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勇者と鉄戦姫  作者: キキ
Lv.1 勇者
8/9

シーフ・アンド・キング_4

「ーーそれで、今に至ると」


「はい、そうなんです」



ふうむ、と立派な顎髭を撫で、初老の男は気難しさと凄みの宿った眼で調書とニートの顔を見比べた。


ここは自警団の聴取室。


ニートは冒険者組合レンジャーギルドに着く前に、変態として、あえなく御用となっていた。

下着一枚のまま、彼は昨晩の出来事を話し、なんとか誤解を解く事が出来ていた。


簡素な机と今にも音を立てて壊れそうな椅子。

右手には、穴に棒を刺しましたと言わんばかりの窓。

向かいに木の扉、その横で若い自警団の男が壁に寄りかかって爪を眺めている。



「ふむ、嘘はついてないように見えるが……おめぇ、どう思う」


「……まぁ、本当なんじゃないっスか? ただ人攫いがあったって話は特に聞いてないっスけどね」


「一応、調書に書いてある連中がいたら伝えるように回しとけ、見回りの騎士達も来てたろう、あとこいつになんか着る物用意してやれ」


「了解っス」



若い男は初老の男から調書を受け取り部屋を去っていった。


「ま、退屈な聴取は終わりだ。 顔のアザと腹の傷でただの変質者じゃねぇとは思ったが、おめぇさん、ツイてねぇな」


「いや、ほんと、命があっただけツイてたんで、それに着る物まで、ありがとございます」


「気にすんな、宿直用の部屋着だから大したもんじゃねぇよ、しかしおめぇさん、カシンには何しに来たんだ?」


冒険者レンジャーの登録に」


「おいおい、盗賊に身包み剥がされる奴が冒険者?おめぇさん何考えてんだ?」



彼は怪訝な態度でギシリ、と椅子を鳴らした。


「自分探しの旅と言うかなんていうか、まぁその為にカシンで色々揃えようと思ったんですけど、まさか途中で盗賊に会うなんて、家に帰っても良いんじゃないかって思いましたよ」


「ガハハ!わけぇってのは良いんもんだな、後先無しに走れんだからよ!丁度いいや、おめぇさんちょっとついて来な!」



そう言って彼に連れられニートは自警団の建物中を歩いた。

途中、服を持った先程の若い男に合流して、ニートはようやく変態から旅人になれた。

質素な見た目だがしっかりしている、自警団がチェインメイルの下に着るような動きやすい服だ。


そして服を着るとニートは小さな中庭に連れてこられた。

空は綺麗に晴れ、日の光がポカポカと気持ちがいい。


中庭は、L字のような建物の間にあり、そこからは街が見え、すぐに出られるようになっている。

ニートは初老の男に木の模擬刀を手渡された。


「これは……」


「おめぇさんにやる!本物は渡せねぇからな!銀貨盗られちまったんだろ?またそん時みたいな事があったらとりあえずそれでなんとかすりゃいい」


「本当ですか!?ありがとうございます!」



初老の男の気遣いに素直に感謝した。

大したものではないが今のニートにはとても助かるのだ。

実際、まともな準備は出来ないと思われていたこの旅も、「まぁ、なんとかなるか」と思えるような幸先だった。


「よし、じゃあそっちまで行って、二人とも構えろ」



初老の男は中庭の方を指差して若い男に合図した。


「えぇー、俺がやるんスか?」


「なんだぁ?文句かぁ?」


「ないっス、ないっス」


初老の男に喝の入った眼で睨まれ、若い男は少し面倒くさそうに、呆れたように笑いながら歩いていく。



「あのぅ……俺もやるんスか?」


「そうだ!服と模擬刀をタダでやる!その代わり、そいつから一本取ってみろ!俺がおめぇさんを見極めてやる!」


男は鼻を鳴らして、仁王立ちした。

その姿は彼が武人としての心得と兵としての経験を、確かに感じさせた。

どうもちょっとした試験のようだ。


ニートもその威厳に観念して、トボトボと若い男に近づいた。

勝てる訳ないよなぁ、自警団だろ、と思いながら。



「悪いっスね、付き合わせちゃって。 あの人、なんかある度にこうだからさ」


「そうなんすっね、まぁお手柔らかに……」


彼は軽く構えを取った。

俺もそれを見て真似をしてみる。

剣術の経験は無いが、森で獣から身を守る程度には棒の扱いは心得ている。



「あはは……そうだ、あんた名前は?俺はルーキーってんだ」


「俺はニート・ジーク」


「ニート君ね、ほんじゃそろそろ始めよっか」


「はい!じゃあ始めまーー」


ザッ!っと、土が擦れる音が聞こえた。


瞬間、カンッ!と乾いた音


木がぶつかりあい、ニートとルーキーは鍔迫り合い、向き合った。

何時の間にこんなに間合い詰められたのか、腕程の長さの模擬刀の三、四本位はある距離を彼は一瞬で詰めた。


彼の最初の一振りをなんとか眼で捉え防いだので、不恰好になってしまったが、なんとかニートは受ける事が出来た。


「不意打ちとは、なかなか、自警団とは思えないなっ……!」


「実戦に合図はないだろ?君も、反応は中々いいじゃない!」


競り合いを互いに押し返し、相手の構えを見ながら、お互いに、慎重に距離を測る。


真剣な眼差しに、少し、笑顔を織り交ぜて彼は言った。


「悪いけど、手加減は出来ない、シゴキは勘弁なんだよねっ!!!!」


彼は距離を詰め、大きく振りかぶり上段から振り下ろす!


受ける!と決めてニートは模擬刀を横に構えようとしたが、ニートは飛びのいて彼の剣を避け、大きく体制を崩し、地面に手をついた。


一瞬、彼の模擬刀がブワッ!と、光った気がしたからだ。


子供の頃から森の獣達に襲われた時に、同じような光を、自分が太刀打ち出来ない爪や牙から受けそうになった時にそんな光を見た事があるのだ。


こうした光をニートは危険視し『アレはヤバい』と呼んでいる。


「……ん、受けようとしたよね、今」


「いや、なんかいやーな気がしてね」


「ふーん……じゃ、もう一回!!!」


彼は片膝を立てたニートに同じように飛びかかる。


「ふっ!」


「なっ!!!」


ニートは立ち上がると同時に体制を崩した時に掴んでいた土を彼の顔に投げつける。


ニートは後ろに飛び、上段を避けた。

ルーキーは目を瞑りながらも模擬刀で切り上げようとする。

そう、もう間合いは見なくても振れば当たる場所まで詰まっていた。


ゴツッ!


「いって!」



土を投げ、上段を避けると同時に投げたニートの模擬刀がルーキーの頭に直撃した。


「そこまで!!!!!」



猛々しい声が響き、ニートはヘタリと座り込んだ。


どうやら一本とる事が出来たようだ。

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