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4.欲張りな兄に倣ってもよろしいかしら?

評価、感想ありがとうございます。

 何度も言うが、兄シルベスターは、美形である。本当に、わたしと血が繋がっているんだろうか? と首を傾げるくらいに整った顔立ちをしていらっしゃる。

 しかし、兄はあまり感情を表に出さない。口調も淡々とした感じで、とても商売ができるとは思えない。そんなわたしの考えは、そのまま顔に出ていたようで、



「お気持ちは分かりますが、旦那様は、経営をなさっているだけですから。実際に販売しているのは別の人間です」

 店長も雇っているそうです。なるほど、裏方に徹しているのね。

 話している間も、グロリアは先ほど兄が鳴らしたベルを聞いて、部屋へやってきた使用人に、部屋の準備を言いつけている。うん、義姉も優秀な人なのね。



「旦那様が経営していらっしゃるのは、ヴィリヨ商会と申します。薬品とその原材料を主に販売しているのですが……」

「調度品も販売していると──」

 畑違いも良い所である。グロリアが額に手を当て、小さくため息をついた。

 そんな彼女を横目に、義姉の指示を聞いた使用人は、一礼をして去って行く。触らぬ神に祟りなし。余計な口を利かない方が利口だと判断したのかも。



「商会は、旦那様の趣味と実益を兼ねた研究の結果も商品として販売しております」

「……それって、物凄く節操のないことになっているのでは?」

「その通りです。ポーションなどの回復薬からその原材料、ガーデニング用品に観賞魚の販売とアクアリウムのプロデュースやメンテナンスも請け負っております」

 聞けば聞くほど、無茶苦茶ね。けど、魚だけ? 動物は? というのも、動物も兄の研究対象になっていたはずなのだ。



 なので、動物は取り扱っていないのかと聞けば、

「生き物の販売は、魚だけですね。研究用として、飼育はなさっておられますけども」

 そうしない理由は、飼い主と動物、両方の躾が面倒だからといことらしい。そうか。魚に躾はいらないものね。飼う方も、散歩とかトイレの始末とか、頻繁にしなくて良いから手軽かも。



「空間魔法で店舗と倉庫、この屋敷を繋げておいでですから、ご覧になれますよ?」

「ぜひ、見せて下さい」

 わたしも小さめの物で良いのでアクアリウムがほしいとおねだりしてみると、インテリアの1つとして用意しましょう、と言ってくれた。



 グロリアに詳しく話を聞いてみると、飼育そのものはそんなに難しくなさそうだった。

 あちらでは、上級者向けだった海水魚の飼育も、こちらでは魔法という何でもありな技術のお蔭で、淡水魚とそう変わらないようだ。

「ネックは、魔法具の代金ですね。需要が限られているので、生産が少ない物ですから」

「魔法の道具のお値段もピンからキリまであるものね。結果、お金持ちの上級者向けと──」

「その通りです」



 サンゴ礁をそのまま切り取ったかのような水槽にも憧れるけど、わたしは初心者。お金もないことだし、ここは淡水魚でガマン。

 それでも、華やかなものが良いので、サロンで見たアクアリウムみたいなものが良いと伝える。

 あれとよく似た物をお店の人に用意してもらおうと思っていたのに、

「ステラ……アクアリウムの楽しみの1つは、自分でレイアウトを決めることですよ!」

「わたしにできるかしら?」

 グロリアに、自分で作った方が良いと勧められている。



 でも、わたしに芸術的センスはない。皆無と言っても良いくらいだ。不安に思っていると、

「気負われる必要はありませんよ。ステラの部屋に置くのですから、ステラのお好きなようになさればよろしいのです。それに、水草などは育っていきますからね、メンテナンスも必要になりますし、それに合わせて少しずつ変えてゆけば良いのですよ」

「なるほど。それも、そうね」



「アクアリウムの前に、まずは屋敷の中を案内いたしましょう。3階は、使用人たちの部屋になっています」

 わたしの部屋は、2階。シルベスターの隣になるそうだ。2階には、他にグロリアとライオット様の部屋もある。1階には、サロンと食堂、厨房とお風呂。トイレは各階にあり。

「ねえ、グロリア? さっきから空間魔法、空間魔法って言っているけど、空間魔法って、最上級クラスの魔法ではなかったかしら?」

「ええ、その通りです。その通りなのですが、旦那様の基準では、特に難しいこともないそうです。魔法に関しては、あの人、規格外すぎて……」



「ツッコむ気も起きない、と──。そう言えば、無詠唱で魔法を使うヒトでしたね……」

 諦めて下さい、と言いたげな顔で、グロリアは頷いた。兄がチートだと分かっているつもりでいたけど、まだまだ甘かったのかも知れない。

 グロリアから「これから慣れるまで、覚悟しておいてくださいね」と言われてしまった。……その……ノーコメントで。



 気を取り直して。

 お魚ちゃんたちがいるスペースへは、1階の部屋から行けるそうだ。案内された部屋には、ドアが3つあるだけ。他には何もない。ずいぶん変わった部屋だけど、ここは中継地として空間魔法の要になっているのだとか。──うん。よく分かりません。もっと勉強が必要ね。



