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屋上に昇って

 夜の風の音が聞こえていた。

 たくさんの小さな光が、その建物の上から覗うことができていた。

 僕はその光を見下ろしながらに、自分の元から去っていった光のことについて考えていた。今、その開け放された瓶の中にはただの空白が満ちているだけだ。僕は首を振る。そして、静かに目を閉じる。


 僕は一体何をしているのだろう、と思う。

 でも、答えは出てこない。どうしようもなかった。

 この世界においては、僕はもうこれ以上どこかに行くことはできないだろう、と思われた。僕はこのままこの世界で小さな欠片になって消えていくしかないのだ、とも思われた。要するに、僕はどうしようもない存在だったのだ。これ以上何かをすることなど叶わなかった。これ以上、何か価値のある物事を作り上げることなど、できるはずもなかった。それでも、僕はこうして夜の寮の屋上に身を置き、町の方角を見やっていた。あの羽音は、あの、微かな灯りは、どこに消えたのだろう、と思う。でも、今となってはそのこともどうでもよかった。

 目を閉じたまま、僕の記憶の中で様々な光が行ったり来たりしていた。

 あるいは、様々な音が僕の脳裏を彷徨っていた。僕の中で、奇妙な音が響いている。それは、足音のようでもあり、水滴の落ちる滴下音のようでもあり、また、虫の羽音のようでもあり――奇妙な音でもあった。一体それが何の音なのかを、僕ははっきりと定めることができない。ともかく、それは音だった。僕はその音を聞いていた。

 どれくらい長い間その音を聞いていたのかは分からない。

 でも、気付けば僕の意識は、僕が最初そうと思っていた位置から、全く別の場所へと移動しようとしていた。僕はここにいるというのに、意識はその場所とは違うところへと進もうとしていた。何故そんなことになっているのかは分からない。僕が、そう望んだのかどうかさえ分からない。

 僕には、自分の位置が徐々に分からなくなりつつあった。

 何かが耳元を掠めていく。

 僕の身体が、どこかへと移っていく。


 どこへだろう?


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