6:バイトの女子大生にいじられる
ご覧頂き、ありがとうございます。
居酒屋『花月』のもう1人のアルバイトが登場します。
夜21時。
一次会を終えた客が席を立ち始め、これから二次会を始めようかとする客がやってくる時間。
六花は空いたテーブルを手早く片付け、英太は溜まった食器を洗う。
店内の様子を伺いながらシフト交代の為の準備を進めていた。
せっせと作業をしていると、裏口の引き戸がガラリと開き、厨房に長身の女性が入ってきた。
やや慌てた様子で入ってきた彼女は、アルバイトの藤村咲だった。
「おはよー! ごめん、遅くなった!」
「あ、咲さん、おざます」
咲は、近くの大学に通う女子大生。
上質なベルベットのようになめらかな黒髪。
腰まで伸びたそれは店内の照明を反射してキューティクルがツヤツヤと輝いている。
透明感のある白い肌。切れ長の瞳は黒目が大きく、気の強さが滲み出ているようだ。
真っ赤なルージュを引いた唇は、もともと彼女が持っている大人の色気を更に引き立たせていた。
やや濃いめの化粧はリスペクトするイギリスのギタリストに影響を受けたものか。
9頭身ほどあるのではないかと思えるようなモデル並みのプロポーション。
事実、街でモデルの仕事をしないかと誘われたことも一度や二度ではない。
肩で息をしているところを見ると、相当慌てて走って来たのか。少し乱れた長髪を手櫛で解いた。
「遅くなったって、まだシフト前じゃないですか」
「え、ウソっ?……今日何にち?」
「10日ですよ」
「うわ、11かと思ったぁ……アタシの勘違いかよぉ……」
どうやら日付を勘違いしていたらしく、咲は天を仰いだ。
「ふふっ、お疲れ様です。……あ、咲さんメシ食いました?」
「まだ。さっきまでスタジオだったんだ」
そう応えると、肩にかけていたギターのソフトケースを軽く掲げた。
咲の本業は大学生であるが同時にメジャーデビューを夢見るバンドマンでもある。
どうやらバイトの前にスタジオでバンド練習をして来た様だ。
それを聞いた英太は皿を洗っていた手を止めて、布巾で手の水気を取った。
「なんか食べます? 時間遅いですけど、なんか腹に入れた方が良くないすか?」
時計は21時を回っている。
夕食に適している時間ではないが、このまま深夜まで何も食べずに働かせるのは気が引けた。
それに咲のスレンダーな身体にエネルギーの備蓄がある様には思えなかった。
「え、いいのか? アタシはすごくありがたいけど」
「あでも軽いモノの方がいいですよね。漬物ステーキとかどうすか?」
「それ最高だけど飲みたくなるヤツ!」
「ははっ、バイト前なんすからダメですよ。じゃあすぐ作りますね」
漬物ステーキとは地方の郷土料理らしく、英太が調べて来て以来『花月』のレギュラーメニューに加えられた料理だ。
作り方は名前から察する通り至って簡単。
溶き卵に一口大に刻んだ白菜の漬物と鰹節と出汁を入れて混ぜ合わせる。
それを十分に熱した鉄板で焼く。
プライヤーで熱々の鉄板を掴み、卵が固まり切らない内に火から上げる。
木製のプレートの上に鉄板を置き、仕上げに醤油をひと回しすると、ジューという小気味良い音がした後に醤油の焦げた匂いが鼻腔をくすぐった。
白菜の漬物の塩気を卵が相殺して非常にまろやかな味わいになる。
「はい、どうぞ」
「サンキュ。相変わらずの手際だな」
「これ簡単ですから……あれ、裏で食べないんですか?」
英太から料理を受け取った咲は六花同様、その場に折り畳みの椅子を広げた。調理台を食卓代わりに使うつもりらしい。
「うん。聞きたい事あるし……ね♪」
咲は意味深にウインクをすると料理を調理台に置いて休憩室に入って行き、ギターだけ置いてすぐに戻ってきた。
「マジすか……」
六花に続いて咲までも凛子への告白の結果を聞いてくる……。
そもそもなぜ二人が告白の事を知っているかと言うと、昨日の夜のバイトの時の話だ。
昨日の英太は普段なら考えられないミスを連発していた。それはもう心配になる程に。
当然心配した六花が事情を聞いたところ、凛子へ告白するのが不安で仕方ないと白状したのだ。
それが昨日の話。
告白が不安で仕方なかったとは言え、翌日こんなにいじられるなら言わなければ良かったと英太は後悔したが、もう遅い。
「ふっふっふ。さあさあ聞かせなさい、どうやって撃沈したか」
「結果分かってるなら話さなくてもいいでしょう!?」
「まぁ顔見たら大体な。付き合えたならもっとウキウキになるだろ? でも落ち込んでないってのはどういう事だよ?」
「んーとですね……」
結局、なんだかんだ言って咲は英太にとって一番身近な先輩……言い換えれば、何でも話せる姉の様な存在だ。
咲も咲で、そんな英太からの相談を面白おかしくイジりながらも結局は親身になって受ける。
……とさっき告白の事を後悔したばかりのはずなのに、英太は訥々とことの顛末を咲に話し始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました♪
まだまだ序盤ですが、これだけの方に読んで頂けてすごく嬉しいです。ありがとうございます(*⁰▿⁰*)
ブックマーク、下部★での評価はお済みでしょうか??
物書きに取ってそれらは生命線です。なんだかんだ言ってやっぱり読者の方にブクマや評価をしていただけると嬉しいです(´∀`)
ブックマークと★の評価で、お一人12ptまでは入れることが出来ます……
く、下さい……_(:3 」∠)_ ブクマと評価を(切実)
感想やレビューもすごく嬉しいです。
読者さまとの距離が縮んだ気がするので。
次話は明日投稿予定です。
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