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ひいじいちゃんと「は行」

作者: おうすい
掲載日:2026/06/06

子どもの頃、熱を出して寝込んだことがある。

たぶん夏風邪だったと思う。

父も母も祖母も留守で、代わりに来てくれたのは、めったに会うことのない母方のひいじいちゃんだった。

母は薬のことや、りんごの置き場所なんかを慌ただしく説明すると、仕事へ出ていった。

ひいじいちゃんと、二人きりになった。

薬が効いてきたのか、苦しさはなかった。

ただ、熱のせいで頭がぼんやりしていたのだろう。

うっすら目を開けると、ひいじいちゃんが近くで竹を割いていた。

鎌のような刃物を器用に使い、黙々と竹を削っている。

何を作っているのだろうと思いながら、私はまた眠った。

しばらくして目を覚ますと、切ったりんごを差し出してくれた。

「んっ」

そう言っただけだった。

りんごを食べ終わると、今度は弓と矢を渡してくれた。

いつの間に作ったのか、さっきまで竹だったものが立派な弓矢になっていた。

熱でぼんやりしていた子どもの私には、それが魔法のように思えた。

熱も下がってきたのか、私はすっかり元気になり、さっそく弓を引いてみた。

だが、思うように飛ばない。

すると、ひいじいちゃんは首をかしげながら、

「はあ」

と言った。

もう一度やってみても飛ばない。

今度は、

「ふう」

と困ったような顔をする。

何度か繰り返し、ようやく少し飛んだ。

すると、

「へぇ」

と、うれしそうな声を出した。

うれしくなった私は、あれこれ話しかけた。

ひいじいちゃんの返事は、ほとんど「は行」で終わる。

「はあ」

「ふう」

「へぇ」

「ひっ」

「ほっ」

思い返してみても、ちゃんと会話は成立していた。

なかでも私が好きだったのは、

「ほっ」

だった。

驚いたような、何かに気づいたような、とぼけたような顔になる。

その顔がおかしくて、私は何度も話しかけた。

すると、ひいじいちゃんはそのたびに、

「ほっ」

と言ってくれた。

そうしているうちに母が帰ってきた。

ひいじいちゃんは、私の熱のことや様子を普通に話していた。

子どもの私は、それが少し不思議だった。

ぼんやりした頭で、

今度会ったら、「あ行」だけで話してもらおう。

そんなことを考えていた気がする。

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