僕の現実
夢を見ていた。
それはまだ、誰も見た事もない不思議な世界で、大冒険の匂いするドキドキハラハラな少年漫画のファンタジーの様な夢だ。
その世界では1人では生きていけない。 沢山の人と協力してパーティを組み、助け合いをしながら発注されたクエストを攻略する。 そこで絆が生まれて「また明日」と笑顔で帰路につく。
だけどそれは夢だ。 それがずっと続く日々なんかではない。
「お~い? 弱虫眼鏡く~ん? 聞こえてますか~? 君の耳はお飾りなんですか~?」
現実の僕は今、学校の校舎裏で数人の同級生からパシリにされている。
「で・・でもその・・あった飲み物がそれしかなくて・・・」
「ハァ?」
茶髪に耳にピアスを開けた所謂不良の同級生が機嫌が悪そうな顔で僕を睨む。 僕はそれが恐ろしくて目を反らして肩を震わせた。
「おいおいおいおい・・・お前何言ってんの?」
「えっと・・だ、だから飲み物がそれしか――」
「んな事聞いてんじゃねぇよボケッ!」
「!?」
不良は僕の顔を殴り付けそのまま押し倒して数発殴ってきた。
「そこに俺が頼んだ飲み物なかったら学校の外に出て買って来いよ雑魚が!」
「そ、そんな・・勝手に外に出たら先生に―――」
「先生と俺、どっちが怖いんですか君は~? ん? なぁ!!」
「!!?」
不良はゆっくりと立ち上がったと思えば僕の腹部に蹴り付け踏みつけて来た。
「いいから今から買って来い。 じゃないとお前・・・殺すぞ?」
僕は肩を震わせながらゆっくりと頷いた。
その様子を他にも周りにいた不良の友人達が大声で笑ったりスマホで様子を録画したりして楽しんでいた。
僕は裏門から先生にバレないように外に出て近くにある自動販売機で頼まれた飲み物を数本購入した。 勿論お金は僕のお金だ。
頼まれたものをすべて買い、誰にもばれないようにコッソリと裏門から戻ろうとすると門の前で教育指導の先生が仁王立ちで立っていた。
「お前・・・何しとるんだ?」
「あっ・・えっとその・・」
「お前が授業サボって外の自動販売機に飲み物を買いに行っていると報告があってな。」
「!! ち、ちが―――」
そこで否定しようとしたが視界に窓から不良がニヤニヤと笑いながらスマホで僕が怒られている様子を撮っているのが見えた。
僕はそこで否定しようとした言葉をグッと飲み込んだ。 もしここで否定して誰に買いに行かされたか先生にいってしまうとさらに酷い虐めがこれから毎日されそうだったからだ。
僕は何も言えなくなり顔を下に向けて黙り込んだ。
「とりあえずお前は今から指導室に来なさい。 いいな?」
「・・・はい。」
◆◆◆
「ただいま・・・」
結局あれから一日教室に戻ることなく指導室で過ごす事になり僕は反省文と明日までの期限である宿題を渡されて家に帰って来た。
「あらおかえり。 早かったのね。」
リビングにはいるとテーブルで仕事をしている母がいた。
「夕食はお金あげるから勝手に食べて頂戴。 お母さんまだ少し仕事が終わりそうにないから。」
「う、うん・・・分かった。」
そう言って母は財布から一万円を手渡してまたすぐに仕事に戻った。
父はというと今海外出張中だ。 僕の両親は昔から仕事熱心の人だった為僕と話す時間があまりない。
僕は二階にある自分の部屋に戻ってベッドに鞄を投げつけた。
「はぁ・・・もう、嫌だ・・」
1人になりみるみる目から流れる涙がこぼれ落ちてくる。
一体あとどれくらいこの辛くてつまらない人生を過ごさなければならないのか。
学校に行けばパシリにされイジメられ、家に帰っても親と話す事など最小限で楽しい事など何一つない。
僕は電気もつけないうす暗い部屋で1人誰にも聞こえない程の小さい声で泣きながらつぶやいた。
「あの夢の異世界に・・・行きたい。」