「それぞれのドアは、動物園と牧場と水族館に繋がっています」

「牧場?」

「乳製品やハムやベーコンなどを作るほか、ポーション関係から薬草、野菜まで色々と」

 どの施設も兄の欲求を叶えるため、契約したのだそうだ。……何ソレ。



 動物園の方は、魔獣を含めた動物の飼育と研究。水族館は、アクアリウム用品とお魚ちゃんを集めているそうで、こちらは商会の倉庫も兼ねているのだとか。

 水族館に繋がっているというドアを開けると、そこはわたしの身長よりも高く、水槽が積まれていた。前世の記憶にある、魚の生体販売コーナーそっくりだけど、規模が違う。前世のわたしが見たのは、あくまで小売り。この部屋は、業者向けの卸売っぽい。



 青いライトに照らされている無数の水槽の中では、沢山の魚が優雅に泳いでいる。大きさも彩りも様々で、まるで生きた宝石のよう。水草だけの水槽、珊瑚だけの水槽もあった。

 また、水槽の中を飾る流木や石を入れたケースや、陶器の置物や人形など装飾品を並べた一角もある。当然ではあるけれど、水槽やヒーターなどを置いてあるコーナーもあった。



「水槽の大きさは、どうされます?」

「小さい物でよいのですが、あまり小さすぎるのもどうかと思うのです」

 グロリアと話をしていると、お魚ちゃんの販売をしているアクア・ヴィリヨで働いているお兄さんが来て──お魚ちゃんたちの様子を見に来たとか──アドバイスをしてもらえた。

 ちょっとメルヘンちっくにしたかったので、ドールハウス用のミニチュアを水槽の中に入れることにする。ドールハウス用とは言っても、お魚ちゃんたちの健康に影響がないように、きちんと浄化してあるので、水槽用のオーナメントとして販売しているそうだ。



 白の長テーブルと椅子を並べ、テーブルの上にはティーセットのミニチュア。ポットを透明の棒で支えているので、イメージ通り、紅茶をカップに注いでいるように見える。

 他にも蔓バラのアーチを置いて、お庭っぽく。



「……は! つい、夢中になってしまったわ……」

「そうですね。調度品を選んでいただこう、という話をしていましたのに……」

 グロリアも、すっかり忘れていた! という顔でわたしを見ている。

「水槽のレイアウトを考える作業って、とても楽しいですから。夢中になりますよね」

 スタッフのお兄さんに、笑われてしまった。ちょっと、恥ずかしい。



 今、この場でお水を入れて、お魚ちゃんを入れると、持ち運びが大変なので、それは後回し。

 セッティングなどについては、プロにお任せすることにした。

 この辺のお魚ちゃんが良いと希望を伝えたうえで、最終的なチョイスはお任せで。育てやすい、華やかな種類が良いと希望も伝えておいた。今から楽しみである。



 そうして改めて、調度品を置いてあるという物置に来てみたわけだけど

「……予想通りと言えばいいのかしら……」

 これ、物置じゃない。倉庫って言った方が正しいわ、絶対。

 あっちにあった、北欧発祥の家具量販店がぽんと頭の中に浮かぶ。



「どのような雰囲気の調度品がよろしいですか?」

「そうですねえ……」

 濃い色はかっこいいけど、重たい感じがするからナシ。かと言って、明るい色は、今のわたしの気分じゃない。なので、アップルパイに似た色の物で揃えることにした。

 本棚と勉強机、ベッド、ドレッサーにワードローブ。チェストと姿見、キャビネットも。チェストは、大きい物と小さい物を1つずつ。小さい方は、水槽を置く台にもなる。グロリアから、ティーテーブルのセットも忘れずにと言われ、それも選ぶ。



 大体選び終わった頃、

「お決まりになられましたら、運びましょう」

 うっ、イケボ! 振り返れば、玄関でわたしを出迎えてくれた獣人のフットマンが立っていた。にっこり笑った彼は、狐の獣人なのだそうだ。いなり寿司を思い出したのも納得だわ。



「お願いね」

「お任せ下さい」

 調度品を運び出す間、サロンで待っていて欲しいと言われたので、そちらへ移動する。作業を手伝えるワケでなし、役立たずは、邪魔にならないようにしているのが一番よね。

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