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それでも見たい 一

えーまぁ、なんか書いてみました

 寒冷かんれいで不快な―そんな居心地の良くない空気を包む事になったのは公立後裔こうえい高等学校の始業式初日につどっていた、他の教室と比べて優劣でもなければ平衡でもないそんな生徒達が居座る、ある教室だった。


 教室の外側に飾られている小さな表記看板には印刷風に太くも細くもない字で―1ーD―と書かれていた標記を見つけては彼、その教室の担任を務める事になった野川大志のがわたいしは最後に入るであろう生徒を引き連れて、その教室の引戸の引手部分に手を掛けると同時にそっと左へとスライドし始めた。

そして陰湿で騒々しさの欠片もなかった廊下側はいつの間にか野川が戸を開いた事で教室の底から騒めいていた声が廊下へと漏れ始めた。しかし野川は悠長な態度は見せずに扉を開いたら躊躇なくその足を教室に進めたが、その背後に立ち尽くしていた生徒はそのまま追随ついずいせずに立ち尽くしていた、別に緊張や焦りなどの情緒じょうちょでは無く、ただ単に彼が—盲目—だったからだ。

 

野川は教室の前方中心に置かれていた黒板の前を通り過ぎようとしたその時に、ふと何かを思い出すような素振りをして、後ろを振り向き「あっそうか」と感傷かんしょう無き言葉を吐き捨てると共に自分の片足を引き返す。


「悪いね、忘れていたよ」


そういうと野川は左脇に挟んでいたその生徒の鞄と白杖はくじょうを一緒にして手渡す。


「いえ」


迷惑そうにして受け取った彼は折り畳み式の白杖を展開し、野川の背に手を当てながらと今度こそは彼の後に続いて追随した。


喧騒けんそうな教室の圧力に屈しずに足を進めていると、いつの間にか野川の両足の動きが前触れもなく止まるのを感じ、その盲目の生徒は静かに覚悟をするように唾を飲んだ。


「えぇ~それでは全員出席と見れるので、さっそくね、始めようか」


そう言い、野川は背後にあった黒板へと面を向け、白色のチョークを手にすると自分の名前である—野—からなぞる様にしてチョークの粉を黒板に擦り付け始めていたが、途中でチョークが半分に割れて、黒板の顔面に摩擦を作るかのように残り半分のチョークが黒板とぶつかってしまう。


「あっ」


それに対してそんな呆気のない声を発すると、持っていたもう片方の半分に割れたチョークを床に放り投げ、再び後ろを振り向いた。


「まぁ残念ながら、えぇ君たちの担任になってしまった野川大志という不幸者だ。宜しくは言わない、それと君たちとは仲良くしていきたいとも思っていない上に君たちを地獄のどん底に連れていきたいと思っているので不仲同様な扱いで接してくれ」


野川は生徒たちの衆の前でそんな告げ事を言うと同時に机の両端に両手を挟むようにして手を置く、そして彼らの反応を待つようにして聞き耳を立てていた。しかし、沈黙が教室を押し込み始めるとさすがに焦ったのか、野川は急いで口を再び開けた。


「おいおい! 冗談に決まっているだろう、しかし君たちの担任になったのは本当に悔いている」


野川のその言葉で、沈黙に包まれていた教室が健やかな微笑に包まれていく。


「黒板に名前を書く活気は無くなったから、私の名前の漢字が分からないっていう馬鹿は配られるはずの連絡網にでも目を通しておけ…それはそうと、もう皆気づいていると思うが」


途中で発言を溜め、やや野川の背後に立っている形で立ち尽くしていた彼を手で引き寄せてやると、野川は左手で手加減を調整しつつ盲目の生徒の背中を叩いてみる。すると彼は驚いたのか、「うっ」とへんな声を発しながら皆の前へと顔を覗かせた。


「さぁ自己紹介」


フォローするように野川はそう声を掛けてみると、その合図に合わせて彼は白杖を握っている手をぐっと引き締めながらその小さな口を開け始めた。


「えっと、横沢浩道よこざわひろみちと言います、もうお気づきかと思いますが」


そこで彼は話しながら右手で握り締めていた折り畳み式の白杖を目の前にかざし、話を続けた。


「僕は…目が見えないんです」


決してまるでヒーローの凱旋がいせんの様に盛り上がる必要は無かったが、何故だかその場の空気が寒冷な重い空気になったのに気付いた横沢は、慌てて何か言わなきゃっと口が滑るようにしてその場を—自分を—促そうとした。


