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夢の異世界  作者: 黄田 望
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夢のような1日


 夢人。 それをカイリはその夢人という存在について森の中を歩きながら説明してくれた。


 「夢人っていうのはね。 私達の世界では伝説として語られているもの凄い人の事なの!」


◇ ◇ ◇ ◇


 その昔、この世界は破滅の危機に陥っていた。

 空は真っ黒な雲の覆われ地上は暗くなり、大地は揺れ土地は空へと飛んで行った。

 緑は枯れ果て、水は汚水となり、空気は毒となった。

 すでに生物の半数以上は絶滅して人間も絶滅寸前まで追い込まれた。

 この世界には、夢はもう見れない。 何故なら現実がすでに朽ち果てる未来しかないからだ。

 もう、この世界は救いのない状態だと誰もが諦めた。


 そんな時だ。 人々は諦め何処にも希望など無かった暗闇の中、1つの光が現れた。

 それを見た人はまるで神が照らした小さな灯りの様にも見えたらしい。 しかしそれは違うとすぐに気が付いた。

 光の中には人の姿が見え、その人物は世界に向けてこういった。


 『夢を忘れるな! 現実に目を背けるな! 夢も現実も向かう場所は1つ。 前を向け! そうすればきっと悪夢と感じる現実もきっと乗り越える事が出来る!』


 勿論その人物の顔を見た者は誰もいない。 光は天高く上にあり到底、人が聞こえる範囲ではない。 しかし人々は聞こえたのだ。 その光の人物の言葉を。


◆ ◆ ◆ ◆


 「よっと! これが夢人と呼ばれる人物の始まり! どう? ものすごく良いお話じゃない!!」


 カイリは道中にあった大きな岩に飛び乗り目をキラキラさせながら僕の意見を待ち構えた。 

 しかし僕はカイリが聞かせてくれた御話がどうしても童話などに出てくる御伽噺以上のもので捉える事が出来なかった。

 例えば仮にとある男性の前に綺麗な金髪の女性が現れ一足の靴を落としていった。 男性は女性に一目ぼれして唯一の手掛かりである靴のサイズで最愛の人物を探し当てる。 そして2人は幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。 ・・・とこんな超短編なシンデレラを聞かされたような物だ。

 そんな御伽噺を聞いてどうだったと聞かれれば「いい話だね。」と答えるのが当たり前だ。

 しかしどうだろう。 人とはそんな当たり前の様な事が聞きたいが為に会話をするのだろうか・・・。

 いや、答えは否だ。

 とすればカイリは何故僕にこんな話をしたのか。 それは道中2人で会話が途切れて気まずくなるのが嫌だからだ。 ならば僕も彼女の善意に答え会話を途切れさせてはならない。


 ここまでの考えをカイリから質問されて脳内で約1秒間の間で考えた結果・・・。


 「そ、そうですね・・い、いい話だと思います。」

 

 結局これしか思い浮かばなかった。 コミりょくの能力が極端に低い自分が憎い。


 「そうでしょ! まだ最後まで話してないのにすでに目頭が熱くなるんだからやっぱりすごく良い話よね~!」

 「・・・」


 しかしカイリは気まずい顔をする事も、つまらなそうな顔をする事もなくただ僕の意見に同意してくれた。


 「ん? どうかした?」


 僕の人生の中でたったあれだけの言葉で一緒に気持ちを喜びあってくれた人はいただろうか。

 学校のクラスメイト、家族の両親。 僕の交流関係はたったのこれだけ。 多いわけでは決してない。 それでも僕が生きて来た中でこんなに楽しく感じる会話があっただろうか。

 そう考え込んでいるとついカイリの顔をまじまじと見つめていた。


 「え・・・いや・・。 あの・・」

 「ん~? どうしたの?」


 ・・・まただ。 

 また彼女は声がどもって会話が途切れた僕に耳を傾けて話すまで待ってくれた。


 それが―――とても楽しい。


 聞いてくれたのが嬉しい。 話すまで待ってくれるのが嬉しい。 一緒に会話して楽しい。 

 今迄感じた事があるか分からないこの高揚の気持ちの中、僕の口は自然と動いていた。


 「なんで・・その光の人が【夢人】と呼ばれるようになったんですか?」

 「あっ! それ~? それ聞いちゃうノボルく~ん! よ~し話しちゃおっかなー! 話しちゃうよー! 実はね~~~~?」


 カイリは凄くもったいぶるように言葉を長く話していると僕の右肩に何か重い物が足からよじ登って来た。

 

 「バゥ!」

 「あらチビ助。 な~に~? 君も聞きたいのかな~? よっと!」


 大岩に乗っていたカイリはそこから飛び降りて僕のすぐ目の前に着地した。 そしてチビはカイリが聞いた質問に答えるように鼻を大きく上下に揺らしたのだ。


 「そうかそうか! 君も聞きたいか! それじゃあ今日はそろそろ日も暮れそうだしここで野宿としよう! 夢人の物語はまだまだ先があるからね! 腰を据えて落ち着いてからにしようか!」

 「はい!」

 「バゥバゥ!」


 まだ、ここがどういった場所で自分がどういった立場にいるのか理解できない。

 だけど今見てる景色と体験がもしも夢だったとしても、それは僕が生きて来た人生の中で1番、居心地がよく感じた夢のような1日となった。



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