最終章 家族
気づいたとき。
私は立っていた。
どこなのか分からない。
空も、地面もない。
ただ。
黒い空間が広がっている。
静かだった。
風もない。
音もない。
でも。
そこには、たくさんの影が立っていた。
無数の影。
何百。
何千。
もしかしたら、もっと。
誰も動かない。
誰も喋らない。
ただ。
そこに立っている。
ずっと。
私はゆっくり歩き出す。
足音は聞こえない。
影の間を通り抜ける。
どの影も、顔がない。
ただの人の形。
でも。
なぜか分かる。
ここにいる人たちはみんな。
誰かに忘れられた人たち。
私は歩き続ける。
そして。
その中に。
三つの影を見つけた。
並んで立っている。
大人の影。
その隣に、もう一つ。
そして。
その間に、小さな影。
私は立ち止まる。
胸の奥が、強く痛んだ。
理由は分からない。
でも。
涙が出そうになる。
その時。
一つの影がゆっくり顔を上げた。
顔は見えない。
でも。
なぜか分かる。
私は小さく呟く。
「……お父さん」
もう一つの影を見る。
胸が締めつけられる。
「……お母さん」
二つの影が、ゆっくり私を見る。
そして。
手を差し出した。
私はその手を見る。
少し震えている。
私は思い出す。
あの夜。
翔太と手を繋いで眠ったこと。
「こうしてれば離れない」
その言葉。
でも。
翔太は忘れた。
みんな忘れた。
私は。
ずっと。
一人だった。
私はゆっくり手を伸ばす。
父の手。
母の手。
そして。
三人の手が繋がる。
その瞬間。
胸の奥の痛みが消えた。
私は小さく笑う。
「……やっと」
声が少し震える。
「家族になれた」
周りの影がゆっくり揺れる。
黒い空間が、静かに広がる。
三人の影は、少しずつ溶けていく。
周りの影の中へ。
ゆっくり。
静かに。
消えていく。
最後に。
誰かの声が聞こえた気がした。
とても小さな声。
でも。
はっきり聞こえた。
「またどこかで」
その日。
どこかでまた、誰かが孤独になった。




