続いて屋上にやってきたのは、スカートスタイルのスーツを纏った咲だった。
いつもよりやや薄めのメイクもまた彼女の中にあるオトナの魅力を十分に引き出していた。
「咲さん」
「おいおい、今は先生だっつってんだろ」
「あ、構内は禁煙ですよ?」
「固いこと言うなって。バレなきゃいいんだよ」
咲はスーツの内ポケットから取り出したハイライトを紅いルージュが引かれた唇に咥える。
ライターを取り出し徐に火をつけると、白煙を吐き出しながらそんな事を言った。
その様子を見て英太が呆れた様に肩をすくめる。
「それ先生のセリフですか」
「はっはー、残念。今はまだ先生じゃねぇよ」
「言ってることめちゃくちゃすよ」
咲は貯水タンクにもたれかかると白い歯を見せてカラカラと笑った。これで教育実習生なのだから困ったものである。
大学4年生になった咲は教育実習生として母校でもある青葉高校にやってきた。もちろん教員免許を取得するためだ。
バンドが上手くいってないのかというとそうでもなく、少し前に待望のメジャーレーベルから新曲を出すことが出来た。
まだまだランキングなどには入ってきてはいないが、少しずつ周知されているようで、たまにラジオなどで取り上げてもらえるくらいになってきた。
徐々に人気が出てきているとはいえ、ミュージシャンとは不安定な職業である。故にこうして教師になるべく咲は日々努力しているのだが……知った顔がいると気が抜けるのか。特にこの頃の昼休みは大体こんな状況である。
2年前のあの日、この場所で英太は凛子に告白した。
それによって彼の周りの環境が目まぐるしく変わり、彼女たちを巻き込んで大きく動き出した。
凛子が、六花が、咲が、それぞれがそれぞれに得て、失った。
もしあの時ああすれば……。
その後悔が未来を産む。
4人が四通りの恋をした。
フラれた少年と、フッた少女。
それを見守る幼馴染、背中を押す女子大生。
みんなの想いが重なって、交わって。
俺が作った料理が、彼女たちを繋ぎ、結んで、創っていく。
――そんな物語。
『金髪碧眼の女子バレー部のエースに告白したらフラれたけど、俺が作った弁当だけは毎日食べたいと懇願された話。』END
最後まで読んで頂きありがとうございました。
このエピソードで当作品は完結です。
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長らくご愛顧頂きまして本当にありがとうございました。
読者様の応援あってこその完結です。
読者様の末永い健康とご多幸をお祈りいたしまして後書きとさせて頂きます。
本当にありがとうございました。
……と、ここまでが最初から考えていた後書きのメッセージです。
書き始めた当初はまさかこんなに沢山の方に読んでいただけるだなんて思ってもおらず、短編版を投稿した時はすごく驚いたのを覚えています。
実はこの作品に登場する英太、凛子、六花、さくらは私の処女作『最強左腕の青春ラブコメ』という作品に登場する人物達です。
処女作で完結までさせた作品だったのですが、訳あって消してしまいました。
しかし思い入れがあったその作品のキャラクターをなんとか復活させたいと思い、英太と凛子の短編を書いてみました。
やはり処女作というのは思い入れが強くて、こうして一つの作品として沢山の方に読んで頂けたのは本当に嬉しく思います。
作中の後書きで少し触れましたが、私は自身の高校生活を後悔しています。
確かに自ら選んだ道なのですが、未だに振り返ると『あの時ああすれば』と思う事が多々あります。……私が後ろめたい性格をしていると言って終えばそれまでですがw
彼らのように前を向き続けるのは難しいかも知れません。けど、日々の苦労も後悔も自分の糧になると信じて、これからも生きていきたいと思います。
リアルは辛い。いや、本当にw
でも創作の世界だけは、せめて物語の中だけは自由に。
ほんの少しでも皆様の人生の一部になれた事を嬉しく思います。
またどこかでお会いできる日が来る事を願って。
全ての読者様に、友人に、そして家族に、尊敬と感謝を。
2022.06.17 悠木悠




