07.お仕事……です?
アタナフネ·ダナイ式マジックミラー製法
・硅砂及びその他(銀等)の材料を用意
・精霊の力を借りて、硅砂とその他を別々に熱して溶かす(この場合、炉は必要としない)
・溶かした材料を平ら且つ均等に伸ばす(この場合も専用の場所は必要としない)
・所謂 板硝子で伸ばしたその他を挟む
・そのまま一晩放置して自然冷却
冷却を考慮しなければ、所要時間は三十分も要らない。
寸法は事前に聞いていたので、その分は作って来た。裏技見せたくないから、運ぶのメッチャ大変でしたよ❗ 運送ギルドで驢馬と梱包材借りて、梱包材で包む前に裏技で製品を保護して、包んで、驢馬に括って……えっちらおっちら片道三時間近く歩きましたとさ。驢馬って可愛い見た目にも拘わらず、とっても気難しい。それでも今回お世話になった(私が勝手に呼ぶところの)チガヤちゃんはまだ私に懐いてくれているので、なんとかなりました。
問題は城に着いてからですよ(怒り)‼️
荷物搬入用だろう門へと(人の動きを見て)そちらへ行けば、不振人物扱い。呼んだのそっちだろう、知らねーわ! もう二度と城からの依頼は受けないとゴネテいる間に、問い合わせに奔走してくれた別の係員さんが別の入り口(門)へと案内してくれた。これが、どういう訳か王家や国賓しか使えない正門。
想像してください。
ドでかいきらびやかな正門をチマッとした驢馬の背に荷物括って引っ張った私が潜る様を……。
あまりの情けなさに泣きたくなった。
そんなこんなで私は憮然としている。本当、疲れた。
目的地に着くまであれこれ回想して少しは気が紛れたけれど、決意は変わらない。もう城の依頼は受けない。これ一択。
何はともあれお仕事開始。
本当に硝子しか持って来ていないので、枠組みはお城で用意してもらっている。その枠組みの寸法を測るのにメジャーを用意。円形っぽい塊からリボンのような定規が出て来て、ボタンを押すとスルスルっと塊に収納される便利なあれ。勿論驚かれました。無視です。今仕事中。
一旦、組まれていた枠組みを分解し、硝子を嵌める為の溝を鉋で削る。この枠組み用の鉋もお手製。いちいち監視 (だろう)役人さんや城の職人さんが反応するけど、次第に鬱陶しくなってきた。……集中。仕事に集中しよう。心頭滅却。全集中!
削り終わったら、硝子の周りに枠組みを嵌め直していく。その際、硝子の保護の為に両面に貼り付けておいた薄紙を剥がした。ら、本日一番の騒ぎになりました。煩い。
「何だそれは? 紙? そんなに大きな紙などある筈が⁉️ 薄いぞ‼️ 何だこれは⁉️」
この世界、紙はまだまだ高い。学校での勉強は、学園でも半数以上がハンディ黒板を使っているくらい。因みに、ノートを使用しているお金持ちは羽ペンとか使ってるんですぜ。その内に筆記用具とかも作って売り込みかけよう。
はい。硝子を嵌めたら後は知らない。とは言うものの、一応の確認と指導は必要。覗き部屋の方を暗く、観察対象の部屋は明るくを要注意。試した結果、上々の出来。
やっと終わったぁ!
さあ帰ろう。その前に庭の一角でも借りて、遅めのお昼でも食べよう。
興味津々に道具へ篤い視線を送るおっさん達を尻目に、私はササッとお道具を腰のポーチに仕舞い込んだ。
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初めの違和感は、帰りの案内人が替わっていた事だろうか。おまけに背後に護衛という名の騎士が付けられた点が、非常に薄気味悪かった。
故にアタナフネは少し迷った。空腹が限界だったので、いいかげん昼食を摂りたいな、と……。しかし、護衛騎士という名の監視役まで付けられたのでは言い難い。こいつ等に観察されながら食べられるのか? いやお断り案件だ。だが空腹が過ぎて気持ち悪くなってきた。
そんなこんなで、弁当を食べられる場所への案内を申し出た。
この申し出が笑顔で許諾される。
嫌な予感がした。しかし、弁当OK.がどうトラブルに繋がるのか予測できず、おめおめ着いて行ったのが運の尽き。何故か森らしき木立へ向かっているな、と気付いた時点で歩みが鈍る。だが護衛騎士達に追い立てられて、結局は森に入ってしまう。だが、そこで彼女はとうとう足を止めた。
如何しましたか? との、わざとらしく問い掛けてくるのへ、これ以上奥へ市井の人間が立ち入るのは不味かろうと直接的に返したところ、案内人がニコリと笑った。
--あ、これ逃げられないヤツだ……
案内人は言った。案内先に待っている お方が居ると。
「拒否権は?」
「城への出入りが許されているのなら、最低限の礼儀作法は心得ていますね?」
滅多な事では身分の低い者が高い人間からの要請を蹴るなど出来ない。そして疑いようも無く、ここではアタナフネが一番身分が低い。無いとも言う。
悲しきかな身分社会。
「せめて、どなたがお待ちになっているのかお伺いしたいのですが」
「無駄話はここまでにしましょう」
「無駄……」
アタナフネは連行された先で思った。
--あ、駄目だ。
案内されたのは見事な花々が咲き乱れる庭園。日射しを遮る東屋。壁の無い東屋の中には、生徒会の面々とプラス二名。それをぐるりと囲むように配置された護衛と侍従? と、侍女達。
「………わたくしに、どうしろと?」
案内人が答える前に一人の娘が立ち上がった。
「アタナフネさん、お待ちしておりましたわ! さあ、こちらへどうぞ」
セレネイア·メリテ·レイコトエが満面の笑みを以て招く姿を眺めながら、ポツリと一言。
「………あの中に入れと?」
「拒否権はありません」
何故かお茶会? 突入。
プラス二名は誰かな?