06.シュワッチから硝子窓
主役として登場させた筈が···
彼女は訳も無く「あ、駄目だ」と思った。
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アタナフネ·ダナイは現在、王城の廊下を歩いている。長い長い廊下を案内に従って歩いていると、ついつい考え事に囚われてしまうのは別にダナイだけの特性ではないだろう。
先週、生徒会に呼び出しを食らった時、〈学園の花(華)〉だの〈学園の女神〉だのとの呼び声も高いレイコトエ公爵家令嬢セレネイアが転生者らしいと判明した。しかも日本在住の似非日本人。何となくだが、下手な日本人より日本人かもしれない可能性もあっただろう。今更どうでもいい案件ではあるが……。更にどうもポンコツ臭が濃厚な気配……。こちらはどうでも良いと切り捨てられない案件である。できれば全員と関わり合いになりたくない。
それはそれとして、なにか? 転生者は日本(在住)人であるという決まりでもあるのか? 高度成長期の怪獣映画や戦隊物でもあるまいし。あれか? スプーンみたいなバッチとか掲げてシュワッチと雄叫び上げながら宇宙から遣ってきたヒーローに変身する、あれと同じ理屈か? 他の国は丸無視ですか? 日本人って何か特殊な民族だとでも? それとも日本という土地その物に何か絡繰りが? 等々、思考が支離滅裂の堂々巡りを起こしている。
城の現在地は、逾複雑な区域に入っている。窓も少ない。以前にやらかした〈窓から脱走〉は止めておこう。
彼女の思考は先週の生徒会室から脱け出せずにいる。
日本人がどうとか戦隊物や怪獣だとか、延いては宇宙から来たヒーローもどうでも良いのだ。問題は、ソコでは無いのだ。
セレネイアが反応した一言。
〈ゲーム〉
彼女はこうも言っていた。あなたもプレイヤーであったのかと。
………………
結局、あの後……教師パイエオンの衝撃暴露の後、アタナフネ·ダナイは〈転生者云々〉諸々を追及せず、時間切れで帰宅した。
もしあの流れで話し合いを続行していれば、互いにあれこれ情報のやり取りがあっただろう。そして互いの立ち位置もハッキリしただろう。だが、〈ゲーム〉と〈プレイヤー〉、この二つの単語が出て来た時点で答えは知れたものである。彼女の言う〈ゲーム〉であるならば、アタナフネ·ダナイの役割はヒロインであろう。だがゲームから派生しているかもしれない小説やアニメであったなら、その限りではない。もしかしたら頭の中にお花畑の広がる男狂いかもしれない。
……いやいや無い無い。
少なくとも彼女にとって、この世界は現実。〈アタナフネ·ダナイ〉は自分なのだ。ゲームとか物語とかの王道も邪道も関係無い。現在のアタナフネは自覚する限り、男狂いではない。寧ろ避けて通りたい。この世界、ある意味では前の世界より結婚に魅力が無い。アタナフネは仕事に生きたいのだ。男の顔色窺ってなんぼ(思い込み)の乙女ゲームのヒロインなんて荷が重い。嫌だ。重過ぎる!
思考が逸れ過ぎた。戻ろう。
もしもここがゲームと同じ世界であったならば、攻略対象は生徒会の面々+パイエオン教師辺りであろう。
……………
うん。無問題。
だって第二王子とは互いに反りが会わないし、眼鏡のカドケノス·オウル·パラヌスとは殆ど関わり無いし、教師のパイエオンは教師と言うより神殿関係者でそっちが本職。彼にとってのアタナフネ·ダナイは監視の対象者(危険人物予備軍)。強いて上げるなら、アイギス·ハルアダマス·クトニオンスが警戒対象かもしれない?
