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向日葵の思い出

向日葵の思い出

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 遠い遠い昔の記憶。時々思い出す。


「ねえ、りっちゃん。りっちゃんは好きな人とかいないの……へぇーいないんだ。じゃあ。私。りっちゃんと……結婚する!! りっちゃん。覚えててね。私……あなたが……」



「夢か……」


 俺は呟いて体を起こした。俺は宮本陸みやもとりく。今年で大学二年生だ。七、八年ぶりくらいに長野にある祖父の家に帰省している。ここ長野には生まれた頃から小学卒業までの約十二年間住んでいた。しかし卒業してすぐ親の転勤の都合で東京へ引っ越して、大学の夏休みに久しぶりに長野へと戻ってきているというわけである。久しぶりに祖父の家に帰ってきてもやることは特には思いつかずにせいぜい、だらだらと寝ることしかしていない。ここは相当な田舎で東京みたいにカラオケもなければゲームセンターもない。あるのは山と田んぼくらいだ。こんなことならゲーム機でも持ってくるんだったと少しばかり後悔をしていた。まあ、ゲームをしていたらおじいちゃんに子供は外で遊びなさいなんて言われて取り上げられてしまうのだろうが。


「陸! アンタは家でごろごろしていないで外で遊んできなさい!!!」


 ついに母さんの雷が落ちた。怒ったときの母さんはまるで金剛力士像みたいな顔になっておっかない。まあ、そんなことを言えばまた怒られてしまうかもしれないが、俺は母さんに言われるまま逃げるように外へと出て行った。しかし、外に行ってもやることなんて思いつかない。昔は川に入って魚を追っかけまわしていたが、流石にこの年になって一人でそれをする気にはならなかった。ただあてもなく車がほとんど走らない道路を歩いていると記憶の片隅にかすかに残っていた懐かしい声が聞こえてきた。


「あれ、りっくん。戻ってきたんだ」


 その声を聴いて俺は後ろを振り向いた。そこにはポニーテールでカジュアルな服を着た女の子がこちらをニコニコとした表情で見ていた。


「海。後ろ姿だけでよく俺だと分かったな」

「ふふーん。そりゃ分かるよ。だって赤ちゃんの頃から一緒なんだもん。しばらく会ってなくたって雰囲気で分かるってものだよ」

「お前も変わっていないようでなによりだ」


 俺が言うと彼女は嬉しそうに笑った。彼女は小波海こなみうみさっきこいつが言っていたが、小さい頃から一緒の幼なじみ。かなり久しぶりに会ったが、最後に会った時は俺と別れる時めそめそと泣き出すくらいの子供で泣き虫だったのに今はもはやその面影は全くなかった。


「もう、あの後少しは手紙を出してくれたり、顔出しに戻ってきてくれてもよかったんじゃないの」


 彼女はりんご飴のようにほっぺたを赤くぷくーっとさせると俺に文句を言った。


「ごめん。ごめん。ちょっと東京で忙しくてさ。連絡取る暇なかったわ。それに携帯電話も持っていなかったしね」

「ふん。いいもん。りっくんがいなくてもこっちはこっちで充実していたし」


 そう言って海はプイっと横に顔を向けてしまった。俺はこのやり取りを懐かしいと思って思わず目を細めたのだった。本当に海と会うのは久しぶりだったが変わっていないようで、そして元気そうで嬉しかった。感傷に浸っていたが突然思い出したように手を叩くと海は言った。


「そうだ、りっくん久しぶりに帰ってきたんでしょ。だったらこの街を案内してあげるよ」

「別に案内するところなんてないだろ。そこまで変わったわけじゃないんだから」

「ふふーん。いいからいいから。久しぶりに戻ってきたんだから忘れているかもしれないでしょ? ほら、しゅっぱーつ」


 海はそういうと、手を引いて歩き出した。全く。こいつの強引なところは変わっていないな。ちょっとだけ安心したよ。海に連れていかれて俺達は田んぼ道を歩いていた。


「それにしても道路の周りに田んぼが続いている所も昔と変わらないみたいだな。ここが全部なくなってビルとかになってたりしたらどうしようかと思ったよ」

「あはは、ないない。こんな田舎がそんな活気的な変化を遂げたら田舎村って言われている名前の意味が無くなっちゃうじゃん」

 海が言った通りここは長野の中でもかなりの田舎でそこから田舎村と呼ばれているのだった。しかし、東京に比べて空気も美味しいし常に車も走ってはいないためここもここで嫌いではない。そういえばあのイベントはまだやっているのだろうか。


