拾壱
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いぶし瓦から臨むその景色は、空間がねじ曲がったのかと思わせるほどには特異なものに映った。だが、それが異質なものとは思わない。というよりも、もはやそう思うことができなかった。
朝陽の眩しさから逃れるように額の上で手をかざすと、蓮は鷲鼻をひくつかせた。
(土埃に紛れて血の臭いがプンプンとしやがる。あのでかい化物も呪いの類いか……?)
目立たないように着用した真っ黒のスキニーパンツのバックポケットが振動した。そこからスマホを取り出すと、通知を開く。開いたSNSの画面には、今蓮が見ている光景とほぼ同じものが映し出されていた。
「……なるほど」
それだけで敵の意図がわかった。屋敷から最後の試練で外界へ出る際に教えられた情報を纏めると、一つの目的が見えてきたからだ。
(おそらく連中は人間に代わって妖怪の台頭を目論んでいる。京極家と紙都の抵抗によって気持ち悪い第一陣は失敗に終わったが、今回は第二陣。確実に追い詰めようとしてきてやがる)
『いいか。これには、犬山家の復権も関わっている。決して機会を逸するな』
わかってるよ。ようは京極家を出し抜けばいいわけだ。
(このままデカブツを放っておけば、前回以上に一般市民に妖怪の存在が知れ渡る。なんせまだまだ日は長いからな。かといって表立って討伐に動いても、妖怪の存在が広まることに。……だからこその俺の出番だ)
肩に手をやり首を回す。小気味いい音が鳴った。
「そこにいるんだろ? 紙都。悪いがデカブツもろとも落とさせてもらう」
にぃっと口を横に広げて笑みを浮かべると、蓮は異常事態に騒がしくなり始めた下の道を避けて、屋根を伝いながら標的へと走り始めた。片手に嵌められた四本の爪が、光を反射し、鈍く輝いた。




