表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者と鉄戦姫  作者: キキ
Lv.1 勇者
4/9

グッド・フォー・ナッシング_4

「もう大分歩いたな……今日はここで休むか」



彼はエッカワ村から山二つ挟んだ『カシン街』に続く山道を歩いていた。

丁度山を一つ越えたあたりで夜を迎えたので二つ目の山の麓で野宿の準備を始める。


彼はリュックを下ろし木にもたれ掛かり腰を下ろした。

野宿の準備は終わった、 そう、 これで終わりである。


というのも家を出る際ニートが持たされたのはリュックの中に必要最低限の食料、銀貨が20枚、少し上質な布の服たけである。


たったこれだけ、たったこれだけで彼は勇者として魔王を倒す旅に出たのだ。

胸にかけたペンダント、『勇者の証』を眺め彼は深く、溜息をついた。



「なんだってこんな、冗談だろ?」


彼はリュックの中から魚の燻製と石パンを出して食べ始めた。

自然豊かなエッカワではよく釣れる川魚、保存用に水分を少なくして焼いたビスケットのような、しかし甘くもなく味気の少ない石パン。

口に放り込んで、ガリ、ガリ、と噛み砕く。

そして水筒の水を飲んで、また、溜息をついた。

そしてまたゆっくり息を吸うと今朝方の事を思い出していた。




「なるほどね、俺はつまりその勇者ってのに選ばれた訳だ……」


「そうみたいねぇ、あんたのお父さんもそうだったのよ」


「それは知ってたけど……俺が勇者?そんなの無理に決まってんだろ?」


「そりゃそうかもしれないけどね、あんたのお父さんも元はただの鍛冶屋だったんだから、なんとかなるわよ」


「でもその親父だってもういないじゃないか! 魔王だってまだいるし!俺が行ったところで何もできるわけないだろ!!!」


「……そうかもしれない。 でも、やってみなけりゃ分からないだろう? 折角選ばれたんだ、やってみなさいな、あんたガキの頃から良い事もも悪い事もとりあえずなんでもやってたんだから」


「そうゆう事じゃ……」


「はい!いいから行った行った! 服は新しく織っておいた奴がちょうどあるから、あと旅の小遣いね、それと食べ物は……戸棚にあったわねぇ」


「あぁ……もう選択肢はないのか……」


「まぁ旅行だと思って行ってらっしゃいな、困ったら、いつでも、帰ってきていいんだ」


「……あぁ、わかったよ、もう」



その後昼過ぎには家を出て、彼は勇者として旅に出ていたのだ。


勇者の証を手に入れた者は勇者として魔王を倒す旅に出なくてはならない、という御伽噺のような、反面、呪いのような風習がこの世界にはあった。

また、ある者は自らを勇者と偽る者もいる程、この世界は『勇者』である事に価値があったのだ。


そして事実、彼の身近にはその御伽噺の人物がいた。



英雄『フリード・ジーク』

鍛冶屋の息子として生まれ、勇者の証に選ばれ、各地での軌跡は伝説として語り継がれた人類の希望。


そして彼は、魔王に敗北した。



彼のは鍛冶屋の息子としてエッカワで生まれた。

そして同じくエッカワで生まれた服屋の娘ターニャ・ミッドウェルと恋に落ち、結ばれた。


そしてこの男、ニート・ジークが生まれた訳だが、母親が妊娠して早々、かの男は勇者の証に選ばれ旅に出たのだ。



そして時が経ち、勇者が敗北したという噂は流れていたがニートは幼い頃から今になっても、父について母に聞く事は出来ずにいた。


最愛の夫がいなくなっても、エッカワの特産品である上質の布をスミャカーナ国に広め『勇者も着ていったターニャの布屋』を切り盛りし、女手一つで息子を18まで育てた母。


その為、ニートと母は会って会話する時間が少なく、一緒にいればいたで、そんな苦労を彼に感じさせずにいた母にニートはそんなことを聞けるはずもなかった。


そして今度は勇者として息子を旅立たせる。

ニートは母がどうゆう神経の持ち主なのかし全く分からないまま闇夜に身を委ねていった。


そして彼は瞼が重くなって行くのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