「そういえばさ」


 俺が次の言葉を言いかけたところで海は足を止め前をじっと見ていた。怪訝そうな顔で空に話しかける。


「どうした? 海」

「りっくんあの子、だれだろう」


 海はそういって指をさした。その先には麦わら帽子をかぶった見かけない女の子がきょろきょろ何かを探しているのが見えた。


「ここの人じゃないね。観光客かな」

「まさか、こんなとこに観光に来るもの好きなんているかよ」


 俺が言うと海はだね、と苦笑した。海がここの人ではないと分かったのは、理由があった。この村は人口が少ない。ゆえに村の人たちは村のみんなと顔なじみなのだ。だから村以外の人が入ってくるとすぐにわかるというわけだ。少し近づいてみると、彼女は困った様子できょろきょろしているのが分かった。俺たちは顔を見合わせたがうなずいて話しかけることに決めた。


「あの。何か困りごとですか」


 俺が話しかけるとびくっとしてこちらを向いたが、じっと見た後に笑って言うのだった。


「すみません。実は叔母様にお使いを頼まれたのですが、地図を貰うのを忘れてしまい帰り道が分からなくなってしまったんです」

「そうなんだ。じゃあ、私たちが送るよ。場所はどこらへんなの?」

「鬼土寺山の近くです。多分近くまで行ったら分かると思うんですが」

「鬼土寺山?多分あっちのほうだ。そこなら知っているから案内するよ」

「本当ですか。それは助かります。あっ私は森本天もりもとそらと言います」

「俺は、宮本陸だ。こいつからはりっくんと呼ばれている。それでこいつは小波海」


 一通り自己紹介を終えて俺たちは並んで鬼土寺山へと向かった。鬼土寺山は俺達の家の反対方向にあり結構遠めの位置にあるのだが、そこの山の山頂から見える景色がとてもきれいで小さい頃よく海と一緒に登ったものである。


「それにしても、こんな村にわざわざ何をしに来たの?」

「えっ、実は私の親戚の叔母の家がそこにありまして、ちょっと夏休みだけこちらに遊びに来ているんです」

「へーそうなんだ、天ちゃんはどこから来ているの?」

「私ですか? 私は東京の人ですよ」

「そうなんだ! りっくんも東京から帰ってきているんだよ」


 海が言うと天ちゃんは無邪気な笑顔を見せて言った。


「じゃあ、おんなじですね。実はここの地形とか全然わからなくて困っていたんですよ」

「任せなさい、私もりっくんもここの地域を知り尽くしているんだから」


 おいおい、俺は戻って来たばかりなんだぞと突っ込む。そんな談笑をしながら歩いていたら鬼土山の近くにたどり着く。


「あ、そろそろ私の家ですよー」


 すると、そう言って天さんは走って行ってしまった。俺達も天さんを追っかける。山が見えたところで十字路を右に曲がってしばらく走っていると彼女は一軒家の前で止まった。それを見て俺たちも止まる。どうやら彼女の家は山の前みたいだ。天さんは一軒家の中に入っていったがしばらくして再び出てきた。そして天さんは言った。


「叔母様が迷っている私を案内してくれたあなた方達にお礼が言いたいみたいで、少しお時間大丈夫ですか?」

「うん。特にこれからやる事の予定も無かったしいいよ。な? 海」

「え、ああ……うん。そうだね」


 海は少し納得してなさそうな顔をしていたがうなずいた。今日やるのはせいぜい周りの村を海と散歩することだったし、それだったらいつでもできると考えたのだった。


「お邪魔します」

「あらあら、あなたたちが天ちゃんを案内してくれたのね。ごめんね、私が地図を持たせるのを忘れたばっかりに。でもありがとう。貴方たちのおかげで助かったわ」


 家に入ってリビングに天さんに案内されると、テンションが高い叔母さんが俺達にニコニコとお礼を言った。俺たちは彼女のハイテンションっぷりに戸惑いながらも大丈夫ですよと言う。


