5:バイトの幼なじみにまかないを振る舞う
ご覧頂き、ありがとうございます。
今回は碧家で経営する居酒屋でのお話です。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませ、山下さん。今日は3名さまですか? 座敷の席へどうぞ」
『居酒屋 花月』
和風でモダンな店内は間接照明を基調としており、小洒落ている。
しかし気取った雰囲気はなく、ガヤガヤとしたテーブル席やカウンター席は仕事帰りのサラリーマンや、カップルなどで賑わっており、思い思いに羽目を外している。
店は大盛況。
次々に通る注文を端から順に捌いていくのは英太だった。
黒の襟付きのボタンシャツに小洒落たデニムのロングエプロンを腰に巻いてせっせと厨房で腕を振るう。
「揚げ出しとゲソは2番さん。大根サラダは座敷の4番さん」
急ぎながらも丁寧に盛り付けられたそれらの料理をカウンターの上に並べる。
「はいはい」と愛想良くパタパタと客の迷惑にならない程度の小走りで駆け寄ってくるのは、居酒屋指定の制服姿の六花。
「はぁーい、ありがとう。山下さんの注文置いとくね」
「あいよー」
にこにこと愛想の良い六花は明るく返事をすると、料理を手慣れた様子でトレイの上に乗せた。
代わりに今案内した客から取ってきた注文が書かれた伝票をカウンターに置き、足取り軽く運んで行く。
六花は白の襟付きのボタンシャツに黒のタイトパンツ。そしてデニムのショートエプロンを細い腰に巻き付けている。首には赤色のバンダナ。
居酒屋の店員というより、カフェの店員さんみたいだが、洒落た店内の雰囲気とマッチして違和感は全く無い。
むしろ六花の整ったルックスによく似合っている。
英太はフライパンを濯ぎながら伝票を確認し、すぐに調理に移る。
この居酒屋『花月』は英太の実家の一階にある居酒屋だ。
基本的に英太の両親が切り盛りしているが、ランチの時間帯から営業しているため、今の時間、両親は休憩を取っている。
高校生である英太や、フロア担当としてアルバイトをしている六花は深夜時間帯はアルバイト出来ない。
英太の両親は、英太と六花と交代する形でシフトに入る。
それまでは基本的に英太と六花と、もう一人のアルバイトで店を回すことになる。
決して広い店ではないが、店の雰囲気や立地。何より味と価格のおかげで連日大盛況だ。
英太が料理が得意な理由はここにある。
物心ついた時から調理に興味を持ちはじめ、気がつけば父親の隣で腕を振るってきた。
今では店長である父親の腕前に迫る勢いだ。
「六花、これ届けたらメシ食ってくれよ」
「あーうん、そうだね。落ち着いてきたし。ありがとう」
英太は注文が落ち着いたのを見計らって六花を呼び止めた。賄い、六花の夕食が出来たからだ。
英太が仕上げた鳥軟骨の唐揚げを客席に届けた六花が厨房に入ってきて、折り畳みの椅子を広げて腰を下ろした。
ふぅと、短く一息吐くと英太がドリンクを六花の前に置いた。
休憩室もあるがいつお客に呼ばれるか分からないので、彼女は厨房で賄いを取ることが多い。
六花は少し遅い夕食を摂りながら英太と言葉を交わすこの時間が気に入っていた。
英太が差し出したのはライムジュースにガムシロップを垂らし、水とソーダで割り、微炭酸に仕上げた六花お気に入りのドリンク。
トールグラスに注がれたそれは、ライムジュースの緑色で見た目にも美しい。
「ふふっ、ありがとう」
それを両手で丁寧に受け取ると、六花は目を細めて一口飲んだ。
ライムの酸味とガムシロップの程よい甘さ。シュワシュワと弾ける爽やかな微炭酸のジュースが喉を通り、空腹の胃に染み渡り爽快な気分になる。
「お疲れさん。ほれ、今のうちに食ってくれ」
そのタイミングで用意してあった賄い料理を、食卓替わりの厨房の作業台に置いた。
今日のまかないは英太特製『ガパオライス』
細かく切ったピーマンとパプリカを合挽き肉と一緒に炒める。挽き肉の色が変わってきたら、醤油、みりん、ウスターソースとオイスターソースを加えて更に炒める。
