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教師として参加しています~~其の1

教師目線


「叔父貴……何で耳が赤いんだよ?」


クトニオンス(甥)の言葉が終わる前に、ダナイは二人のクトニオンスから距離を取ろうと動き出していた。


……ここで助けの手を差しのべればダナイからの信用を得られるだろうか?


私パイエオンは頭の中の誘惑を諫める。

ダナイは女神()を味方に付けたような少女だ。不用意に近付き過ぎれば、()()の二の舞になりかねない。


内心で己の手綱を引き締めている内に、どうやら話が進んでいたようだ。二人の脳きn……クトニオンスがダナイの前で片膝をつき、右手を心臓の上に、左手を彼女へ向けて差し出している。求愛というより求婚の姿勢だ。


「止め立てする方のあなたが、一緒になって何をしているんですか!」

「貴族の仲間入りなんて、地獄の一丁目への招待、いや、伏魔殿への招待状じゃないですか‼️」


私がクトニオンス(叔父)──ルプスの頭に拳骨を落とすのと、ダナイの叫びが部屋に木霊したのはほぼ同時であった。

そして


「伏魔殿⁉️ まさかの日本人⁉️」


本日特大の雄叫びが、何故かレイコトエ嬢から発せられたのである。




存在を忘れかけていたレイコトエ嬢が大声をもって立ち上がったものだから、我々男共は揃いも揃って呆気にとられた。


しかしさすがは女神達を魅了した少女ダナイである。二、三度瞬いた後、淡々と口を開いた。


「………富士山と言えば?」

「日本一の山!」


不思議なダナイの問いかけに打てば響くように、しかも嬉々として返されるレイコトエ嬢の掛け声。


「お城の屋根の上に鎮座する魚は?」

「金のシャチホコ!」

「鳥居と言えば?」

「神社!」

「鳴かざれば 殺してしまえ──」

「ホトトギス!」

「鳴かぬなら──」

「鳴かせてみせよう ホトトギス!」

「いま一つの『鳴かぬなら──』」

「………はっ! 鳴かせてみせよう ホトトギス!!」


 同じ答えが繰り返された事に、どうやら本気で気づいていないらしいレイコトエ嬢。実際ダナイが空かさず訂正に入っている。


「鳴く迄待とう ホトトギス です。では、

 古池や (かわず)飛び込む──」

「え? ………あれ?」

「……水の音」

「そう! それ!」

「せめて作者は答えられましょう」

「………千利休」

「そちらは更に古い時代の茶人。江戸時代の松尾芭蕉の名は?」

「存じ上げております! 超有名人!」


 その有名人を答えられなかったのですね、といった類いの突っ込みを入れてはならない。実際、男達には何が何だか分からない状況でもある事だし。

 ダナイが難し気な顔で何かを考えている。


「先のホトトギスの歌は誰を象徴しているのでしょうか?」

「『殺して』が織田信長。『鳴かせてみせよう』が豊臣秀吉。『待とう』が徳川家康」

「………戦国武将が答えられて俳人代表筆頭の名が出て来ない………本当に日本人?」

「アジア圏とアジア圏のクォーターでした。でも生まれ育ちは日本で、アニメと乙女ゲーム大好き少女でしたの♡」


「なるほど」と、ダナイが深く頷き納得したようであった。




それはそれとして……レイコトエ嬢の言葉が、幼い子供のようだ。しかも何を言っているのかさっぱり理解できない。だがダナイにだけは意味が通じているらしい。


「取り敢えず二人共、謎の質疑応答を説明して貰おうか」


意外にも、第二王子が冷静な声で場を鎮めたのであった。


〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉


「さて、いいかげん話して貰いたいのだが?」


第二王子の前に二人の乙女。

ダナイ嬢は安定の無反応無表情であるが、レイコトエ嬢はソワソワと落ち着きがない。これでは何かありますと言っているようなものだ。だが、なかなか口を開こうとはしない。

私は教師として口を開く事にした。


「レイコトエ嬢、この中であなた方の不思議な問答を理解できた者は居ません。この認識で合ってますね?」


レイコトエ嬢がチラリと隣に立つダナイを見る。しかしダナイの方は無反応のままだ。結果、レイコトエ嬢も(居心地が悪そうなまま)無言を重ねる形となる。


「ダナイにはレイコトエ嬢の言葉の意味が理解できていたようですが──ダナイ? 説明を」

「黙秘します」

「黙秘? 随分と難しい言葉を知っているのですね」


分かり易い嫌味には無反応。虐める形になって女神達の怒りは買いたくない。かといって放置も無い。はっきり言ってダナイは学内で浮いている。もう浮きまくっている。庶民の才女というだけで嫉妬の対象になるというのに、この子は天才だ。たぶん。きっと。……勉強はできるが人付き合いは壊滅的。天才にありがちな欠点なのかと思いきや、存外そうともいい切れなくなってきた。たぶんダナイは自ら他者との距離を置いている。誰か一人でも味方に付けようという意志が働かないのだろうか?


「……あなたの不思議な言葉が外に漏れれば、不都合な事態になるのではありませんか?」

「なりません」


私の意地の悪い言い方に周囲が揃って反応しかけたが、ダナイの即答によって遮られた。


「そも私はこれ以上無い程、生徒達には見下されています。元々独りですし、別に問題にはなり得ません。困るとしたら、レイコトエ様の方では?」

「貴様──!」


思わずだろう。怒りを表した殿下に落ち着くようにとパラヌスが宥め役を引き受けてくれている。その二人を他人事のように眺めて、ダナイは何かを諦めるように嘆息した。


「貴人への発言をお許し願えますか?」

「ここは学内です。しかも非公式の場。──殿下、宜しいですね?」

一応の私の確認に、殿下が一つ頷かれたのを確かめて、私はダナイを促した。


「どうぞ」

「レイコトエ様に質問します。この世界がどのような世界であるのか、お答えをお持ちでしょうか?」


またしても意味の分からない質問。だが──

レイコトエ嬢の目が世話しなく、右に左にと泳ぎ出す。本当に隠し事の出来ない方であるようだ。


「ゲーム」

「あなたもこのゲームプレイヤーだったの⁉️」


弾けるようにレイコトエ嬢が反応を示すと、ダナイが頭痛を堪えるように指先を額に当てる。また一つ溜め息をこぼして、ダナイは小さく首を振った。











パイエオンは書く予定の無かった人です。


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