「この子は夏休みの間だけこっちに来ているんだけど五日で帰っちゃうのよ。だからよかったらその間だけでも仲良くしてくれる?」

「もう! 叔母さん。余計なことを言わないでよ。ごめんなさい。私がいても迷惑なだけですもんね。忘れてください」

「そんな事はないよ。別に天ちゃんがいても迷惑じゃない。じゃあ明日もよかったら一緒に遊ぼう。明日この街を案内してあげるよ!」


 俺が迷惑じゃないと言おうとしたがそれより先に否定したのは海だった。すると、天さんはパーッと顔を明るくすると言う。


「ええ、いいんですか? 本当に?」

「嘘つく理由なんてなくない? じゃあ明日朝に天ちゃんを迎えに行くから」

「うん。待ってます!」


 天さんは無邪気な笑顔でそう言った。帰り道俺たちは田んぼ道を並んで歩いた。


「ごめんな。海。今日は案内してくれるって言っていたのに」

「ううん。別にいいの。だって。おかげで友達が出来たんだもん」 


 海は嬉しそうに笑うと言う。その楽しそうな様子を見ていると俺もつられて笑みがこぼれた。夕日が沈む空を見上げて俺は言う。


「なつかしいな。昔はこの田んぼ道を学校帰りに二人で帰ったよな」

「本当にね。りっくんがいきなり引っ越してからもうそんなことはないとは思っていたけどまさかこうしてまた並んで帰れる日が来るとはね」

「本当だな。じゃあ、また明日」

「うん。じゃあまた明日ね」


 次の日。俺たちは天さんの家の前に来るとピンポンのボタンを押した。すると玄関から天さんの叔母さんが出てきたが俺たちを見ると大きな声で家の中にいる天さんを呼ぶ。


「天ちゃーん! お友達が来てくれたよ!早く準備しなさい!」

「分かっているよ!今行く!」


 家の中から返事が返ってきてしばらくすると昨日と同じ麦わら帽子に。白いワンピースを着た天さんが玄関から出てきた。彼女は照れくさそうに顔を赤らめて言う。


「えっと、格好変じゃないですか」

「うん。全然変じゃないよ。むしろかわいい」


 海は快活に笑うと言うのだった。それを聞いて照れた顔を見せる天さん。こうしたやり取りがあった後に俺たち三人は歩き出した。


「それにしても、一体どこへ行くんだ?昨日も言ったがここで案内するところなんてないだろう。せいぜい山と田んぼぐらいしかないんだから」

「ふふーん。りっくんは昔の事を全然覚えていないんだね。まあもう数年以上も前の事だから無理もないかな。でも意外と都会より田舎のほうが遊ぶ場所ってあるんだよ。いまからそのことを教えてあげる」


 自信満々に言う海。そんな遊ぶ場所なんてあっただろうか。ていうか。流石に都会より遊ぶ場所があるというのは少し大げさではないだろうか。そんな疑問をよそに彼女は俺らの前を先導して歩いて行った。俺達はそれを後ろから着いていく。しばらく歩いていると到着と言って指をさした。俺ら二人は指さしたところを見るとそこは川だった。


「おい、海。お前この年になって俺たちに川遊びをさせる気かよ。何歳だと思ってるんだ」

「ふふーん。川遊びに歳なんて関係ないよ。ほら見てみなよ」


 俺が呆れて言うが、見ろと言われた所を見ると天さんが目を輝かせて川を見ていた。川の水が流れる部分まで近づくとのぞき込んで嬉しそうに言った。


「わあー! お魚さんがいっぱいだ!」

「すごいでしょ。天ちゃん。ここの川は綺麗だからね。だから川の中で魚がたくさん泳いでいるんだ」

「すごいですね! 都会ではなかなか見れない光景ですよ」


 天さんはそう言って魚に手を伸ばした。しかし、あと少しのところで足りなくて魚に手が届かない。残念そうな顔をする天さんに海は言った。


「ねえ、川に入ってみない? そこまで川は深くないし、靴下と靴を脱いで足だけ川に入れば問題ないでしょ。今日は太陽がよく照らすいい天気だからすぐに乾くと思うしね」

「え、大丈夫ですか? 溺れないんですか?」

「あはは、かかとまでしかない水の浅さだから大丈夫だよ。よっぽど器用な人じゃないとおぼれないよ。幼少期のりっくんみたいにね。彼は凄いよ。この川で転んで慌てておぼれるって大騒ぎしたからね。全然水が深くないのに」


