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5. 類(チート)は友(チート)を呼ぶ、らしい

 調度品を部屋に運んでもらっている間、わたしはサロンで休憩だ。椅子に座って、飽きずにアクアリウムを眺めていると、

「ステラ、いいですか?」

 ドアをノックする音と共に、グロリアが姿を見せた。



 椅子から立って「どうかしましたか?」伺えば、

「執事のミスター・ガーナーを紹介しておこうと思って」

 彼女の後ろには、白髪の素敵なおじ様が立っていた。執事というと、太っている人も多いのだが、彼はスリムだった。



「お初にお目にかかります、お嬢様。ジェスロ・ガーナーと申します」

「初めまして。ステラ=フロル・エデアよ。これから、世話になるわ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお頼み申し上げます」

 他の使用人については、順次紹介してくれるそうだ。ちなみに、さっきのフットマンは、セーブルというそうだ。



 それにしても、彼、ミスター・ガーナーは、ホーネストの執事とは全然違うわね。──お酒臭いのよ、あの人は。別に、珍しい話ではないけれど。

 前世の記憶で執事と言えば、若くて有能な美形と相場が決まっている。でも、それはあくまで物語の中の話。現実は、太鼓腹の中年で、赤ら顔の酔っ払いという場合がほとんどだ。プライベートな時間が少ない上に、管理職であるというストレスの多さから、アルコールやギャンブルにハマる人が多いのだと聞いている。



「そろそろ、調度品を運び終える頃でしょうから、お部屋へ参りましょうか。お嬢様」

「え? もう?」

 まだ、10分くらいしか経っていないのに? 目を丸くすれば、

「このお屋敷では、力仕事もスムーズに終わるのですよ」

 ミスター・ガーナーが、悪戯っぽく笑った。グロリアを見れば、こちらも笑っていて、

「旦那様が……アレですから……」

 分かるような、分からないような。



 曖昧に笑ってごまかすと、部屋へ向かう道すがら、

「獣人が人より力持ちだと言うこともございますが、何よりも旦那様の契約精霊様方がお力を貸して下さいますので──」

「契約精霊!? シール兄様は、精霊と契約を?!」

 この世界の魔法は、精霊や神に力を貸して下さい、とお願いするタイプ。精霊と契約すると、その属性の魔法の威力が跳ね上がる。

 だから、人々は精霊と契約を結びたがるのだけど──契約は、精霊が了承しなければ成立しない。精霊と契約を結ぶことができた人間は、あまりいないと聞いている。



 ミスター・ガーナーは、「契約精霊様“方”」と言った。つまり、シルベスターは、2人以上の精霊と契約しているということで──

「シール兄様は、とても凄い方なのね……!」

「君は、今頃、何を言っているのかな?」

 のしっ! と、頭にのしかかる何か。この声は……!

「お手紙の精霊さんっ……!?」

 兄からの手紙や贈り物を届けてくれていた精霊の声だ。



 見た目は20代半ばくらい。背中の中ほどまである緩いウエーブのある灰銀色の髪をうなじのところで1つに束ねた、文学系の美人さん。ただし、性格はちょっと悪い。

 わたしの頭の上にのしかかっているのは、そのお手紙の精霊さんの腕だと思われる。彼の腕が重くて、頭が上がらないし、振り向けないので、断言はできないけどもっ。



「また、そういう…………あれ? 俺って、もしかして……名乗ってない?」

「聞いていませんよ?」

「…………お前、俺に興味なかった?」

「…………」

 頭上からの視線が痛い。



 正直に答えれば、イエス。だって、誰が配達してくれたかよりも、届けられた物の方にしか関心がなかったので。心臓が多少止まりかけるほど驚いたとしても、兄からの手紙を差し出された後では、そんなことはどうでも良くなっていたのだ。

