グッド・フォー・ナッシング_3
テーブルの上に荷物を放ると彼は朝食に戻った。
食べかけのパンをスープに浸し一口、また一口、進めていく。
パンとスープと魚、自然豊かな片田舎『エッカワ』で採れる物で出来た、一般的な食事だ。
彼は食事を大切にしていた、何より彼にはその位しか楽しみがないのだ。
そう、彼は
腹が減ったら食べ
眠くなったら寝て
催せば出して
暇になったらフラフラして
働きもせずダラダラしている
俗に言う穀潰しなのだ。
穀潰しなのだから穀を潰さねばと、黙々と朝食を済ませる。
荷物等、 最早どうでもよくなっていた。
「あら、荷物はなんだったわけ?」
「いや、まだ開けてないから、わからん」
「そう、誰からかしら?」
「それも書いてないから、やっぱりわからん」
「わからんわからんじゃないわよ、早く開けちゃいなさいな」
洗濯物を干し終わった母親に催促され彼は渋々と包みに手を伸ばし、乱暴に開け始める。
「はぁーあ、なんだろねーっと、はい、こんにちわー…………なんだ、これ?」
丈夫そうな皮で出来た紐、その先に高価そうな装飾を施した、ちょうど手の平に収まる卵位の大きさのペンダントが入っていた。
それは光が当たるとキラリと輝き、高そうな雰囲気を醸し出していた。
(金で出来ているのか? それにしては軽いというか、しかも宝石? なんだこれ?)
ペンダントの真ん中にはルビーのような宝石がはめ込まれており、指先でなぞってみれば、柔らかな暖かさが伝わり、石のように見える表面も柔らかく波打っているような、不思議な触感を彼に感じさせた。
「これは……なんだろう?」
今まで触れた事のない、見た事のない物。
この時、ニートの頭の中で算盤が弾ける!
彼は街に行こうと思った、きっと高く売れるに違いないから、と。
そしてそのお金で何をしてやろうかと、頭の中で楽しい作戦会議を行っていた。
これが本来なんなのか、誰が送ったのか、そんな事はもう忘却の彼方である。
「いくらになる……? 金50……ぶつぶつ……いや、肉騒ぎ……あ、酒地獄?……んー……賭博バスター!……いや!チャンネー大革命……!くふふふっ…!」
「あら、懐かしいわねぇ。それ、『勇者の証』じゃない!」
「えぇ? あぁー! これ、勇者の証なんだ!!! ただの装飾品かと思ったわ」
「そうよぉ、あんたそれ持ったんなら今日から勇者だから、ちゃっちゃと魔王倒してきなさいな!」
「うん、わかった。行ってきまーす」
ペンダントを眺めていた彼は母にそう伝えた!
ニートは託された使命を胸に!!
魔王を倒す為!!!
外へ飛び出し!!!!
冒険の扉を開け放った!!!!!
「そうじゃぁあねぇぇえだろぉぉぉおぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
その叫びは村を超え、山にこだました。