 ほっとけ。かなりほっとけ。ていうかそれは秘密にしてくれるんじゃなかったのか。あっさり暴露してくれやがって。


「まあ、大丈夫だよ。ここなら川の流れも比較的穏やかだし。おぼれる心配はない」


 俺も言うと天さんはおそるおそる靴を脱いでそっと川の中に入った。俺らもそれを見て真似して川に入った。入った瞬間水がひんやりしていて雪の中に飛び込んだような冷たさだった。思わず天さんは冷たいと言った。海は水を手で救い上げると天さんに向かってかける。


「えい! くらえ!天ちゃん!」

「うわっ、やったな!えい」

 

 水をかけられ一瞬天さんは怯んでしまうが、海に向かって反撃をした。その様子を遠くで見ていた俺に向かって海は言う。



「ほら、早くりっくんもやろうよ」

「いや、俺は別にいいよ。服も濡らしたくないし」


 俺が断っても海は後ろからぐいぐいと背中を押してくる。これ以上押されたら川に突き落とされそうだ。俺は嘆息をつくと言った。


「わかったわかった。今から靴を脱ぐから待ってろ」

「やったあ、じゃあ昔やったみたいに魚取りをしよう」

「魚取り……ですかでも釣り竿なんてありませんよ」

「釣るんじゃなくて魚を素手でキャッチするんだよ。上手く三人で追い込んで魚を両手で捕まえる。難しいけどね」


 俺が言うと目を丸くして説明を聞いていた。東京では魚取りなんてしないだろうからな。せいぜいやるとしても魚釣りくらいだろう。俺たちはさっそく魚を捕まえようと上流に向かった。そこから下流に向かって魚を追い込むのだ。最後のキャッチを天さんに任せた。直接魚を捕まえる役をしたほうが楽しいはずだからだ。


「コツはそっと驚かさないように水に手を入れて後は勢いで救い上げることだよ」

「おいおい、そんな大雑把な説明で伝わるかよ」

「でも実質そうとしか言いようがないでしょ?」


 確かにその通りだ。他になんて説明すればいいのか思い当たらない。魚を追い込んでもなかなかうまくいかずに天さんは上手く救い上げることが出来なかった。逃げていく魚を見て天さんは言う。


「むーなかなか難しいです。もう一回お願いします」

「まあ、最初からうまくはいかないよな。よし! がんばれ」


 そして何回目になっただろうか。いつの間にか太陽が上まで昇ぼって気温もかなり高くなってた。魚を追い込んでいまだと声を荒げた。


「えいっ」


 天さんはそういうと勢いよく川から手を高くあげる。それを見て空も俺も驚いた顔をして天さんを見る。まさか捕まえられるとは思わなかったのだ。


「や、やった!やりましたよ。魚を捕まえました」


 嬉しそうに抱えてこちらへと走ってくる天さんに叫ぶ。


「天さん! 嬉しいのは分かるけど足元躓かないようね!」


 俺の忠告も遅く天さんは足元の石に躓いて転びそうになった。それを見た俺と海は必死に手を伸ばして助けようとしたが間になかった。転びそうになった天さんを助けようとして俺たちも転んでしまう。これじゃあミイラ取りがミイラになるだ。俺たち三人は転んでしまいずぶ濡れになったがお互いのびしょびしょな姿を見て高らかに笑ったのだった。




