異界のドラゴン 5
アドルフによれば、あの野郎は私達の跡をついて来てるらしい。
振り返って見たけど何かが動いた感じもしない静かで、むしろ鳥の鳴き声も全く聞こえないくらい静かで静かすぎて逆に怖い。
「もう帰ったんじゃないんですか?」
「いや、いるね」
アドルフはそう言って家の扉を開けて、私が先に入るように促す。
アドルフは普段は気遣い屋さんだけど、異界の事になるとどうも興奮してしまうらしい。
本人は言い訳せず私に謝ってきたけど、ラルゴがそう補足した。
家の中に入ると師匠が朝食を作っており、「水は?」と聞かれ言葉に詰まっていると「後で俺が行く」とアドルフが言ってくれた。
師匠はそのことについては特に何も言わず、ラルゴを起こしてくるようにと私に言った。
私は返事をして、朝に弱いラルゴを起こしに行った。
「ラールッゴくーん、師匠がラルゴくんへの愛たっっっぷりの朝食、作ってくれたよ~!」
昼過ぎ、今日も師匠お手製の薬を飲んだりラルゴに火傷の跡を魔術で治療してもらっていると、外からアドルフの怒鳴り声が聞こえた。
誰かと言い争っているみたいだ。
何があったのだろうとラルゴと怒鳴り声が聞こえた方、玄関横の窓から外を覗いてみた。
窓から見えたのは両手にバケツを持ったアドルフとエセ勇者野郎だった。
マジでついて来てたのか。
「何度言ったら分かる。帰れ!ドラゴン退治なんて馬鹿げた事言ってないで仕事探してろよ、ニートが!!」
「俺の仕事はドラゴン退治ただ一つだ。ドラゴンを倒して英雄になる!」
「寝言は寝て言え、勇者気取り」
「勇者気取りじゃない。俺は勇者だ!勇者には強い騎士や魔術師が必要だと聞いた。旅の中で探せとも言われた。だから俺は、お前を仲間にしたい!」
「お前がしたくても、俺は一生されたくない」
「ドラゴンが怖いからか?確かに、俺は一度手合わせした事があるがかなり手強かった。だが大丈夫だ。仲間がいればきっとドラゴンを倒せる!」
「だから!俺はそういうことを言ってるんじゃない!そもそも何でドラゴンを殺そうとする?ドラゴンが何をした!!」
「ドラゴンが何をしてきたか、お前は知らないのか?」
壁に叩きつけたことですか!?
でもあれは先に野郎が私に斬りつけてきたからで、正当防衛になるんじゃないかな?
この世界に正当防衛ってものが通用するならの話だけどさ。
アドルフと師匠には神殿前の闘技場で何があったのか、観客席で見ていたというラルゴと一緒に説明をした。
その時は大変だったなと私の味方だよ、的なことを言ってくれていた。
から、信じていいんだよね?アドルフ。
「ドラゴンは災厄だ。天候をも操り世界を狂わせ、人々の心までを変えてしまう。そして、人を食って生きる!」
「は?」
いやいやそんな能力無いですから!
そして人なんて食べろって言われても絶対食べません!
恐ろしい事をいうな!!
と全力で大声で突っ込みたいが此処にいる事がバレたくないのでなんとか自重する。
ていうかこれは何処情報なのよ?
「アドルフを仲間にしたければ、そうだな。手始めに夜、この家に近付く魔物がいればそれを狩れ。飯の材料にする」
突然2人の前に現れて勝手な話を進めようとしているのは、もちろん師匠だった。
相変わらず表情が乏しいため何を考えているのかが全く分からない。
いやもしかしたらかなりの年寄りらしいから、私にはその思考が全く理解出来ないのかもしれない。
「師匠!何勝手に話を進めてるんだ。ふざけ「分かった。魔物を狩れば良いんだな」」
「そうだ。魔物が出て来るまで私の邪魔にならない所にいろ」
「師匠!」
野郎はいやに素直に家の角に向って歩いていき、腰を下ろした。
あまりにも素直に師匠の指示をきいたので私もアドルフも唖然としてしまった。
だけど、師匠とラルゴは真面目腐った顔をしていた。