夢人の住人
とても恥ずかしい物を女の子に見られた。
学校で涙目になることはいくらでもあったが、あそこまでボロボロと涙を流すことはなかった。
歳が近い女の子に泣いている顔を見られた上に僕が落ち着くまで色々と気を使ってくれた。 水筒の水を分けてくれたり、お弁当のサンドイッチを分けてもらったりした。
「そろそろ落ち着いた?」
「はい・・・。」
僕は目を赤く腫らした顔で小さく頷いた。
「そっ。 よかった。 それじゃまずは君の事情を聞く前に自己紹介しようかな!」
そういって彼女は立ち上がり僕を見た。
「私の名前はカイリ。 カイリ・ホープライトっていうの! そしてこの子は私の家族である【チビ】! よろしくね!」
「バゥバゥ!!」
チビと呼ばれたバグのような生き物は長い鼻を上下に振ってまるで「よろしくね!」と言っているかのような表情で僕を見上げ、カイリという少女は笑顔で自己紹介を終えると座り込んだままの僕に手を差し伸べて握手をさしのべ、僕はその手を何故か恐る恐るな感じて握手をした。
「えっと・・僕の名前は朝日昇です。」
「なんか珍しい名前だね? ん~・・じゃあノボル君でいいかな?」
「へぇ!!」
歳の近い女の子に名前で呼ばれた事などなかった僕は一瞬で顔が真っ赤になった。
「あれ? もしかして嫌だった?」
僕は全力で顔を左右に横に振った。
「よかった! ノボル君も私のことはカイリって呼んでね!」
「は、はい!!」
親友と呼べる友達もいない僕にとって名前で呼び合う人が初めてで、しかも女の子の名前を呼ぶなんてことも初めての経験ですでにキャパオーバーしそうな勢いだ。
そんな状態であるがカイリは両手をパンッと叩いて「さてと!」と笑顔で僕を見る。
「それでは自己紹介も終わったことだしノボル君の事情を聞こうかな! 君は何でこんなところにいるの? 見たところ冒険者でも魔術師でもましてや盗賊でもなさそうだけど?」
じっと僕を見るカイリの眼を直視できずつい視線が泳いでしまう。
実を言えば自分も今がどんな状況でここにいるのか理解できていない。 つい先ほどまで家のベッドで眠っていて気が付けば空から落ちてきたなど誰が信じるというのか。
それでもほかに説明する話もなくとりあえず僕はカイリに今の状況に当たる経緯をすべて話した。
すると彼女は口を手で覆い「うそ」と小さくつぶやいた。
「ね、ねぇノボル君。 もう一度話を整理させてもらうね? 君はここに来る前までは家のベッドで眠っていて最近よく見る夢を見ていた。 その夢はいつも空から落ちていく夢で地上に落ちる前には夢から覚めてしまうのに何故か今は空から落ちた地上で眠っていた・・・でいいかな?」
説明になると多少ややこしくも感じたが、大まかなことは大抵当たっているので僕は首を縦に振った。
「きゃーーー! すごーーい! まさか本当に現実に存在していたなんて!!」
「!?!?!?」
カイリは突然歓喜の声を上げチビを抱きかかええてグルグルと回る。 その間チビは「バ~ウゥ~」と目を回していた。
僕はそんなカイリを見て一体何が起きているのか全く理解できず1人で固まっていた。
一通り喜び終えたのかカイリは目を回したチビを下ろして僕に近づき両手を握ってきた。 その行動で僕はまた照れくささで顔を赤くする。
「えっと・・え? な、なんですか?」
それが今の僕にとって最大限勇気を振り絞った質問だった。
「ノボル君。 よく、聞いてね。」
彼女と僕との距離は唇が触れそうなほど近く、女の子から漂う良い匂いが僕の心臓を加速させる。 しかし近づいてきた本人はそんな事は気にしておらず何故か目を輝かして僕の目を見ていた。
「ノボル君。 君は伝説で語り継がれるあの【夢人】でしょ!」
「は・・ゆめ・・ひと? ・・ですか?」
僕はもう彼女との距離に我慢ができず溜まらず足を一歩後ろに引いた。
「そう! 夢人! 君はおそらくこの世界とは別の世界からこの世界に夢で訪れた夢の住人なんだよ!」