「まぁ、えっと趣味は…特にないんですが、アニメが凄く好きで、その中で声優さんをやってらっしゃる大江恵さんの大ファンです! あっ、言い忘れる前に僕はオタクではないです」


確かに数名の微笑と笑みは奪えた横沢だったが、少しの間を開けるだけで再びあの重く、気まずい空気が漂い始める。まるでそれに値する事をしたかのように、罰する事をしたかのようにその教室の生徒達は横沢を憐憫な瞳で見詰ていた。


「その、生まれつきか?」


再びフォローするようにして横から入ってきたのは野川だった。


「あっ、いえ、何というかあまり精細には分からないんですが五歳か七歳かで失明したらしく」

「あっ、そうか、そりゃ大変だな」

「いいえ、別に」


「というわけで! 横沢君に失礼のないように、そしてあまり特別扱いをしないようにっ! なんと言っても横沢君が盲学校を選ばずにここに進学した訳はそれだからな、なぁ横沢?」


そこで野川は横沢が分かるようにわざとらしく声に抑揚よくようを付けて、彼に話を続けるように振った。


「はい、なんていうか確かに僕は不自由者です。目が見えない…つまり盲目なんです」


いつの間にか下を俯き気味だった彼は顔を上げ始めていた。


「それでも、もう何もかも他人頼りになっているのが嫌いで…一人でこっちに引っ越して来ました」


そこで彼の周囲にいた生徒達は自然に目を見開く、そんな中でも黙り込む事が出来なくなった一人の生徒が声を上げた。


「おい、おい! 一人って、まさか一人暮らし?」

「あ、はい」


そしてその生徒の些細な質問に続いて次から次へと色々な質問が投げ掛けられた、しかし切りがないと感じた野川がすぐに止めに入るのだった。


「こら、やめやめ、質問等なら下校時にしろ! ったく特別扱いはするなっと言った矢先だぞ、まぁそろそろ時間だから体育館にいくぞ」


発言のわりには彼の表情は軽いものだと皆が感じ取ると生徒達は一斉に「はーい」とやる気のない返事を返した。



「あっ横沢、特別扱いみたいになるが君の父さんが学校の施設などを移動する時には、最低一人は君の横につけろっていうもんでさ、誰かに頼んでいいか?」

「あ、はい、それとそこまで気を配らなくてもいいですよ、僕が特別なのは誰より承知している事ですから…それに実際誰かに助けを求めようかと思っていたところです」

「おう、そうか、なら…白川しらかわ! ちょっとこっちにこい」


野川はその場にいた空虚じみた瞳をしていた生徒らを全員見渡すと、少し数秒の間に自分の中で結論を見立て白川という何とも子供の様に快活であると同時に清潔感を纏っている女子生徒を見ては、早速彼女の名を自分の舌先で言うように促した。


「先生?」


 彼は、そんな乾いた返事をしながらこっちに歩み寄ってくる彼女を見ては本能的に目を逸らした。何と言ってもその美しい容貌とその美麗な体にはどんな人間であろう一度は、いや再三さいさんは同じ動作で速攻に振り向くであろう。しかし担任という立場に立っているという以上、決して生徒にはそういう感情は一切皆無にしていかなきゃならない、いやそもそも初老の人間がまだ幼いとも言っていい程の年齢の少女にそういう気持ちを抱くのはどうかと、そうな心理的葛藤に潜む野川は白川の香ばしい匂いに誘われて我に帰った。


