#1 始動
2018年 7月30日
「竜斗さん、竜斗さん」
寮の1室。1年生の綾部が2年生藤崎竜斗を起こそうと声をかける。
「何だよ綾部、もう起きてるよ」
そう言って竜斗は目を開け、起き上がった。すでに練習着姿だ。
「あっ、すいません!もう着替えまで…」
「先にひとっ走りして、着替えて休んでたんだよ」
「もう走ってきたんですか!?今日は新チーム始動の大事な日ですよ」
「新チーム始動だから、だろ。今日から俺たちの代が始まるんだって考えたら、体動かさずにはいられねぇわ」
「な、なるほど…」
「よしっ、飯食いに行くか、綾部」
「はい!」
それから数時間後−−−
東京都 千代田区 蒼成高等学校 グラウンド
「監督、1、2年総勢48名、全員揃いました」
人数確認を終えた部長の上沼が、監督への報告した。
「ありがとう。よし、城ヶ島、号令」
「はい!気をつけ、礼!」
「「「お願いします!!!」」」
選手たちの声が響く。
監督の本庄が1歩前へ出た。
「おはようございます」
「「「はようざいます!!!」」」
「改めて言うのもなんだが、3日前−−−我々は予選準決勝で敗れ、甲子園への道を断たれた。この中にまだ、あの試合の整理がついてない者もいるかもしれない。が、こうやって新チームが始まるわけだ。あの敗戦を糧にして、秋大は絶対獲る。この気持ちを全員が持って、全力で戦っていこう。いいな!」
「「「はい!!!」」」
「次は新主将のあいさつだ。城ヶ島」
城ヶ島泰介が前に出た。
「えーっと…蒼成はもう8年、甲子園から遠ざかっています…。が、俺たちの代で甲子園への扉をこじ開けます!以上です!」
パチパチパチパチ… 部員たちからの大きな拍手。
「短かったな、城ヶ島」
監督が声をかけた。
「すいません、シンプルな方がいいかと思いまして…」
「ははっ、まぁ、良かったぞ。あ、言い忘れてたけど、今週の日曜には練習試合入れてるからな」
この監督の一言で、選手たちの表情が一気に引き締まる。
「そのつもりで今日からやっていけよ!」
「「「はい!!!」」」
「よしいけぇ!」
「まずはアップから!盛り上がって行くぞ!」
「「「おぉ!!」」」
城ヶ島を先頭に、ランニングが始まる。
2010年夏以来の甲子園を目指す蒼成高校の新チームが始動した。