シーフ・アンド・キング_5
「おめぇ!なかなかやるじゃねぇか!」
「待ってくださいよ!ジェノバさん!今のはセーフ!顔面セーフっスよ!!!」
「馬鹿野郎ッ!戦場じゃあそれが一番アウトだろうが!!!!!」
ジェノバと呼ばれた初老の男の審判にルーキーは異議を申し立て、やんややんやと騒いでいる。
シゴキは勘弁、ルーキーの焦りとその一言を思い出し、ニートは苦笑した。
余程厳しいシゴキなんだろう、と。
だがしかし、一本は一本に違い無いのだ。
ニートは立ち上がり服についた土を払い、投げた模擬刀を拾った。
「おめぇさん、いい身のこなしだな。まるで猫かなんかみてえだ」
「いやー運動は得意な方でして」
「ま、剣の筋はあまりよくなさそうだがな!いいか?確かにさっきの投擲は見事だった」
ジェノバはニートに近づき肩をバシバシと叩いた。
「だがな、もし剣の道を進みてえなら死んでも離さねぇこった、それが騎士道ってもんよ!!!」
「いていて……わかりました!ありがとうございます!」
騎士を目指しているわけでは無いが、面倒を掛けた上、ジェノバのニートを真っ直ぐ見つめる眼に、ニートはしゃきりとした返事を、つい、返してしまった。
このジェノバという男に、そういった覇気を感じたニートは少し嬉しくもあった。
ジェノバ自身がそういった気質の人間である事に違いは無いが、自分にこんな熱意を向けてくれる人は母親以外に居ただろうか?
いや、いない。
村の人間はニート達に普通に接しているようで、どこか余所余所しさを感じさせるようなそんな態度の方が多かった気がしていた。
ニートは子供の頃からそんな感覚を敏感に察知していた。
自分が勇者の息子だからなのか?
勇者である父が魔王に敗れたからか?
自分が勇者として魔王を倒しに行かないから?
そんななんとも言えない気持ち悪さ、期待と失望の入り混じった空気の中でニートは育っていた。
それが嫌で堪らなく、よく森に遊びに行っていたのだ。
その頃に得た身のこなしがこういった形で役にたった事で少しだけ、ニートは自信を持つことができた。
「それと、おめぇ冒険者組合に行くんだったな。俺の後輩がいるからよ、『ジェノバ・グラムエルの紹介』だって言えば話が早くなると思うぜ」
「……ッ!ありがとうございます!!!」
ニートはただただ感謝した。
会って間も無い変質者だった男にここまでしてくれたのだ。
賊に会った不幸を帳尻にするかのようなこの『漢気』にニートはただただ感謝した。
「それじゃあ元気でやれよ!」
「はい!ありがとうございました!」
「じゃあね、ニート君」
ジェノバの後ろからひょろっと首を覗かせてルーキーも別れを告げる。
「またな!ルーキー!」
そして二人に礼をしてニートは街に向かって歩き出した。
その姿が少しづつ小さくなっていくのを見つめながらジェノバはルーキーに話しかける。
「おめぇ、技術を使ったな?」
「はい、使ったっス。 まぁ避けられちゃいましたけどねー……」
「戦技の『兜砕き』、あのまま受けてりゃ模擬刀位、叩き折れてたろうなぁ」
「そうなんっスよねー、受けると思ったんだけどなあー」
「ほんと、動物みてえな奴だったな、戦い方といい、勘といい」
「そうっスねー、何時もの模擬戦よりヒリッとしましたよ」
「がはは!まぁお互い良い経験にはなったろうよ!それじゃあ今日は組手100本だな!!!」
「あはは、そうっスねー……はぁ……」
ルーキーは肩を落とすのを見て、ジェノバは意気揚々とシゴキを始めるのであった。