「何ですか野川先生?」

「あ、君に横沢の案内を頼みたいんだが」

「横沢君の?」

「あぁ、頼まれてくれるか? 今だけでもいい、後で適任を見つけるからさ」


「はい別にいいですよ」

「そうか、助かるよ」


少しの動揺に駆られる野川は、無意識的に自分の左手で残り少ない頭髪を擦っていた。


「あっそれはそうと、もう一つお願いがあるんだが、この鍵を職員室に届けてはくれないかな?」


そう言って一つの小さい鍵を取り出し、許可無しに白川の手の上に置くと、野川は一目散に逃げる様にしてその場から足を速めて、教室の死角でその姿を消す。


「横沢君だっけ?」

「ん」

「目が見えないのに、普通の人みたいに接触して欲しいって所、すごいね」

「え?」

「あ、別に皮肉って訳じゃないから、ははは」

「凄くはないと思うけど…」


そう言われて、妙に心拍数が向上していくのを感じると横沢は小さくそう返事をした。


「すごく気持ち悪い」


だが彼女から零れ落ちたそんな無愛想な一言は確かに彼の耳に届いたはずなのに、それでも彼の顔から決して笑みは消えなかった。


「なんかめんどくさいからと変な雑用を任された気がするけど…まぁ学校案内ついでに届けに行こっか?」

「あぁ、そうだね」


聞かなかったことにしよう—そう思って彼は、自分の左手を彼女の肩に掛けようと思って、手を彼女の前に伸ばしながら「肩、借りてもいいかな?」とそう言い掛けた、しかし返ってきた返事に又しても心臓を劈くような気分にさせられる言葉を投げかけられた。


「良いけど、杖あるのにそうしないと歩けないの? ふふっそれでいて普通に接してくださいって…馬鹿みたい」


そうして白川が彼の前を先行で漸進ぜんしんする形で二人は後裔高校を彷徨い始めるが、所々立ち止まっては白川が気味の悪い雑談に念を押していくばかりに彼はだんだんと困惑し始めていた。


「それでね、うちの男友達の前田っていう子がいるんだけど…まじで無理、なんか見ていると我慢できないんだよね、人見知りなのは分かるけど~さすがに人見知り過ぎて逆に気持ち悪いんだよね」


しかし、八方美人—には程遠かった。初対面の人には猫を被り、裏では陰口。


「でさ、なんかつまらない人だから、彼をからかってみたの」

「ふーん」


彼は徐々に彼女の左肩に垂れかかっていた自分の手に力が入らなくなっていくのを感じるくらいに、気色が悪くなっていく。


「誘惑してさ、見事に引っかかったんだよね~」

「何をしたのさ?」


「彼の童貞奪っちゃった」


その発言に自分の手が敏感に反応して、まるで痺れたかの様に彼女の肩に乗ったままの彼の手が固まってしまう。


「もちろん、それだけじゃなくて、私の元カレを彼と鉢合わせにする為に呼んでおいたんだよね…私が前田と行為中に元カレが出くわすように事前に元カレに会いたいからとか適当な連絡をして」


すると彼女はクスッと笑みを作りながら話を続けていく。


「それで見事にビンゴ、元カレ来ちゃってさ。あの場を見た彼が怒り狂って前田をぼろぼろになるまで殴りつけたんだよ、それで前田が悪いわけでもないのにごめんさい、ごめんなさいっ! って…まじで笑えましたよ」


床を左右に動かしながら突いていた白杖の動きを止め、横沢は彼女の肩にもたれかかっている自分の手にわざと力を込め、無神経に進み続ける白川を止めた。


「何っ」

「最低だな」


「そう?」

「あぁ、最低だ」


「だからなに?」

「だからって…少しはそいつの気持ちを考えないのか?」

「だって彼、なんでも了承するんだもん、私の為に死ねる? って聞いたら絶対にハイ喜んで! って言う人なんだよ」

「…」

「障がい者みたいで気味が悪いもん」


横沢が彼女を引き留めたのにも関わらずに、彼女は再び歩き始める、しかし今度は横沢の手を退けて。


「私、障がい者とか不自由者とか、老人とかすべて社会のごみだって思ってるし」

「おい」

「紛れもない真実じゃない? だって利益なんて出ないし…むしろ損害しか及ぼさない。そんな存在をなんで気に留める必要があるの? 知ってる? 南アメリカの北部に生存している数少ない私達の社会文化に一切毒されていない先住民族は、何らかの障害を纏う赤子が生まれたら殺しているんだよ。彼らだってわかっている常識を、なんで私たちが分からないのかね~」


