4:とりあえず出発してから先の事は考えよう
あの水晶玉が私の目に攻撃を仕掛けてきた事件。
そうだな......バ○ス事件と呼ぼう、そうしよう。
そのバル○事件の後、私はこの膨大な魔力を鍛える為にとりあえず夜中に起きて魔法の練習をがんばった。
ある程度大道芸道が出来そうなくらいには成長したと思っている。
魔力を増やす為に魔法を使いまくる、ってのも考えたが、魔力の底が見えないし、もし気絶してしまった際、孤児院の皆に私が倒れててアレスが居なくなってたら色々と焦るだろうしね。
だって私ら本当の事は話さないつもりだし。
まだ彼等を信用出来るほどこの世界について私達は詳しく知らないからだ。
確かに今まで彼等と生活していって皆が優しい人って事は理解している。
だがこの世界にどんな勢力がいて、どんな力を持っているかっていうのを知らない。
もしかしたらこの光景を永久に監視してるやつだっているかもしれないのだ。
だから私は口に出す事はしない。
ちなみにバカには警戒しろなんて事は言ってないがあいつだって信用出来る人も出来る筈だろう。
そこまであいつを束縛したくもないからね。
あいつはあいつの意思で動くべきだ。
それで私がどんな被害を被っても責めはするが仕方ないし諦める。
これでも私は尽くすタイプなのだ。
ふふふ、驚いただろう?
とまぁ、そんな事は置いておいて、現状どうなってるかだね。
アレスは魔法は自分にはあっていないかもとか言い出し、マリアに頼んで学校に通うまでの数ヶ月間はマリアさんの知り合いのガベルさんという方に剣の扱いを教えて貰っていた。
「アレスはいつも素振りをやってるおかげか身体の中心や呼吸の仕方がちゃんと出来てるね、だけど簡単に振れば良いってもんじゃない。 ちゃんとした剣の持ち方とかもあるしそれを知ってからもう少し練習してみようか、剣で攻撃するって事じゃなくて、剣をどうやって振り下ろすのが一番楽かって所も考えてみてね」
「了解です!」
と、まぁアレスの今までやってた練習は可もなし不可もなしって所みたいね。
振り下ろす獲物も前よりも少し重くなった素振り用の木剣を貸して貰って、何時も以上に楽しそうに練習しているのが見ていても判る。
どんなMだよおい......ゲフンゲフン。
それで私はアレスにお願いしてガベルさんから外にはどんな危険があるか、など色々と教えて貰った。
外にはファンタジーにはよくある魔力を持った生物、通称魔物が生活している。
魔物と人の違いは精霊を持っているか持っていないかの違いだそうだ。
要するに精霊と魔法はまた別の存在って事なんだろう。
だが稀に精霊を有する魔物、精霊を持たない人間なんてものも産まれるらしい。
そんな精霊は召喚し、召喚獣として使役され、精霊を持たない人間はべセル人と呼ばれ、迫害されているみたいだ。
べセル人が集まって出来た国、何てものもあるらしく、そこの王が魔王みたいな扱いを受けているのは驚いた。
そしてここで私は気付いたんだよね。
あれっ、そういや私この国の名前知らないってさ。
急いでアレスに言ってアベルさんから教えて貰ったが、アベルさんも国、としか知らなく、教えて貰う事は出来なかった。
何この世界。
自分の国の名前も知らないほど国民性がないのね......
この国だけだと信じたいが、多分この調子だとこの周辺の人達で国の名前を知っている人はそこまで居ないんだろう。
国境が凄い適当になっている可能性だってある。
そんな状態で何で学園なんてものが存在するのか、それが私にはよくわからなかった。
そんな事をアレスが察したがどうかはわからないが、孤児院での夕食時にマリアさんに学園の事を質問していた。
「なぁ、マリアさん。 学園ってのはどういう所なんだ? 何か気をつけないといけない事とかあるのか?」
「そうね......まず学園は勉強する所ってのは判るわよね? 後は魔法や、体術といったものも教えて貰う事が出来るわ。 気をつけないといけない事って言ったら——あ、偉い人の子供とかも学園で生活してるから変な態度を取らないよう気をつけてね」
マリアさんはさらっとそう言うけどさ......
完全に王族だよねそれ!?
国の概念全然出来てないけど王族だよねそれ!
「えっと......俺そんな所に入って大丈夫なのか? 何か場に合わないような雰囲気しか無いんだけど」
うん同意、私達は唯でさえ不思議体質持ってるんだから目を付けられる可能性だって大きい。
凄い不安、不安すぎる。
「大丈夫、大丈夫。 そういう人達は一応勉強する部屋分けされてるからね、よっぽどの事が無い限り対面することすら無いわよ〜」
「それなら良いんだけどさ......」
「まぁ、私が知ってるのはこれぐらいかな。 商人さんも知ってる事は少なそうだし、余りそういうこと聞いて迷惑かけるんじゃないわよ〜」
ってなわけで私達は商人さんの行商馬車に乗っけて貰ってそのまま学園に一直線らしい。
学園に行きたくない! 私はニートになってやるんだ! 最強のニートにな! 何てことは考えてないが、このまま数年の間マリアさんやエリンシアと離れ離れになっちゃうのは少し寂しいわね。
まぁ私は話した事なんて一度もないんですけどねー、あー虚しい。
それにしてもエリンシアの成長は楽しみだ。
胸はどうなるのか、新たな髪型に変えるのかどうかなど、期待せざるを得ませんなぁ......グヘヘ。
なんておっさんみたいな発言は辞めておこう。
私はあれだ、オタクだから可愛い子が好きだけどレズではない。
ここ重要。
だけどマリアさんの胸に一回包まれてみたかったなぁ......