以前、校舎の近くをアタナフネが歩いていた時の事だ。上から椅子がアタナフネ目掛けて(だろう)落ちてきた事があった。それを偶々近くを歩いていたアイギス·ハルアダマス·クトニオンスに助けられてしまったのた。不覚。
まさかとは思うが……よもやあれで旗が立ったとか言うまいな……。
いや、関係無い関係無い。
でもあの一件が切っ掛けで、帰宅の際は校門までだが彼に送られる仲になってしまったのだ。
不覚‼️
でも、父を殺した貴族はクトニオンス一族の一員。聞くところによるとクトニオンス家の分家らしい。詳しくは知らないし、興味も無い。
別に親族だからといって怨めしい訳ではない。彼等も被害者であると知っている。クトニオンス家のまともな人間には同情すらしている。けれど……簡単に割り切れるものでもないらしい。
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そろそろ現実に向き直ろうと思います。
さて、今回わたくしアタナフネが何故城に居るかと言うと、単純に商売であったりする。
この世界、色々中途半端だったりします。
世界観は中世ヨーロッパ。だが一口に中世とは言ってみても、頭と尻尾では全く違うだろう。例えば同じ国でも時代が違えば文化も変わる。同様に、同じ国(同じ時代)でも東西南北所変われば、やはり色々違って来る。あんな小さな国日本でもあれだけ変遷に富み、土地柄で文化も多様化したのだ。だがこの世界は日本人が漠然と思い浮かべる〈中世の西洋〉っぽい世界観としか言い表す事ができない。
建物は石積みかレンガ積み、でも要所要所で木材も多用。柱とか床とかだね。アーチ構造もしっかりある。しかし、板硝子が無い。もれなく窓は硝子の入っていない(戸板で閉めると真っ暗になる)開け放ち式か、でっかい魚眼レンズの羽目殺し(実質只の明かり取り)となる。因みにこの城や学園は双方を併用して季節の違いに対応している。ついでの情報として、魚眼レンズ式窓と魔道具各種はステイタスの象徴だったりもする。だから王城や学園、有力貴族や有力ギルドなんかは無理してでも魚眼レンズ式窓を入れまくるんだね。
唐突だが視点はずれて、我が家にそんなお金は無い。新たに家を建てる時に設置できたのは開け放ち式窓だけ。尤も、実質的にはそれ以前の問題でもあったのだが……。とにかく私は割り切った。実は我が家は半分以上(精霊の力を借りて)私が建てた。大工達はろくに仕事をしなかった。物はついでである。現代日本人の記憶がある私は、どうしても板硝子の嵌まった硝子窓が欲しかった。無ければ作れば良い。私はチート魔法持ちだ。知識も多少はある。ええ、作ってやりましたとも❗
で、あまりに良い感じに出来たので、父関係でお世話になっていた自警団の屯所にも作って設置してあげた。ついでのついでで、マジックミラーも仕掛けてあげた。刑事ドラマで見る取り調べ室と隣室を区切るアレだ。そしたらやっぱり大評判。注文がわんさか入った。
さて、そうなると出て来るのが商業ギルドと職人ギルド、大工ギルドである。彼等は当然、板硝子製造に関する知識の開示を求めた。
まず初めに、大工ギルドは論外。我が家の施工に関する苦情と愚痴を並べ捲った。ついでに慰謝料も貰って、施工費として支払った代金も返金してもらった。そもそもお前ら設置する側で作る側じゃねーだろうと最後に指摘したら、黙った。同じ理屈で製作者側ではないと気付いた商業ギルドは、自主的に引き下がってくれた。うん、別に、私の剣幕がどうとかいう意見は聞かない。
残るは職人ギルド。交渉の場に現れたのは、硝子製品に関わる硝子職人ギルドだ。私は目一杯レートを引き上げて、只の板硝子の製法のみを登録する事にした。地球で言うところの特許の登録だ。つまり、不労所得の当てができた。ふふ……ガッツリ儲けてます。小学部の卒業時に就職で悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらい。金銭感覚が狂うくらい、ガッツリ❗ それも世間の硝子職人達が作れる板硝子って、まだまだ小さいにも拘わらずだよ⁉️
何はともあれ、そのまま窓に嵌められるような大きな板硝子は、まだ私にしか作れない。マジックミラーなんてもってのほか。この二つは商業ギルドを通して私に直接注文だ。けどマジックミラーに関しては注文拒否で遣ってきた。悪用に繋がるのが目に見えているからだ。
それを、今回、受ける。
次回へ続く