ありえない、そんな顔を浮かべて横沢は反論する為に再び唾を飲んで、小さく息を吸うとすぐに口を開けた。


「彼らと比べられても困る、彼らの生活、または言い方を変えて—社会—は野生に近い文化だ、例えば男の子で盲目の赤子が生まれてきたらそれは殺すしかないと彼らは思うだろうに、狩りもできなければ村の繁栄にも手を貸せない、その上での判断を下している、そんな文化の異なる彼らと比べられている僕たちの文化は全くと言っていい程に違うんだ。僕たちの文化はエピゴーネンじゃない、決して亜流はしていない…日々日々変わってるんだよ、そして唯一僕たちの文化が他のと多いに異なる訳は、その背後に流れている思想だ、つまり持っている基調だ…それは何だと思う?」


いつの間にか彼女の足は歩のを止め、横沢のその質問に答える為に自分の足先を彼に向けていた。


「知らないし、めんどくさい、あんた滅茶苦茶めん」


そこで横沢は彼女の発言の途中で乱入する様にして口を開ける。


「道徳を守ろうとする道徳心だ」


その発言に、彼女は顔を傾けた。


「作り上げられてきたモラルを守ろうとするモラリティーある行動、これが僕たちの最強とも呼ぶ、僕たちの唯一持っている武器だよ」


そう言い終わると、彼の瞳は落ち着きのない様子を見せる。


「ん~あっ! 思い出したっ!」


そして急にそう言って沈黙の場を破ったのは、彼女のその朦朧とした言葉使いだった。


「私はシマウマではない。聞き覚え、あるでしょう」


不謹慎な彼女の口から零れたその一言に、彼、横沢弘道は驚愕の様子を隠せなかった。なぜなら—私はシマウマではない―は彼の一番尊敬する作家の代表作であり、彼のお気に入りの小説である。だが彼の驚愕の理由はそれではなかった、単純に彼女がその小説を知っていたという意外性に彼は驚いたのだ。


「すべて使い回しじゃん! うわぁ~私が知らないと思ってたでしょ? かっこ悪い~! 作り上げられたモラルを守ろうとする何とか何とか~を真顔で言っててマジできもいんですけど」

「…でも本当のことだ」


彼女の口角が歪み始めると共に鼓動の響きがどんどん向上している事を彼女自身も感じ始めていた。


「白川俊介、いい作家だよね。今の君がまるっきり使い回したその名言みたいな奴も、他の小説で出るいろんな名言も私全部知ってるし、どれもすべて好きなの」

「意外だよ、まさか君みたいな人がエッセイやポエム向きの小説家を愛読しているなんて」


「意外? そうでもないんじゃないかな…娘が父の小説を愛読することが、そんなに意外な事ではないと思うけどな~」


またしても彼女の口から零れ落ちたその他愛もない発言に驚愕させられた横沢は、信じられないといった様子で口を半分開いていた。


「い、今なんて?」

「ん? だから、娘が父の」


彼女が言い終わる前に彼は急ぐようにして口を歪めた。


「嘘だっ!」


いつの間にか彼の手は震い始め、屈辱感と嘔吐感に飲み込まれていくのを感じていたが、何よりも許せないでいたのが彼女のその調子に乗ったかのような言いようだった。


「君が白川俊介の娘だなんて…あるわけが」

「真実じゃん」

「だって彼はいつも自分の作品に娘の愛を読者に語り掛けるような、そんな甘い娘への親の愛を告白してきたのに…君みたいなのが彼の…」

「そう、こんな私みたいなのが、あなたのお気に入りの有名作家の娘です」


「性格がまるで反対じゃないか…」

「反対? どういうこと?」

「だって彼は、いや彼の小説で助けられたっていう人は大勢にいるんだよ、僕もその内の一人だ。彼は僕達みたいな普遍な生活が二度と送れない人達の事を支援するみたいな形で、彼の言葉やその数々の名言で僕達をいつも助ける。僕が一人暮らしを始めようって思ったのも彼の影響があったといってもいい、それほど僕は彼の事を尊敬、いやそれ以上に恩を着せている…着せてしまっているのに」


