異界のドラゴン 6
あれから数日、野郎は毎晩小さい魔物から大きな魔物を狩り、毎朝家の前に供えた。
他にも師匠は薪割りや草刈り等の雑用を野郎に命令し、野郎は野郎で毎日働いた。
「いくら師匠があの野郎にとって良い条件出したからって、あんなに続くものなの?」
「あいつが馬鹿だったっていう話だろ。それより変身、もういいのか?」
「するよ!」
異界から来た私とアドルフには魔力なんてものが最初からなかった。
つまり魔術が使えないということになるらしく、「魔法が使いたい!」と師匠に無茶を言ってみれば、「アドルフにでも変身の仕方を教わればいい」と言われ、最初は抵抗があったが、一部だけ変身なんて出来たりするかアドルフに聞いてみると、なんと出来ちゃうとか。
そして現在一部だけの変身する方法をかなりアバウトに習っていた。
変身は慣れれば感覚的なものらしく、それまでは変身したいと心の中で念じていればなれた、とアドルフがアバウトに説明してくれた。
もっと詳しくといえば、なりたい部分に力を込める?と疑問形でかえされた。
疑問形でかえされても困る。
気を取り直して袖をめくり右手を前に突き出して、拳を作って力を込める。
爪、鱗、いでよ!出てこい!
と念じてみるがなかなか出てこない。
昨日は腕が少し硬くなったので、一部変身に近付いてはいるはずだ。
あとは鋭い爪に輝く鱗が腕につけば完了。
それが出来なくて困ってるんだけどね。
初めてあの姿を水で見た時はかなり怖かったけど、思い出せば思い出すほど、あの鱗が輝いているのは綺麗だった。
爪はよくは見ていなかったが、鋭くて格好良かったはずだ。
あと、鱗をとったら痛いのかが気になってしまったのだ。
これがアドルフならバリバリ鱗をはぎ落としたのになぁ。
右腕を見ていると、じわじわと黒いものが2箇所から出てきた。
触ってみるとつるっとして腕を触る感覚と似ていた。
もしかして、これは!
「アドルフさん、アドルフさん!鱗!」
腕を組んで木にもたれなが休んでいたアドルフが、腕を見ろとばかりに突き出す私を見た反応は、
「ちっちゃ!!」
だった。
失礼だなとおもったけど、鱗と思われるものは手の指の爪サイズで腕に刺さっているような感じの見た目だ。
なんだかずっと見ていたら痛くないのに痛い気がしてきた。
「アドルフさん、これどうしたら元に戻るんですか?」
腕が硬くなった時は触ってたらすぐに戻ったけど、鱗は戻るものなのか。
アドルフは考えるそぶりを見せてから、
「多分このくらいなら自然に戻ると思うけど、人間に戻りたい!って願えば良いんじゃないかな」
アバウトなアドバイス、ありがとうごさいました。
外での練習をやめてアドルフと共に家の中に入ると、ラルゴと珍しく師匠が玄関ロビーにいた。
いつもなら師匠はこの時間帯は部屋に引きこもっていたはずだ。
疑問を口に出したのはアドルフだった。
「どうしたんだ師匠。夕飯の準備にはいつもより早い気がするが」
師匠は壁にもたれて窓の外、今だに薪を割り続けている野郎の方をみた。
休む事を知らないのか、先程覗いてみた時より薪が山積みになっていた。
「え!いつまでやるの?」
「死ぬか私がやめろというまで、木を拾いに行っては割る作業を続けるだろうな」
「はあ?!どんだけアドルフさん欲しいのよ?」
「それは違うヤマダ。奴は、少しだが暗示をかけられている」
「暗示?」
「人の、特に魔術師で強い者。そういう奴らの命令は絶対。の暗示といった所か」
「え!それって少しなんですか?」
「ただ功績を数日以内に出さないと死ぬといった暗示よりマシだろう。度が過ぎた命令でなければだが」
それは確かにそうかもしれない。
のか?
ふと気になってしまい、窓の外を見てしまう。
野郎は相変わらず坦々と師匠に言われた事をしている。
木を立てては斧で割る、それを機械的に続けているのだ。
自然と眉間にシワがよる。
「ヤマダ、お前を消しかけた奴の1人だ。どうする?」
師匠はニヤッと楽しそうに笑う。
普段は無表情のくせに何故このタイミングで笑うのか。
きっと、というか絶対性格が悪いからだ。
「その暗示がとけたらどうなるんですか?」
「それは本人にしか分からない事だろう?ヤマダ、お前が決めていい。奴の暗示をとくかとかないかを」
なんて使えなくていやらしい魔術師なんだ。
何度も言うが、野郎は私を消しかけた。
私の身体に剣突き刺したのだ。
あの時の剣は私の身体に刺さったまま逃げたため、師匠達が私と一緒に回収し、今は倉庫に仕舞われているらしい。
いや剣の事はどうでもよくて、だからといってこのまま無理矢理働かせるのもどうかと思う。
けど反対にこれで私は野郎に殺される確率が減っているのは確かだ。
悩みに悩んだ末、私は答えを出した。