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夢の異世界  作者: 黄田 望
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私が嫌いな人


 内気な人を見るとイライラする。

 いつも自分の意見を言えずモジモジとして、言われた事には「はい」としか答えない臆病者が私は嫌いだ。

 特にアイツ。 朝日昇あさひのぼるは私が1番嫌いな人間の1人だ。

  

 私のクラスにはどうしようもないバカがいる。 そいつは学校の規則などお構いなしに髪を染め、両耳にピアスを開けている。 そいつの周りには不思議と人が集まる。 人に聞けばアイツといれば楽しい。 アイツがいれば面白い。 カッコいい。 イケメン。 優しい。 その他にも色々と出てくるが、私は不思議とそいつとは友達になりたいとは思わない。


 「おっはよー! ア~イちゃん!」


 そう考えているとそいつは現れた。 教室に入り私を見つけるなり手を振りながら近づいてきて目の前の席に座り込んだ。


 「おはよ。 アンタの席そこじゃないわよ。」

 「知ってるよ~! でも今はアイツいないしいいでしょ? お話しようよ~!」


 ヘラヘラと笑いながら私が答えなくても喋る。 

 昨日何してたとか。 晩御飯何食べたとか。 今度一緒に出掛けようとかどうでもいい話ばかりしてくる。

 だけど私は別にこいつが嫌いなわけではない。 どうでもいいのだ。 私は皆から慕われているこいつに全くと言っていい程興味が湧かないのだ。

 だから適当に「はいはい」とだけ返事を返しそれ以外は何も話さない。


 「あ・・あの・・」

 「アン?」


 そろそろ本当に何処かに行ってくれないかと思っていた時だ。 私が一番嫌いな人間がいつの間にか立っており目の前にいるこいつにオドオドした感じで話かけた。


 「なんだ。 朝日じゃねぇか。 ・・なんか用?」

 

 こいつの声のトーンが一気に落ちて低い声になった。 すると周りにいる数名の生徒がクスクスと笑う声が聞こえてくる。 私はその雰囲気に苛立ちを感じた。


 「そ、そこ・・僕の席何だけど・・ど、退いてくれないかな~・・なんて・・」

 「ハァ? なに? お前ここに座りたいの?」


 更にこいつの声のトーンが下がる。 朝日昇は怖気ついたのか肩を震わせて足を一歩後ろに下げた。


 「・・・たっく。 しょうがねぇなァ~。 ほらよっ。」

 

 しかしこいつは意外にもあっさりと朝日昇に席を譲った。


 「あ、ありが―――!!」


 だが、席を譲ってもらった朝日昇は椅子を見るなり顔を青ざめて動かなくなった。 不思議に思った私はさっきまでこいつが座っていた椅子を見てみると無数の画びょうが転がっていたのだ。

 椅子から立ち上がる際にこいつがばら撒いたのだろう。


 「ほらどうしたよ。 この椅子に座りたいんじゃないのか? ん?」

 「いや・・その・・」

 「遠慮すんなって! ほら! 早く座れって!」


 ニヤニヤと笑いながら画びょうがばら撒かれた椅子に座るよう指示するこいつと共に周りにした数名のクラスメイトはクスクスと笑う者や大声で笑う者、若しくは見て見ぬふりをする人間に分けられていた。

 朝日昇はその状況に堪えかねなくなってきたのか目に涙が溜まってきているのが分かる。


 「・・・あのさ。」

 「ん? なぁにアイちゃん! あっ、もしかしてもっと派手なのが見たいのかな? 任せてよ! 俺は自分が退屈なのも嫌だけど人が退屈でいられるのも嫌な気持ちに感じる人間なんだ!」


 まるで自分が善人で人の為にしていると言いたいような顔をして話すこいつを私は一目ひとめ睨んだ。 それがこいつ自身に見つめられたように見えたか睨まれたように見えたかは知らないがな。

 

 「ところであんた、誰?」

 「・・・へ?」


 さっきまで上機嫌だったこいつの顔が一瞬で固まった。 周りのクラスメイト達も私のこの一言で教室が静まり返った。


 「どうでもいいけど人の席に画びょうばら撒いといて何が面白いわけ? 気持ち悪い。」


 私は席から立ち上がり、立ちすくんでいる朝日昇の腕袖を引っ張り教室をでた。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 「・・・で? あんたはどうする?」

 「へ!」


 誰も通らない一階の廊下で後ろから静かについてくる朝日昇に声をかけた。 朝日昇は緊張しているのか裏返った声を出す。


 「ど、どうする・・とは?」

 「授業が始まったとはいえ今戻っても画びょうが無くなってるなんて事はほぼないわ。 私も今は教室に戻りたくないし午前中は保健室でサボるつもりだけど、あんたはどうするのって聞いてんのよ。」


 朝日昇が私の質問に答えようとしているのは分かるが、モジモジと手を動かしているだけで口が動かない。 その時点で私は朝日昇が話す前に会話を終わらせる事にした。

 だって、見ていてイライラするから。


 「もういい。 私は保健室行くからあんたは自分で決めな。 じゃあね。」


 そう言って私は保健室に入った。 保健の先生は丁度いないようだった。 

 私は先生が戻ってくる前に保健室のベッドに潜らせてもらおうと思ったが、その前にもう一度保健室のドアを音を立てずにゆっくりと開けた。


 あの教室に朝日昇を置いて行くわけにもいかず無理矢理教室から連れ出したのは私だ。 本来なら一緒に保健室に来てもらった方がいいと思うが、私はアイツが嫌いだ。

 だけど罪悪感ぐらいはある。 勝手に連れ出し勝手に置いて行かれたアイツが今廊下でどうしているのか気になったのだ。

 朝日昇にバレないようにコッソリと見てみると、朝日昇がしゃがみ込んでいるのが見えた。


 (あちゃ~・・。 やっぱりやり過ぎたか~。)


 教室の時点で涙を堪えていたような人だ。 冷たい態度を私がとったのが余程堪えたようだ。


 (ここは一度保健室に入れて落ち着かせるか・・・ん?)


 そう考えていると急に朝日昇は立ち上がった。 

 一体何をしているのかと思えば、朝日昇は廊下に転がっていたからのペットボトルと菓子袋を拾いあげ、近くのゴミ捨て場に捨てに行ったのである。

 そしてそこから重い足取りで教室に戻って行ったのだ。


 「・・・。」


 私はドアの前で座り込み、頭を壁にこついた。


 私はアイツが嫌いだ。  

 いつも自分の意見を言えずモジモジとして、言われた事には「はい」としか答えない臆病者が私は嫌いだ。

 そして、もっとイライラするのは朝日昇は人の為に動く善人の癖に、自分の事に対しては何もしないバカである事。そこが一番、朝日昇という人間に対して私が嫌う理由である。


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