 でも、この話の流れだと、あれよね。この人が、兄の契約精霊の1人ってこと……。



「…………」

 グロリアとミスター・ガーナーの視線が痛い。口笛を吹いてごまかす、なんて真似はできないわね。何も返答できずにいると、

「お子ちゃまに、俺に興味を持てって言う方が無理だったのかもな」

 お手紙の精霊さんが、鼻で笑う。ヒドイ。ヒドイけど、事実だ。お手紙の精霊さんより、兄の手紙の方が何百倍も大事だった。



「ま、しょうがないな。俺は、ヘルメスだ。嵐の精霊な」

「へ!? 嵐の精霊っ?!」

 それって、上級精霊なんじゃ……!? 頭が軽くなったので、驚きに振り返れば、

「シールと契約している精霊は、全員、上級精霊だ」

 ぎゅっと鼻を摘ままれた。お手紙の精霊さんは、よくこうしてわたしの鼻を摘まむ。そのたびに、わたしはきゅっと目を瞑ってしまう。条件反射と言っても良いくらいだ。

 わたしの反応がお気に召したのか、お手紙の精霊さん……ではない、わね。ヘルメスは、くくっと笑って、わたしの頭をくしゃっと撫でた。



 それにしても、契約精霊が全員上級精霊って……本当にとんでもないな、兄!

 精霊と契約できただけでも、ちょっとしたニュースになるのに。あ、上級精霊っていうのは、複数の属性を持つ精霊のことよ。精霊との契約は、名づけによって成立するそうだ。

 でも……兄は、何を思って彼の名前を『ヘルメス』にしたのかしら? ヘルメスと言えば、ギリシャ神話に出て来る、旅人の神様の名前。こちらでは、聞いたことがない名前だ。



 もしかしたら、兄も転生者なのだろうか? 仮にそうだとしたら、兄のチートっぷりも納得できるのだけど。でも、何のきっかけもなく、そんなことは聞けないし……真相を確かめるのは、保留にしておきましょう。



 調度品は、ヘルメスの風の力で床から浮かせて運んだそうだ。なるほど。重さを感じないのであれば、移動なんてスムーズだろう。

「運ぶまでは我々でもできますが、その後の配置については、貴方に決めてもらわないとできませんから、部屋までお越しくださいね。ステラ」

「はぁい」

 グロリアに言われ、用意してくれた部屋へ向かう。



 元から部屋に置いてあった物は、空間の精霊が自分のアイテムボックスにしまい込んだそうだ。

 ……っな?! 空間の精霊ですって?! 存在だけはまことしやかに語り継がれているものの、実在については疑われているという、あの──!?

 乙女にあるまじき大きさまで、くわっと目を見開いて、一歩後ろを歩くヘルメスを見る。



「っと、噂をしたらナントヤラだ。ほら、後ろ」

「え!?」

 彼に本当なのと詰め寄るまでもなく、ご本人登場⁉

 慌てて後ろを向けば……小さい、もこもこのお爺ちゃんが、階段の手すりを滑り降りてくるのが見えた。え? 何あれ。正座したまま、手すりを滑り降りてるの? 何か、こんな感じの玩具があったような気がする。名前は知らないけど、ビー玉を使った……まあ、いいわ。気にしないことにしましょう。



 お爺ちゃんは、踊り場のカーブも難なくクリアして、わたしの前でピタッと止まった。

 フサフサの眉毛、長い口ひげ。着ているのはダークブルーのローブ。ねじれた杖を持っていて…………どっ……どこを見ているのかしら?

「んむ……お主がシールの妹か?」

「は、はいっ! そうです」



「んむ……デメテルとヴィーナスとクロノスを呼ばねばならんかの?」

 ……誰? 名前の雰囲気からして、兄の契約精霊たちだろうか? 返答に困っていると、

「デメテルとヴィーナスは、ライオットについて行ったぜ?」

「なんと!」

 お爺ちゃんの口が、かぱーっと開く。顎が外れるんじゃないかって、心配になるほど、大きく開いている。



 そこへ突然ふわっと現れた、イタリア系のちょい悪親父。

「呼んだか、爺さん」

 お爺ちゃんをひょいと持ち上げた。

「んむ。シールの妹が詰まっとるから、何とかしてやらんと思っての?」

 詰まってるって、何。腸内環境は良好ですけども?! 後、脳みそとか内臓とかの話でしたら、それは確かにおっしゃる通り。でも、違うわよね? そうじゃないわよね!?



 ですからね、「あぁ」っていう納得顔、やめて下さるかしら? ちょい悪親父っ!

 言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれないかしら。こういう雰囲気、嫌いなのよッ。

感想、評価ありがとうございます。

 ステラ、ぷち反発。

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