シーフ・アンド・キング_3
「げっ!不味いですぜボス!」
「あ、あぁ、あらゃ狼どものお頭の叫びだ!!!」
「おぉい、騒ぐなよぉ。 ペイジ、 馬を取ってこい、リッキー、『盗み聴き』しろ」
「「へ、へい!」」
ボスがそう命じると、二人の子分はそれぞれの仕事に取り掛かった。
古くからその狼の一族はこの地にいた。
聖なる力を持ち、 悪しき物を嗅ぎつける森の主として、 狼達を人々は東の守り神として崇めていた。
高らかな遠吠えに静けさが止み、森のざわめきでさえ黙ってしまった。
異様なまでにここは静かになってしまった。
まるで獲物の呼吸を、鼓動を、 彼らが聞き逃さないようにする為に。
リッキーと呼ばれた小柄な男は地面に自分の耳をピタリとくっつけると、すぐ様立ち上がった。
「ボス、 右手から嫌な足音が聞こえやす、もう、すぐに」
同時に大柄なペイジが3匹の馬を連れて来た。
「ボス!早く逃げましょう!」
二人は焦燥と警戒の入り混じった声で馬に乗り始める。
ボスと呼ばれる男は鞭を緩め優しくしまうと肩をすくめた。
「残念だぁ、もう行かないと、君、運が良かったねぇ」
男はにやけながら馬に跨った。
そして三人は脱兎の如く、馬を走らせてあっという間に消えてしまったのだ。
「た、助かった……」
ニートは全身の力を抜き、大の字になって、呆然と空を眺めた。
引き摺られた時に出来た擦り傷を撫で、彼はポツリ、と呟いた。
「帰りたい……」
その言葉は風に靡き、空に消えた。
森が再びざわめきを始め、冷たい風は高ぶった心臓を気持ちよく撫でた。
ふと、ニートが森に目をやると、光輝を放った二つの眼が此方を眺め、踵を返した、そんな気がした。
深く息を吸って、吐き出すと、彼は起き上がって近くの茂みに寝転んだ。
下手に下山して先程の連中に鉢合わせてしまっては意味がない。
都合のいい考えだが、せっかく森の守り神とやらに助けてもらったのだ。
今はその庇護の下、ゆっくり休ませてもらおう、そう思うニートだった。