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あやかし鬼譚~現代百鬼夜行絵巻  作者: フクロウ
外伝~雨、落ちる夜に~
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**********


 怜強は、そのまま隙だらけの鬼の顔へ打撃を叩き込むが、多少顔を歪ませるだけで不気味な笑みが消えることはなかった。即座に片方の腕が、怜強の顔を掴もうと伸びる。


「怜強!」


 御言が陣を展開し、その動きを一瞬止めた。地に着いた怜強は御言の後ろへ宙返りし、小刀を光らせるぬらりひょんを壁際まで蹴り飛ばした。再度振り下ろされる鬼の一撃をよけると、二人は後ろへと下がり、間合いを取った。


「怜強、まず当主を安全なところへ運びたい」


「ああ」


 梓が倒れた一振の体を起こし、肩に乗せた。辛うじて致命傷を避けたのか、意識はあり、首元に手を当て溢れ出る血の止血を試みている。


 二人は梓と一振を挟むように横に並んだ。


「俺が突っ込んで隙を作る」


「その隙に結界陣を張って」


「一旦全員で外に逃げる。振りかかる刃や拳は臨機応変に対応して。幸い、あの鬼が入口を広げてくれたからあそこまで行けば逃げることは容易だろう」


 だが、このままではどうしても行き詰まってしまう。


 ぬらりひょんはわからないが、羅城門の鬼は不意をついてでも倒すことは困難。先の戦闘でも陣に封じられて無防備な状態での乱打ですら起き上がってきた。首が折れているのにも関わらず、だ。あれを倒すには、俺にかけられた結界を解くしかない。


 もう一度化物になろうとも、ここで御言をみすみす殺すわけにはいかなかった。


「いくぞ!」


 怜強は走った。ひたすらに真っ直ぐに。御言を信じているからこそ、進む道に迷いはなかった。


「また馬鹿の一つ覚えみたいに突進か。鬼というのはどうしてこう単純なのか」


 ぬらりひょんが地面すれすれまで身を低め、疾はしる。怜強の反応速度よりも速く懐へ潜り込むと、刀を前へ突き出した。


 怜強は口元を綻ばせた。その太い腕にぬらりひょんの刃が突き刺さる。血が滲むのも構わず、刀を持ったままのぬらりひょんの腕を掴んだ。


「! 貴様!」


 怜強の後ろから現れた御言が、ぬらりひょんの体を縛る。次いで二人の背後から振り下ろされた腕を、怜強が御言の手を引っ張って避けると、その巨大な脚に陣が展開された。


「今だ!」


 御言と怜強は一振の元へ駆け寄るとその腕と脚を支え、外の赤に照らされた闇のなかへ急いだ。


「……君は……鬼なのか」


 一振が苦しそうな声を出して問う。


「そうです」


「そうか」


 それだけ言うと、一振は怜強の肩を強く掴んだ。


 時間にして数秒。たったそれだけの時間で、まず羅城門の鬼が、続いてぬらりひょんが結界から解かれた。後ろからの追撃に、怜強は一振を御言に託すと、文字通り壁になる。


 眩暈がするほど強烈な痛みが胸を這う。ぬらりひょんの顔が間近にあった。その顔が横を通り過ぎると同時に頭上から重圧が掛かった。


 気がつけば怜強は砕かれた床の下に入り込んでいた。焦って上へ飛び上がると、再び二体の動きが止まっている。どうやら時間にして一秒も経っていないようだった。


「怜強!」


「ああ!」


 急ぎ駆ける。ぬらりひょんの刀が上段から振り下ろされるのと、怜強の拳がそれを受けるのとはほぼ同時だった。


「ちっ、離せ!」


 食い込んだ刀の先を刃ごと握り締める。


「今のうちです! 当主!」


 梓に連れられて一振はついに離れを後にした。夜闇の中で一度だけ振り返って。


「っかあ!」


 小刀が怜強の太い腕から抜け出した。鮮血が溢れ出る傷口を抑えながら、怜強は御言とともに後ろへと跳ぶ。


「御言、あれをやってくれ」


「ダメ……。今やれば怜強が敵になってしまうかもしれない」


 向かってくる羅城門の鬼へ構えを取りながら、怜強は乾いた唇を舐めた。


「どちらにしてもこのままじゃ持たない。わかっているだろ?」


 御言は抵抗を示すように首を横に振る。その目が潤んでいた。


 躊躇している間にも鬼は怜強の元へ迫ってきていた。怜強の腕から溜まった血が噴き出し、その一撃に備える。が、予想していた重い衝撃は来なかった。


「こっちだ」


 かわりに真下から声が跳ね上がる。床下から切っ先が鈍い光を放ったまま出現し、そのまま怜強の顔に向かって垂直に伸びていく。


「御言!!!!」


 御言は腕を振り上げた。雨垂れのように涙を散らしながら。瞬間。怜強は後方へ上半身を反らすと、突き出た刀を跳び上がるように宙へ蹴り上げた。続けざまに着地と同時に前へ跳ぶと、羅城門の鬼の頭を掴み、体重を乗せて無理矢理地へとその巨体を押し付ける。


 土埃が舞うその中で、刀が辛うじて残された畳へ突き刺さるのを合図にしたかのように、怜強は雄叫びのような声を上げた。


「……怜強……」


 それはもう怜強ではなかった。本能のままに殺戮を繰り返す名も無き鬼。殺気が部屋中を満たしていくのを感じた御言の目の前に跳ぶ鬼は、掌底を放ち、御言を部屋の外へ移動させた

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