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勇者伝説 〜人の業の巻〜

「覚悟しろ! 魔王!」


白銀の鎧に白いマントと、いかにも勇者の風体の少年が言った。


「ふはははは! 俺に勝てると思っているのか!」


仮面の男が言い返す。

勇者風の少年とは逆に、全身が黒色の装備をした魔王風味だ。


「オレはな、この日のためにレベルを575まで上げてきたんだ」


「え? うそ、マジで!? なんで? 魔王の俺が505なのに……」


「ビビッてやがるな? 勇者に不可能は――」


チュボォォォォォォォォォォン!!


台詞の途中で魔王が先制。ここまで汚い魔王も珍しい。


「はっ! このひょーろく玉がぁ! 魔王をナメるな! …………何!?」


モクモクとした煙が除かれると、そこには人影。


「正義の心はレベルの差も克服する」


実際はレベルの差を克服したのはレベルだ。


「滅びよ! 魔王!」


勇者は禍々しいガトリングを取出し、トリガーを引き絞った。


「ぐおっ!」


魔王が現代兵器の前になす術べもない。


「とどめだっ!」


勇者がバタフライナイフを展開し切り掛かる。


ドカ! バキ! グサ! ズビシャ!


凄まじい連撃。

忽ち勇者は瀕死の状態となった。


「ぐはっ! つ、つよ……。なぜ栓抜きが武器のアホ魔王に勝てんのだ……」


「さらばだ。65人目の勇者よ」


勇者の目の前が真っ暗になった。

…………

……



「さっさと起きなさーい!」


勇者(LV1)は目を覚ました。


「母さん!? こ、ここは……?」


「自分の家よ。あんたは魔王に負けたの。65回目の勝負にね」


「そんな!? じゃあオレはなんで助かったんだ?」


「念のため、あんたのクローンを保存してたのよ。65回目なんだから、いい加減に気付きなさい」


「そんなの有りかよ? いったい何のためのファンタジーなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」


母さん(LV75000)は無視して部屋を出た。

勇者が慌てて後を追う。


「待ってくれよ。クローンなのに記憶が鮮明すぎる。魔王に殺された記憶を出来れば消してほしい胸中だし」


「最先端のテクノロジーに不可能はないのよ」


「ファンタジーだよ!? 母さん!」


「ガトリングを使う勇者に言われたくないわ」


「でもファンタジーなんだ!」


「お黙りっ!」


怒鳴られたので、勇者は仕方なく口をつぐんだ。



朝食時――


「こっちのがレベルが70も高かったのに、何で勝てないんだ……? ちくしょう!」


母子家庭にしては豪華の食卓を挟み(本当は囲みだが人数の関係でこっちのが正しそう)ながら、勇者。


「基礎能力が違うからよ。あんたと魔王は同レベルだと100倍くらいステータスの差あるし」


「でも、ステータスの差なんて正義の心があれば埋められる!」


「馬鹿! ステータスに反映されない意味不明な特殊能力はゴミよ。それに今時、熱血なんて流行らないから、そんな心は質屋にでも換金して来なさい」


「それでも正義の心は――」


「織田真理っ!」


謎の女性の名を叫ばれたので、勇者は仕方なく口をつぐんだ。



早朝訓練時――


「あんたは勇者だけど、レベルのどうこうを抜きにして根本的に弱すぎるの。だから、ちょっとやそっとレベルを上げても結果は同じ」


母子家庭にしては大きな家の前で、母さんはきっぱりと言った。


ポチッ!


それからリモコンで勇者のレベルを100まで上げる。


「母さん!? 便利すぎるよ!」


「いいのよ。みんな使ってるから」


「全国の子供たちの夢が……」


「そんなもの知ったこっちゃないわよ」


ファンタジー世界を何もかも蹂躙した母さんは身構えた。


「これから訓練を行なうけど、本気でやらないと死ぬから。そのつもりで」


「えぇっ!? だって母さんのレベルって……」


「問答無用。始め!」


勇者は拳を構える。

だが次には、母さんが小さく一言だけ呟いた。


「死になさい」


勇者は地面に倒れた。母さんは呟いただけで何もしていないのに。

目の前が真っ暗になった。



「早く起きなさい」


勇者(LV1)は目を覚ました。


「これで66回目のクローン誕生よ。ギネスに載るわ」


「そんなことより、母さん強すぎ! 声で死んじゃったよ!?」


「レベル74900の差だからこその芸当ね」


「あれじゃあ、人間と戦闘民族のお猿さんの勝負じゃないか」


「分かったでしょ? あんたが根本的に弱すぎることが」


「逆に実感が湧かないって!」



昼食時――


「今から基礎能力なんて上げる暇ないし、どう上げたらいいか分からないし」


なぜだか急に質素な食事を挟みながら、勇者。


「じゃあ、魔王と同等の能力になれるレベルまで上げる?」


ピッ!