おっといかんいかん。
『さて、アレス。 もうすぐ学園生活だけど、心の準備や色々済んだのかしら?』
『おうよ! と言いたいがやっぱり不安だな。 とりあえず落ちこぼれにはなりたくない......』
こいつはもう行く事を前提にしか考えて無いんかい。
未練とか全くないのね。
『よりによって心配事がいきなりそれなのね......ま、そこは大丈夫よ。 私がしっかりとサポートしてあげるわ』
『くっそ......俺ももっと頑張らないとなぁ。魔力全然なかったし、魔力全然なかったし』
『まだ根に持ってるのねあんたは......まぁ剣の腕前が良ければ良いんじゃない?』
『剣もそこまで上手くなったって訳でもないな。 未だに自分の動きを考えてるせいで相手の動きを読んだり周りを把握する技術が俺には足りない』
『そ、まぁ自分で悪い所がわかってるんなら及第点じゃないの? 今はもっと練習して覚えておけば良いわよ』
まぁこいつもこいつで考えてるのならそれでいっか。
だが、正直私には何でこいつがそこまで強くなろうとしてるのが理解出来ない。
前世で何かあったのだろうか?
マモレナカッタ......みたいな事があったとか?
まぁ、私はさとり妖怪でも無いんだし人の心を読むなんて到底出来ない。
心理学技能なんてのも持ってないしね。
とりあえず私はアレスが危険になった時の為に人格を奪ってでも助ける事が可能になるぐらいはなるように魔法の練習をした。
まだ知らない魔法も多いから少し頼りないけれども、素人相手だったら何とかなると信じている。
......大丈夫、私はできる。
もう他人には私の責任で迷惑をかけたくないのだ。
◆
ガベルさんの木の剣がアレスに振り降ろされる。
アレスは半歩横にズレて避け、横薙ぎに剣を振るがガベルさんはバックステップで回避する。
そのままアレスが構えつつ、もう一度横薙ぎしようとするがガベルさんは剣で受け流す。
アレスの剣を滑るガベルさんの剣。
ガベルさんの剣がアレスの剣を離れようとするタイミングにガベルさんが力を入れてアレスの剣を弾く。
そのままガベルさんは一回転し、アレスの脇腹にガベルさんの剣がめり込んだ。
「いってぇ......やっぱりまだガベルさんには勝てないかぁ」
「そんな短時間で負けたら僕だって嫌だよ......」
そりゃそうだ、そんなんですぐ負けたら頼まれた身としても嫌だろうに。
「まぁ、でもある程度僕が勝つ展開を知ったわけだし、対処は出来るんじゃないかな?」
「えっと......今回の場合は、相手の剣を滑らせない様に自分の体を動かすか、鍔迫り合いを辞めて一歩引く感じですかね?」
「一個目はちょっと無理があるね、僕は回って滑らせてるけど君は僕中心に円移動をしないといけない。 だから結局は僕の方が早くなってしまって先ほどと同じ結末になる可能性が大きい。 二個目は良いね、だけど後ろの引くのが遅れると剣先がお腹を掠めちゃうから気をつけて。 ちなみに僕だったら軸足じゃない方の足で蹴るかな」
「あぁ、なるほど蹴りか......」
「左から右になぎ払う時は軸足が左になってるから良いんだけど、逆の場合は右が軸になるから少し出が遅くなるかも、だから蹴りの速度を上げる為の練習もしておいた方が良いね」
まぁ攻撃した後魔法で蹴った足を固定されたり軸足を払い飛ばして転倒しちゃうと、どうしようもないんだけどねぇ〜とガベルさんは苦笑いする。
なるほどなぁ......これは私も勉強になった。
先ずは足を狙おう。
「今後の課題は体の動きの出の早さの練習と剣を振り降ろす一歩手前で引く練習をすると良いよ。 学園でも鍛錬頑張ってね!」
と、言うことでこれから行商人さん(ベルツさん)の馬車に載って学園へ出発だ。
ちなみにガベルさんは護衛として付いてきてくれるらしい。
まぁ、護衛に集中しないといけないからこれが最後の稽古だったみたいだけどね。
「アレス、学校にいっても元気で頑張ってね! 私も応援してるから!」
「頑張ってね、アレス。貴方は孤児院でも手がかからない子だったけど、やっぱり心配だわ......」
「ああ、とりあえずなんとかやってみるさ」
と、美女達からの見送りも受けてアレスは馬車に乗る。
『さて、気張って行きましょうか』
『だな!』