伍
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昔から人見知りで臆病で一人で過ごすことが多かった。いつしか空想の世界で遊ぶようになり、そこでは何もかもが自由自在だった。
だから、オカルトに興味を持つことは自然な流れだった。初めてその世界を知ったときには世界が180°変わって見えた。どこまでも続く深淵を覗き込むような気分がして、すぐにのめり込んだ。
次第に同じ趣味を持つ仲間も増えた。同じような気質でケンカすることもいがみ合うこともなく楽しい毎日が過ぎていった。
彼らと共にいるときだけは自分達が世界の中心でいる気がした。オカルトの研究にのめり込み、あれこれ議論を交わし、この世の真理を突き止める学者のように振る舞った。
しかし、仲間から離れ人の群れに紛れると途端に変わらない人見知りで臆病で一人で過ごす自分になった。誰とも交わることなく、ただの風景のように過ごす時間は、別に苦痛でもなんでもなかった。何かを思うほど、感じるほどそこで生きているわけではなかったから。
将来には何も思うことはなかった。ただ、ずっとオカルトの世界に触れていければそれでいいと思っていた。同じ毎日がずっと続いていても書物を紐解けば未知なる世界が広がっているのだから。
ところがだ。そんな日常はある少女と出会うことによって一変する。
常に上から目線で破天荒でフィールドワークを好むその性格は、今までの仲間たちとは対極にあった。次第に一人、二人と仲間は簡単に去っていき、残るのは自分一人だけとなってしまった。自分が築いていた世界は一人の少女により、簡単に侵略され消滅してしまったのだ。
それでも、文句一つ言うことなく毎日を過ごした。いつも手下か奴隷のように扱われても。今思えば、その少女の瞳には自分と同じ確たる思いを感じていたから。
もう一つ。その少女と関わることで大事な芯ができた。――それにはっきりと気づくのは、記憶を完全に思い出したもう少し先のことなのだろうが。
気持ちを奮い立たせて駆けつけた鬼救寺では、ホンモノの怪異が起こっていた。咄嗟に物陰に隠れた自分を突き動かしたのは、「足腰に力を入れなさい! ちゃんと目を開けなさい!! 諦める前にやれることがまだあるでしょうが!!!」という言葉。
吉良は、無我夢中に折れた刃を拾うと、傷つくのも構わず両手でそれを握り締め、妖怪の身体に突き刺した。