ニンニクを入れるとさらに味は良くなるが、六花に配慮して今回は生姜で風味付けをする。
木製の平皿にご飯をよそい、そこに炒めた挽き肉を盛り付ける。千切ったレタスを添えて、最後に目玉焼きを乗せたら完成だ。
栄養バランスを考えて野菜たっぷりのスープも一緒に。
「わぁ、美味しそう! いっただきまぁーす♪」
瞳を輝かせた六花が律儀に合掌してから木製のスプーンでひとすくいし、口に運んだ。
豚合い挽き肉から出る肉汁とパプリカの甘みが白米によく絡み、それにオイスターソースの旨味が混じり合い口の中に広がっていく。
「ん〜〜ッ! 美味しいっ♪」
スプーンを口に入れたまま表情を蕩けさせる六花の周りに花が咲いて行く様に見えた。
それほど幸せそうな顔でまかないを食していく。
「悪いな、いつもこんな慌てた夕食にしちゃって」
「ぜんっぜんいいよ。英太クンのご飯が食べられるってだけでも役得だよぉ〜」
よほどこの味が気に入ったのか、やや間伸びした口調で六花はそう言った。
六花の幸せそうな顔を見ていると自然に頬が緩んだ。
英太にとっては何よりの言葉である。
金銭が発生するアルバイトという立場だとはいえ、幼なじみに実家の家業を手伝って貰っている。それも夜の時間帯、酒の入った客の相手をしなければならない居酒屋で。
六花の蕩けるような顔を見ていると、心の隅で感じていた申し訳無さが少しだけ和らいだ気がした。
「ご馳走様でしたぁ……今日も最高だったよ♪」
「お粗末さま。ああ、皿はくれ。洗っとく」
「いいの? ありがとう。……こんな英太クンの料理を毎日食べられるなんて幸せだよね」
「いや、こっちは働いて貰ってるわけだし……」
「そうじゃなくて、小清水さん」
既に英太は凛子に弁当を作ることに至った経緯を六花に話していた。
「……そっちか」
「いいなぁー。私も作って来てもらおうかなー?」
チラッ
少しだけ言いにくそうに六花は呟き、遠慮がちに英太に視線を送る。
それが結果的に上目遣いのようになってしまう。
そこらの男子ならこの〝無意識にあざとい〟美少女の視線にドキッとしそうなものだが英太にその視線は届かない。単に慣れているのだ。
英太は六花の渾身の直球を(無意識に)華麗に見送った。
「六花は料理出来るじゃないか。それに毎日自分で作ってるだろ」
「え、うん、まぁそうだけど……」
渾身の直球を見送られた六花はやや肩は落としたものの、落ち込む様子は無い。
六花の方も英太の鈍感さには慣れてしまっているからだ。慣れたくはないだろうが……。
家庭的な六花は英太に劣らず料理上手だ。
英太の料理が商業向きなのに対して六花は非常に家庭的な料理を作る。
スーパーで安売りしている食材を中心に購入し、一食を低価格で上手にやりくりする。
そんな六花だから弁当も手作りなわけだが、どうやら六花も英太に作ってほしいらしい。
英太の料理はこの『花月』のシフトが入っている時に必ず食べられる。
しかも弁当と違って出来たてを。更に献立が限られるであろう弁当に対し、バリエーションも多様なのだ。
弁当より条件はいい筈なのに、英太と凛子の間で交わされた約束。
仲良さげに並んで弁当を食べる二人の姿を想像すると、心が痛んだ。
最後までお読みいただきありがとうございました♪
まだまだ序盤ですが、これだけの方に読んで頂けてすごく嬉しいです。ありがとうございます(*⁰▿⁰*)
ブックマーク、下部★での評価はお済みでしょうか??
物書きに取ってそれらは生命線です。なんだかんだ言ってやっぱり読者の方にブクマや評価をしていただけると嬉しいです(´∀`)
ブックマークと★の評価で、お一人12ptまでは入れることが出来ます……
く、下さい……_(:3 」∠)_ ブクマと評価を(切実)
感想やレビューもすごく嬉しいです。
読者さまとの距離が縮んだ気がするので。
まだまだお話は続きます。応援、よろしくお願いします。
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