そんな彼の告白みたいな発言を聞いてやると、彼女は少しの間を置いて内側に我慢していた笑いをどっと彼の目の前で吹き出してしまう。静かなその場に彼女の笑い声だけが響いていく、まるで留まる場所や時を知らずにただ単に無慈悲なその裏の顔を見せるだけの為に。


「あったりまえじゃんっ! うちの父さん、君らみたいな可哀想な人達を餌にしてパンを買ってるんだもんっ! まさに乞食に金を上げて名声を上げている有名な俳優さんってとこかな~うちの父さんは」


何も見えていないはずの彼は、無意識的にその双眼を炯眼に変えて、いつの間にか彼女の事を睨んでいた。


「それ以上、汚すな…それ以上…汚す…な」

「あれれ? 何も言えないのかな?」


道端に倒れている餓死状態の小鳥を覗き込むかのように、でも時々それでいて全く違う表情を見せる白川は、そんな憐憫に思うが如くの視線を彼に注ぎ続けていた。でも彼はそんな顔を見ることはできない、しかしそれでも彼女がどんな顔をしているかなんて、屈託しなくとも彼女の声のトーンからそれは想像できた。


「か、彼は、白川俊介は…世に公表せずに印税で貰っている三割は、慈善団体に回しているっていう噂は…嘘じゃないんだろう?」

「うん、嘘じゃない。でもね」


いつの間にか釣り上げていた口角を下げて冷静に落ち着いた後、彼女は途中で溜めていた言葉を、再び口の歯車に掛ける。


「それは表向きの話」

「表? でも公式に公表していない寄付…なんだろう?」

「それも表向きの話、そもそも公式に発表していないその情報を、なんであんたみたいな人が知っていると思っているの?」

「記事で…見て」

「ウォルト記事? それとも梵鐘の文集? それとも…ネット記事?」

「…」

「あのね、私って凄く父さん子だったから、父さんが仕事で旅行に行く時もいつも付き添っていたから、大体そういう…なんていうの? 経済の世界? 結構、分かるんだ。言っとくけど今私達がいるこの世界は…いや文化って言っとこうか、全て金が物を言うの。何をするにしても金が必要なんだよ。たぶん立つのにも、起きるのにも、動くのにも、そういう何ともない動作でも金が関わっていると思ってきちゃうわ、私、そういう世界で育ってきたの。だから、あんたは偶然に見せかけた必然のある日、ネット記事、もしくは雑誌の見出しでこういう見出しを見つけるの。速報! 有名作家とお馴染みの白川俊介氏が、なんと秘密で慈善団体に印税の三割を寄付していましたっ! って、そういう情報の配達の役割を得ている物を読んで、見事にこの情報を知って、うちの父さんは秘密で慈善団体に大金を寄付していたんだな~、良い人だな~、なんて思ってしまうかもしれないけど、全てこの世界を動かしている経済人の陰謀に最初から見事にはまってしまっているのよ、それも狩り人に簡単に狩られる兎みたいに」


横沢は彼女の挙げたその呆気のない理論に対して反対の一声を上げる。


「もしそれが本当だったら、別に君の父さんが慈善団体に寄付しなくとも、他の道があったんじゃないのか?」

「このやり方の方が利益が出るって、父さん思っているらしいわ。まぁ本当なんでしょうね、でもここからは何も聞かされていないからなんも分からなんだけどね。でも…なんとなくとは分かるでしょう?」


悔しさ故にか、彼は自分の唇を優しく嚙み締めた後、賛成するように言葉発した。


「君の父さんは…白川俊介は、僕らみたいな不自由者を標的にしているから、なんだろう?」

「正解~! その点、君らにはお世話になっています! ありがとうね」


正しく、彼にとっては青天の霹靂であった。落ちぶれていた自分を救った救世主が、まさか悪魔だったなんて、彼は想像すらしていなかった。私はシマウマではない—その一冊で一人暮らしを決意し、親の反対と認許という壁を乗り越え、隣町まで引っ越しを決め、やっと晴れた気分で新しい学校生活を満喫出来るのではないかと、今度こそはっと拳を握り締めていた二日前の自分の背中を思い出し、彼女の前で彼の心境がどんどんと乱れ始めていく。


そして気づけば、彼は目から涙を流していた。











よーし

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