勇者のレベルが50500となった。


「ねぇ、母さん。これって一種のジョブ・キラーだよね?」


「あんたって、ニートじゃなかったっけ?」


「えぇっ! 魔王と果てしない戦いをする勇敢な少年を捉まえて!?」


「あんたのクローンって高いのよ? 勇者だし。魔王の城のザコ敵10000匹分から掠め取ったお金で一体よ」


「お世話になってます」



昼の会議――

家の前にあるウッドデッキで寛ぎながら母さんが口を開いた。


「しょうがないから、魔王を倒す最終手段を使うしかないわね」


「そんなのあるの?」


「勇者の遺伝子を最強の女戦士に人工授精するのよ。そこから遺伝子操作で優れた人間を生み出す」


「いやいやいやいやいやいやいや……」


「目標は『頭上で不思議な実が割れて覚醒する子』よ! これが私の夢、私の望み――」


「勇者であることだけが、オレの全てじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」



夕方、旅立ち――


「また行くのね?」


心配そうな母さん。


「今度は大丈夫。奴のレベルの100倍はあるから」


「これを持っていきなさい。我が家に伝わる伝説の剣よ」


勇者が渡されたのは、刀身のない50cmぐらいの柄の部分だった。


「これ、刃がないじゃないか」


「こうするのよ。はああああああああああ!」


それっぽく気合いを入れると、柄の部分から光の剣が出現した。

剣といっても先端が丸い。非常に、あの有名な武器と酷似している。


「母さん。この武器やばいって……」


「平気よ。あんた勇者なんだし」


勇者と云う言葉はとても便利だ。



夜。魔王城での決戦――


「ふはははは! 俺に勝てると思っているのか!」


「まだ何も言ってねえよ!」


「はっ! このひょーろく玉がぁ! 魔王をナメるな!」


栓抜きを装備した見てくれアホ魔王は、好き勝手に場面を飛ばす。


「くそっ! 話を合わせるしかないか! ……正義の心はレベルの差も克服する」


「ぐおっ!」


「まだ何もしてないって! ……えーと、とどめだ!」


ザクッ!


光の剣を魔王に突き刺した。


「うがああああああああああああああああ!!」


魔王は地面に倒れる。


「勝っちゃったよ!?」


〜リプレイ〜


「とどめだ! ひゃーはっはっはっはっはっ!」


ザクザクザクザクザクザクッ!


勇者は絶望と混沌が渦巻く邪悪な瞳で容赦なく魔王を突き刺し、次にその血に塗れた手で魔王の分解を、高らかな笑い声を上げながら始めた。


「うがああああああああああああああああ!!」


魔王は地面に倒れる。

しかし勇者は攻撃を止めない。


「狩ったよ! でも足らねえ! 足らねえよぉ! ひゃーはっはっはっ!」


〜リプレイ終了〜


「ちょいと待てぇい! なんだこの極悪人!? やば過ぎだろ!」


「実は、俺はお前の父親だ……」


全く周りと合わないタイミングで、魔王が勝手にカミングアウトし始める。

仮面を外すと、どこかのオッサンが現れた。


「何でだよ!? 何でこんなことを……?」


「すま……ない。こうするし……か、道はなかっ……た……」


自称、父さんが吐血。


「もういいよ! それ以上しゃべるな!」


「最後に……、聞いて……くれ……。実は……」


勇者は父さんの言葉を深く心に刻んだ。



16年後――


「それじゃ、軽く魔王をボコボコにしてくるか」


勇者(LV1)は何も持たずに家を出た。


「待ちなさい」


お祖母さん(LV75000)が勇者を引き止めた。

お祖母さんはリモコンを取出し、ボタンを押す。すると勇者のレベルが100になった。


「これでわたしよりも強くなったわ。さあ、行きなさい」


勇者は背中から翼を生やし、魔王城へと飛び立った。



決戦、魔王城――


「実は、オレはお前の父親だ……」


魔王(LV50500)は、もうカミングアウトしてしまった。


「関係ないね。滅びろ!」


勇者は冷酷に告げた。

その後、魔王を瀕死の状態にしてから回復を100回は繰り返した。


「すま……ない。こうするし……か、道はなかっ……た……」


「…………」


「最後に……、聞いて……くれ……。実は魔王を倒した奴は、強制的に次の魔王の権利を取得させられる。しかも魔王城は一生払えなそうな額のローンがある。オレは俺の父――前の魔王と同様、魔王城のローンの支払いが出来ずに、ずっとこのバイトを……」


そこまで言うと、魔王は力尽きた。


「…………。関係ないね」



その一言は、魔王が世界から消え去り、世の中に平和が訪れた瞬間だ。



――と、曾婆さんは語った。

ご意見、ご感想など何かありましたら、宜しくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] へたへたへたへたへたへたへた 111111
[一言] すっごく楽しませていただきました(笑)。単なるハチャメチャじゃなく、ありそうな裏技を登場人物自信が行っているそのさまが臨場感があって面白かったです♪
2006/05/22 12:43 さすらい物書き
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