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異界のドラゴン 4

 

 この日私は、アドルフにでも水汲み当番を代わってもらえばよかったと後悔する。



「そこの娘。この辺りで黒くて恐ろしいドラゴンが飛ぶのを見なかったか?」


 森の奥にある綺麗な湖の水を木でできたバケツですくってついでに顔を洗っていると声をかけられた。

 森で暮らし始めて2週間以上が過ぎ、私が会ったことのある人は師匠とアドルフとラルゴだけ。

 もちろん家にドラゴン見たか聞きに来た兵士や野次は話してもないのでノーカンだ。

 真っ正面から、しかも師匠達がいないこの状況。

 仕方なしに対応することに決めた。

 視界が水でぼやけるので袖でゴシゴシと顔を拭き、声をかけてきたであろう人物の方を見る。


「ィヤーーー!!」


 そこに立っていたのは、数週間前私に剣をブッ刺した、野郎だった。


「あ、あんた!しし、死んだんじゃ?!」

「ん?もしかして娘は、観客席にいた人?あぁ、あの時は格好悪い所を見せちゃったね。でも大丈夫!次は絶対あんな醜態は見せないから。失望しないでくれ」


 ニカッと格好良く笑ってるけど私にとってはそれ、死の宣告ですよね。

 私がドラゴンだという事は野郎は知らないはずだから、仕方ないのかもしれない。

 だが知ってて言ったのだとしたら、殴りたい。


「では、私はこれで失礼します」


 あまり人と、特に私を殺そうとしてる人と関わるのは良くないだろうし、私が関わりたくない。

 水をくみなおし、怪しまれないように普通に歩き去ろう。


「待ってくれ」


 よし、走って逃げよう。

 野郎との距離は分からないそこそこ離れたはずだ。

 私はバケツをゆっくりと地面に置き、全力で走った。

 ロングスカートで走る事になったが、両端をつまみ上げれば、まぁマシだ。

 だが私の考えはかなり甘かったらしい。

 武装して重そうな格好をしているくせに私との距離はあっという間に縮まったのだ。

 体育の授業ではいつも女子の平均はキープしてる私より早いは、ドラゴンに叩きつけられた数日でドラゴン探しとか、どんな化け物だ!

 逃げてもこれは追いつかれるのが落ちだと気づき、足を止めて振り返る。

 相手は一応言葉の通じる人だ。


「何なんで「これ以上近付いたら敵と見なし、斬る!」」


 すか、という言葉は突然目の前に現れた大男、アドルフによって遮られた。


「アドルフさんどこから!」

「ラルゴの魔術でちょろっとね。それよりあんた、何者だ」


 野郎はいつの間にか私達と一定距離を保ち、剣を鞘から取り出した後だった。


「俺は勇者の称号を与えられた勇者だ!そしてドラゴンを倒し英雄になれば、王様から名を与えられる勇者だ!」


 どうしよう。

 勇者勇者連呼してるから馬鹿に見えてくるのは私だけかな。

 何?名前が勇者って人なの?


「へぇー、あんたがドラゴンに負けた勇者か。残念だが此処にはあんたが殺せるようなドラゴンはいない」

「ッ!なんだと、お前は何者だ!名を名乗れ!!」

「知りたければ、俺に勝つことだな」

「分かった。勝負だ!!」


 アドルフと自称勇者の野郎は共に走り出す。

 そして剣と剣が交じり合う。

 だが何度も何度も剣同士がぶつかり合うためなかなか決着がつかない。

 いつまで見てたら良いんだろう?う~んと思ってると、アドルフが動き出した。

 いや、さっきから動いてるけどさ。


「何!消えただと!?」


 アドルフは兎の姿に変身し野郎の脛を思いっきり蹴った。


「イ゛ッ!」


 痛がって少しうずくまった瞬間に背後に周り、人間の姿に戻ったアドルフが野郎の頭を剣を持っていない左手で押さえつけ、右手に持った剣を上から野郎に向けて地面へと突き刺した。

 野郎は驚いた顔で固まり、剣で斬られた右側の変に長かった髪を散らした。


「まだするか?」


 アドルフはニッと笑い、野郎が小刻みに頭を横に振ったのを見て、笑顔でこちらを向く。


「イエーイ!仇はうったぜ、ヤマダちゃん」

「それより服、服着て下さい!」


 もちろん、姿を変えたのだ。

 アドルフの変身は人間の姿より小さくなるため服を破く事はないが、全裸である。

 勝負に勝って笑顔で近づかれても変態としか言いようがない。

 今だに地面に突き刺さったままの剣の横で固まる野郎を横目にアドルフは服を着る。


「どうだ?俺、結構強いだろ」

「うん。身体が無駄にデカいだけじゃないってよく分かった」

「じゃあ、戻るか」

「うん」


 あ、そういえばバケツ忘れてた。

 取りに戻るのは面倒だが、仕方ないか。


「待ってくれ!」


 取りに戻ろうと振り返ると、こちらを睨む野郎が立っていた。


「見た所、剣の腕がいい。それに、魔術も使えると見た。なぁ、俺の仲間になって、ドラゴンを一緒に倒さないか!」


 こいつは何も解っちゃいないのだ。

 私はイラッときたので、一言言ってから帰る事にした。



「黙れ、エセ勇者野郎!」



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