「じゃーん。お弁当を三人分作ってみました。さあさあ、食べて食べて」

「おお、さすが! 海。意外に女子力がある」

「意外に余計じゃない?」

 俺たちは川の近くでブルーシートを敷いて昼食を取っていた。お弁当は海の手作りお弁当だ。海は昔から料理が上手だった。お弁当を開けて食べるが相変わらずの実力だ。


「ふふーん、天ちゃんがいるからね。腕によりをかけたよ。美味しい?」

「はい! とても美味しいです! こんな美味しいお弁当初めて食べました」

「初めてって、天さんお母さんのお弁当より美味しいの?」

「うちのお母さん小さい頃に離婚しちゃっていないから。お弁当を作って貰ったことないんです。お父さんは料理があまり得意じゃないから冷凍食品しか入れないし」


 寂しそうな顔でお弁当を握りしめて言う天さん。今の発言は迂闊だった。親戚の家に夏休みに一人で来ている時点でその可能性は考慮できたはずなのに。反省すべきだ。きまずくなってしまった雰囲気を変えるように海は言った。


「そういえばさっきりっくん大人ぶってこの年になって川遊びかとかぼやいていたのに魚追いこんでいるとき楽しそうだったよね」

「ああ、確かに海さんもですけど陸さんも楽しそうに追っかけてましたね」


 ああ、確かに楽しかったかもしれない。二人の楽しそうな雰囲気にのまれて俺もいつの間にか川遊びを楽しんでいたのかもしれないな。


「さて、食事も終わったし次はどこへ行こうか」

「あっ、ごめん。そういえば家の手伝いを忘れてて今お母さんにラインで怒られたんだ。ちょっと行ってくるね。夕方くらいには帰って来るから」


 そう言って急ぎ足で海は行ってしまった。いや二人きりにされても次にどこへ行けばいいのか分からないから困るんだが。俺は長らく地元を離れていてここら辺の場所とか詳しくないし。困り果てて天さんを見ると天さんはこちらを見てどうしたのと言いたげに首をかしげていた。さて、どこへ連れて行こうか。俺は必死に古い記憶で言ったことのある場所を思い出していた。


「あ、思い出した」


 そういえばあった。案内できる場所。思い出の場所。俺は天さんに着いてきてというと歩き出した。この時期だったらちょうど咲いている時期だろう。そう思ったのだ。後ろからついてきながらどこへ行くんですかと聞いてくる。それはお楽しみと俺は言って天さんに笑いかけた。


「さあ、着いたぞ」

「わー。向日葵さんがたくさん!!」


 空さんは目を見開いて言うと嬉しそうに走っていった。そう。ここは向日葵畑だった。この時期になるとここに咲いている向日葵が一斉に満開になって太陽の方向を向くのだ。まだ咲いているか少しだけ不安だったが咲いているようで安心した。向日葵を見て天さんも嬉しそうだった。俺は、ひまわり畑の中から出てきた天さんに言った。


「ここは海と俺がよく来た所なんだ。ほら向日葵って背が高いでしょ。だから向日葵の中に隠れちゃうと見つからないから親に怒られた時とかにここにきて隠れていたんだ。まあ、どっちみち帰らないといけないから意味ないんだけどね」

「じゃあ、ここは天さんと陸さんの思い出の場所なんですね」

「ん? まあ、確かにそういう事になるね」


 そういって笑った天さん。俺は彼女のその顔を見ていると昔のとある記憶が横切った。昔のあいまいな記憶。あの頃の記憶


「ーーーりっちゃんーーー私はーーー私はーーーあなたがーーー」


「陸さん?」


 その声で現実に引き戻された。天さんは心配そうな顔でこちらを見ていた。


「どうしたんですか?」

「ああ、いやなんでもないよ。そろそろ戻ろうか」


 そういってひまわり畑を出た。ひまわり畑を離れたところで振り返る。さっきの記憶は何だったんだろうか。何か大事なことを忘れているようなそんな気がした。そんなことを思いながら向日葵から遠ざかった。向日葵畑はどこか寂しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。帰り道の涼しい風が夏の終わりを感じさせた。


 向日葵の思い出














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― 新着の感想 ―
[良い点] 夏の終わりの切なさと儚さが詰まった良い作品だと思いました。 描写もとても綺麗でした。 私もあの夏の頃に…(別に戻りたくはないかな) [気になる点] 誤字が少しあったかなって感じでした。 ま…
2019/12/02 00:33 退会済み
管理
[一言] 課題お疲れ様でした! 青春が詰まった物語でした。 幼馴染再会で呼び名が「りっちゃん」になっているところがありましたが、間違いですかね?? 今回の文章、丁寧に書かれていました。 が、表現重複…
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